二次創作小説(紙ほか)
- 第50話 ( No.148 )
- 日時: 2013/04/04 21:10
- 名前: 時橋 翔也 (ID: ftDNog01)
放課後。当番も何も無かった海音は、部活までまだ時間があるので取り合えず校舎内をふらついていた。今日は久しぶりに直矢に会いに行こうか…。このところサッカー部の練習が忙しく、全く会いに行けていなかったから。
そんなことを考えながら廊下を歩いていた時だった。
「…あ…」
思わず海音は声をあげる。向こうに剣城が歩いていくのが見えた。剣城はすぐ横にある階段を上がっていった。…確かあの階段の先は、この学校の屋上だ。
『…あの屋上、今は立ち入り禁止じゃなかったか?』
するとレインは指摘する。
つい最近、屋上の鉄柵の一部が壊れて外れてしまったため、危ないということから新たな鉄柵が設置されるまで立ち入り禁止となっていたのだ。
わざわざ立ち入り禁止の場所へ何の用だろう…。海音の中に疑問が沸き起こる。
「…レイン行ってみよ」
『構わないが…。くれぐれも様子を見るだけだぞ』
「うん…」
レインにそう言われながら、海音は剣城の後を追い『立ち入り禁止』と書かれ階段の前に置かれた看板を退かして階段を上がっていった。
屋上へ出るドアは重たいと生徒達からは不評だ。海音もその通りだなと思いながら、重たいドアのドアノブを掴み音を立てないようにドアを力一杯押すように開く。
朝に降った雨のせいで幾つも水溜まりが出来ている屋上の、右側の鉄柵の近くに剣城が立っていた。
こちらに背を向けている剣城は携帯で誰かと話をしているようだ。恐らくはフィフスセクター…。海音はドアをさらに押して身体の半分を屋上へ入れて剣城を見た。
「———はい。…まだ契約は続いていますよね?」
『辛うじてだがな。…次は無いと思え、兄の未来のためにも』
兄の未来のためにも。その言葉に、海音は以前病院で合った剣城の兄の優一を思い出す。未来とはどういうことだ?
『…兄のあの足は、お前のせいだと言うことを忘れるな』
電話の相手は剣城にそう告げた。海音には始め、その意味がよくわからなかった。
優一のあの動かない足は…剣城が原因だと言うことだろうか…。
———そう思った次の瞬間。海音の頭の中に、不思議な映像が流れ込んできた。
「え…?」
どこかの公園。人が何人も居るなか、二人の幼い少年がサッカーをしていた。
藍色の髪をした二人の少年。恐らくは兄弟のようだ。ノイズが酷くて声までは聞き取れないが、何かを言いながらサッカーをしている。何かの必殺技の真似らしい。
すると、恐らく弟の方であろう幼い少年が蹴り飛ばしたボールが、樹の枝に引っ掛かってしまった———。
海音は映像の方に気を取られ、身体に力が入らず前屈みになり思わず倒れそうになる。
「うわっ!」
映像の羅列が止まり、海音は体勢を立て直すべく足を踏み出し、屋上へ完全に入ってしまう。
すると海音によって開いていた重たいドアが勢いよく閉まり、大きな音が屋上に響き渡った。
「!?」
剣城は驚いて携帯を切り、後ろを振り返った。そこにいたのは、少し不自然な体勢で何とか倒れずに済んだ海音。
「雪雨…」
「……!」
海音の頬に冷や汗が垂れる。まずい、自分が居たのがバレてしまった。
パタン!とわざとらしく音を立て剣城は携帯を畳み海音を思いきり睨み付ける。
「雪雨…。聞いたのか…?」
「…!?」
どうやら相当聞かれたく無かった事らしい。それでも知りたかったし、知らないといけないことだったんだと思う。
そんな事を言った所で、今の剣城は耳を貸さないだろう。剣城は海音を睨み付け、じりじりと威嚇するかのように少しずつこちらへと近づいてくる。
「聞いたのか…?」
「つ、剣城…」
「答えろよ!」
海音は本能的に後ろへと下がっていく。次第に剣城に追い詰められる。
…どうする、『力』を使うか?だがその考えはすぐに取り消した。人を…剣城を傷つけたく無かったのだ。
剣城は突然素早く移動し、海音の右腕を掴んだ。昨日の龍崎ほどではないが、すごい力だ。
「…答えろ、どこから聞いた?」
「……え、っと…」
すでに剣城は海音のすぐ前に迫っていた。海音が女子だと言うことを気にしていないくらい近い。
するとこの事態に苛ついたのか、レインが海音を押し退けて出てくる。
「答えたらどうする?」
「…答えにもよる」
剣城は即答する。その目は本気そのものだった。
ふっ、とレインは嘲笑った。海音はレインのこの笑いが理解出来ない。剣城は更にこちらを睨み付ける。
「何が可笑しい!…お前今の状況を理解しているのか?」
「理解していたらどうする?」
レインは剣城に問い返す。剣城の表情が少しだけ変わったのも気に止めず、レインは続ける。
「———そんなに海音に知られたくないか?兄の選手生命を奪った自分を」
海音はその意味がイマイチ理解出来ない。剣城と兄は仲が良かったようだし、兄は剣城に対して負の感情も抱いていなかったように見えたのだ。
だが海音が理解するより、剣城の方が早かった。
「…俺の過去を悟るなッ!!!!」
そう叫んだ刹那、剣城は青ざめ海音を思いきり押した。力一杯、まるで何かから逃げるように。
普通の人ならそこで倒れるのが普通だろう。だが海音は何とか立っていようと後ろへ後ろへ思いきり下がっていく。
途端に海音は、その先に何もないことに気づいた。
「…あ」
海音はこの屋上が、柵が壊れたため立ち入り禁止となったことを思い出す。だが思い出した時にはすでに遅かった。
何もない空中に放り出され、海音の身体は屋上の上から遥か下の地面へと落ちていくのを感じる。幽体離脱していないため、飛ぶことなど夢のまた夢だ。
「…雪雨ッ!!」
我に返った剣城の叫び声。
それを聞いた瞬間、海音は目の前が真っ暗になった。