二次創作小説(紙ほか)
- 第51話 ( No.151 )
- 日時: 2013/04/05 21:46
- 名前: 時橋 翔也 (ID: 8keOW9sU)
いつの間にか、海音は見覚えのある森の中に立っていた。神秘的な雰囲気を漂わせるこの森は間違いなく…。
「海音」
声がして海音は振り返る。そこには以前出会った少年が立っていた。
「シュ……」
海音は嬉しそうにシュウの名を呼ぼうとしたが、止まった。
シュウの横にいたのは、まるで本の中にいるような真っ白で美しい竜だった。長い二本の角とひげに四本の足を持っている。
「竜…!?」
驚いて海音は竜を見つめた。竜もその金色の目で海音を見ている。
「彼が君を助けたんだ。死にかけた魂をここに連れてきてね…危なかったよ、あんなところから落ちるなんて」
するとシュウは竜と海音を交互に見ながら言った。…と言うことはまだ自分は死んでいないのだろう。
海音は竜を見つめた。この竜はそこまで大きくない。
「ありがとうね、助けてくれて」
「………」
竜は海音のその言葉を聞いて満足したのか、翼も無いのにまるで空を泳ぐように飛び去ってしまった。
「…あれが、竜の一族?」
「そうだよ。…まあ彼は訳ありだけどね」
シュウは竜を見送りながら言った。訳ありと言うのが気になるが、海音は聞きたい事がありシュウを見つめた。
「シュウ、あのねボク…」
「…海音わかってるよ、君が言いたいこと」
シュウは海音の言葉を遮った。本当にシュウは何でも知っているんだな。
「…シュウ、何か剣城を見ていたら突然、見覚えのない映像が流れ込んできて…」
「……『共鳴現象』だよ」
シュウは言った。共鳴現象?聞きなれない言葉だったが、シュウは説明する。
「化身使い同士で起こるのさ。…化身を通して、その人の過去を見ることがある」
と言うことは、あれは剣城の過去だったのだろうか。もしかしたらレインがさっき言っていた言葉の意味も…。
「…でも、君が見たのはごく一部。君が本当に剣城を知りたいならレインを通して見てみるといいよ」
「………」
レインを通して…か。
「あと君、幽体離脱出来るようになったようだね」
シュウに言われ、驚いて海音はシュウを見た。
「知ってるの?」
「もちろんさ、僕は何でも知ってるよ…幽体離脱は君も気づいているだろうけど、この森に君の魂が来たことがきっかけだ。この森に来ることはすなわち、魂が身体から離れている事を意味するから」
魂?と言うことはこれは夢では無いのだろうか。だが同時に納得もしていた。夢にしては現実味がありすぎると感じていたのだから。
「…だからレインは幽体離脱出来ないの?」
「それもあるよ。…でも、一番の理由はそれじゃない」
一番の理由?海音が聞き返すと、シュウは答えた。
「…レインは君の身体に定着していて、離れる事が出来ないからさ」
「定着…」
おかしな話だなとも思った。本来自分のものである身体から、本人は離れられても住人は離れられないなんて———。
「…海音は、どうして人が化身を持つようになるのかわかる?」
すると突然、シュウはそんなことを訪ねてきた。
初めは意味がわからなかったが、海音は口を開く。
「強くなりたいと思うから…」
「ううん、それは二番目…。化身使いになるのにあたって、絶対に欠かすことのできない条件が存在するんだ」
シュウは言った。海音にはそれがなんなのか検討もつかなかった。
「シュウ…それは何なの?」
「…次に来たときに教えてあげるよ…」
* * *
「———!——きてよ!ねぇ海音っ!!」
次第に回復していく意識の中で、聞き覚えのある声がうっすらと聞こえてくる。虚空を見つめていた瞳には、自分を囲むようにして覗き込んで来る人影もまるで闇が晴れていくように見え始めた。——天馬?そう思った瞬間。
「……ッ!!」
思わず海音は勢いよく起き上がり、周りから驚きの声が上がった。ここはどこだろう…。辺りを見回すとそこは外だった。上を見上げると柵がない屋上…どうやらあそこから落ちてきてそのままだったらしい。
「海音…」
すぐ横を見ると、霧野と神童が心配そうに海音を見つめていた。頭を打ったのか、魂があの森に言っていたせいかはわからないが、まだぼーっとする。
だがそれも一瞬で吹き飛んでしまった。
「海音!!」
そう叫ばれ、いきなり海音に何かが抱きついてきた。強く抱き締められ、驚いて海音はその人物を見つめる。
「てっ…天馬!?」
「よかったっ…!生きてて!」
天馬は海音が女子だということを知らないのだ。もし女子だと知っていたらこんなことはしないだろう。
「て、んま…苦しい…」
「あっ、ごめんね!」
親友の声がして、天馬はあわてて身体を放した。
すると突然海音は右肩を手で掴まれ、振り返ると神童が真剣な顔でこちらを見ていた。
「海音…、屋上で何があったんだ?」
普通屋上から落ちると言えば自殺の定番だ。しかしまさか海音が自殺を考えるなど思ってもいないだろうし、自殺ではなかったという前提で話をしている。
海音は神童から目をそらした。剣城に押されて落ちたとは言えそうにない。もし言えば、万能坂戦の事があるとはいえ、更に剣城は部活から孤立してしまう。
下手をしたら、退学にもなりかねない。
「………」
「…海音?」
「……あはは、ボクの不注意ですよ…ただの」
海音はそう言って誤魔化した。神童は少し訝しげにこちらを見る。当然だ、不注意にしては余りにも度が過ぎているのだから。
すると霧野はため息をついた。
「…お前も最近怪我してばかりだな」
「取り合えず保健室行こうよ」
天馬に言われ、頷き海音はゆっくりと立ち上がる。
…剣城はどこに行ったのかな、そんなことも考えながら。