二次創作小説(紙ほか)
- 第52話 ( No.156 )
- 日時: 2013/04/12 21:22
- 名前: 時橋 翔也 (ID: bHw0a2RH)
天馬に連れられ保健室に行って診てもらった結果、海音はあの高さから落ちながらも対した外傷もなく、強いていえば膝を擦りむいた程度で済んだ。
もしかしたらこれもあの竜のおかげかもしれない…。海音はそんなことを考えながら失礼しました!と言い、保健室を出ていった。
『部活に行くのか?』
「うん、…」
よく考えたら、屋上から落ちたのはレインが原因だと思うのだが、それはあえて指摘しなかった。
代わりに海音はレインに聞きたいことがありそれを訪ねてみる。
「…レインは見たの?剣城の過去…」
『………』
少し間を置き、レインは
『ああ、見たぞ』
そう答えた。
やっぱりね、そう思いながら海音はレインに語りかける。
「友達から聞いたんだ。…化身の共鳴現象だって」
『………』
だがするとレインは何も話さなくなってしまった。
海音はよくわからなかったが、話したくない事かもしれないと海音も問い詰めはしなかった。
「………」
サッカー棟の前にやって来ると、海音は一度立ち止まった。アルティメットサンダーはどこまで進んだのだろうか…。
———見てみよう。
海音は『力』を使いサッカー棟の人々の様子を見てみる。見てみると言っても、はっきり見える訳ではなく能力や行動を感じとり推測するだけなのだが。
屋内グラウンドにて、神童がアルティメットサンダーを発動させた…が失敗した。今ならよくわかるが、アルティメットサンダーを発動させるのにあたって足りないのは『キック力』だ。
もし怪我が開かなければ、きっと自分でもアルティメットサンダーを発動出来るのに…。悔しさが海音の中で沸き起こる。
「………」
一度『力』を使うのを止め、海音はあることを思い浮かべる。…もしかしたら、剣城ならアルティメットサンダーを…。
「あれ…海音?」
すると後ろから声がした。振り返るとそこに立っていたのは、サッカーボールを持った天馬だった。
「天馬…どうしたの?」
「ボールが足りなくなったから第二グラウンドへ取りに行ってたんだよ」
天馬は言った。ボールが足りなくなる事なんて珍しいと海音は思った。
「…海音…。俺達に隠し事してるでしょ」
天馬に指摘され、海音は驚きを隠せなかった。海音は目の色を変え天馬を見つめる。
「…わかるの?」
「そりゃわかるよ…。俺達『親友』だもん」
天馬はニッコリと笑った。その笑顔に海音の緊張が緩んでしまう。
「…ボクは、剣城の話を屋上でこっそり聞いたんだ…でも剣城に気づかれちゃって…」
「じゃあ海音は…剣城に…」
天馬は少し暗い表情になり、海音を見つめる。剣城が海音を突き落とすほど聞かれたく無かったことだろう。
少し考え、海音は改めて天馬をはっきりと見た。
「天馬、ボク…剣城に会ってくるよ、剣城なら…きっとアルティメットサンダーを完成できると思うんだ」
「ええ!?」
驚いて天馬は海音に声をあげる。だが続いて心配そうに海音を見た。
「…でも大丈夫なの?」
「大丈夫さ、きっとね!」
そう明るく言うと、海音は天馬の意見は聞かずにそのまま走り出した。あわてて天馬は走っていく海音を振り返るが、もう止められそうに無かった。
「…なんとかなるさ」
自分に言い聞かせるように、天馬は自分の口癖を呟いた。
* * *
やって来たのは病院だった。
これはあくまで直感だが、剣城が居るとしたらここしかないと海音は思っていた。
きっと天馬だったとしても、ここに来たことだろう。
病院の入り口の自動ドアが開かれ、海音はお決まりの薬品の匂いが漂うエントランスホールへと足を踏み入れる。即座に辺りを見回し、藍色ポニーテールの不良少年を探した。だが少年は見当たらない。
エレベーターは満員だったので、近くの階段を上がり二階へとやって来た。記憶をたどり、優一の病室へと真っ直ぐ向かう。
屋上での事もあったため、少しだけ気まずくも感じるが海音はそれを抑えて剣城を探した。
———すると向こう側の通路に、直矢が歩いているのが見えた。
「直矢…!」
病院内なので大きな声は出せないため、この声は自分自身にのみ聞こえるだけだった。もしかしたら直矢なら、剣城を見かけたかもしれない…。そう思い、海音は駆け出そうとした———時だった。
右腕を何者かに掴まれ、海音は止まる。
反射的に振り返ると、そこに立っていたのはずっと探していた藍色ポニーテールの不良少年だった。
「剣城…?っ!?」
海音の声など聞かず、剣城は海音を引っ張り近くにある細い通路に入っていった。電気が無いため薄暗く、この先にある用具室の前で止まった。
「…お前…無事だったのか」
安心したようなよくわからない表情で剣城は海音を振り返る。やはり剣城は罪悪感を感じていたのだろうか…。
「…剣城、あのさ…部活に来ない?」
海音は意を決して言い出した。剣城は意味がわからないという顔をしたが、海音は続ける。
「帝国に勝つために…とある必殺タクティクスの練習をしているんだ。…でも、ボクは怪我で激しいサッカーは出来ないし、キック力が足りなくて完成しないんだ!…でも君のキック力なら…」
「やめろッ!!」
剣城は叫んだ。病院内では静かにという兄の言いつけを破って。
「…あの試合で俺がお前らに味方したのは、ただ単にやつらがウザかったからだ!元からお前らに関わる気なんて無い!」
「…君は何で、気持ちを殺すの?」
海音は悲しげに訊ねる。素直な海音自身の気持ちだった。