二次創作小説(紙ほか)
- 第54話 ( No.160 )
- 日時: 2013/04/13 20:48
- 名前: 時橋 翔也 (ID: 4n3MlAWB)
今日はやけに左手首が痛む。
帝国の選手に帝国内部を案内されながら海音はそう思い、手首をさすった。出血は止まったが、痛みは止まらなかった。
「すごいね〜帝国って…」
海音の横で、天馬が辺りを見回しながらそう言った。それは他の部員も思っているようで、辺りを見ながら驚きの表情を隠しきれていない。まあこのような軍隊基地のような学校なんて初めてだからだろう。
海音は足を怪我しているため、円堂も始め試合をすすめてはこなかった。だがどうしても戦いたかったのだ。鬼道のチームと。
以前も見に来た帝国の屋内グラウンドにやって来る。すでに帝国イレブンは準備を始めていた。
「あ…」
帝国イレブンの中に紛れて、二人の人影が円堂と音無、それから海音の目に止まった。
一人は佐久間、そして長いドレッドヘアーに特徴的なゴーグルの青年。
「…鬼道…!」
「兄さん…」
「久しぶりだな、円堂」
雷門イレブンが近づいてくると、鬼道はこちらを向いて言った。かつて共に戦った仲間が今では敵…。その思いを噛み締めながら、円堂は鬼道を見つめる。
「…鬼道、何故お前がフィフスセクターに!」
「サッカーには管理が必要だ」
感情的になる円堂に対して、鬼道はあくまで冷静にそうはっきりと言った。
「フィフスセクターができる前…サッカーが価値や地位を決めていた。フィフスセクターができる前のサッカーがまともだったと言うのか?」
鬼道に容赦なく指摘され、円堂は言葉に詰まった。心のどこかで円堂もそれは感じていた。
イナズマジャパンが世界一になり、サッカーの人気が上がった。もちろんサッカーが広まるのは自分達にとっては喜ばしい事だった。
だが、その裏でサッカーの価値観は変わり始め、サッカー選手とそうでない者との人種格差が広がっていった。
——違う。自分達が世界一になって手に入れたものは、こんなものではなかった筈だ!!
「…鬼道、フィフスセクターが無くてもある筈だ。管理されなくても皆がサッカーを楽しめる方法が…!」
これが今の円堂の精一杯の言葉だった。
それを聞いた途端、鬼道は苦笑した。
「…やはりお前とは、サッカーでぶつかり合わねばわからないようだな」
ユニフォームに着替え、周りでは準備体操が始まる。屋内グラウンドだというのに、ギャラリーは満員に見えた。
「……」
結局、剣城は来なかった。だがまだ望みはある。そう信じよう…。
「雪雨」
聞いたことのある声。後ろを見てみると、以前に会った選手の姿があった。
「あ、龍崎さん…」
「…この試合、任せたぞ」
龍崎はそれだけを告げ、海音に背を向けて帝国のチームメイトの元へと戻っていった。
任せたぞ?ということは、龍崎さんまさか……———。
* * *
「…いいのか京介、試合に行かなくて…」
椅子に座っていた剣城は兄にそう言われ、少し焦るが、
「…あいつらなら、俺なしでも戦える」
そう言って何とかごまかした。
結局、昨日も今日も雷門へ足を運ぶことは無かった。昨日の海音の言葉が多少引っ掛かるが、これが最善の選択だと自分に言い聞かせる。
だが、少しだけ不安だ。
もしこれでフィフスセクターから契約を解約されたら…。
「………」
TVの向こうで試合が始まった。途端に外から気配を感じた。…あの人か、そう思い剣城は立ち上がった。
「…あー、この部屋暑いな。俺何か買ってくる」
至って普通にそう言ったつもりだった。だが優一にとってはかなり不自然に思えた。
剣城は部屋から出ていった。優一はその背を少し訝しげに見つめ、同じく剣城の後を追い部屋を出た。
…最近様子がおかしいのだ。サッカーの事は一切話さないし、元気も無かった。
すると向こうに剣城の姿が見えた。見知らぬ人と話をしている。近くの曲がり角に隠れ優一は剣城の方を見た。
「…剣城くん何故試合に出ないのですか?我々フィフスセクターは雷門…、特に雪雨を潰すように命令したはずですが」
一瞬、その意味が理解できなかった。理解したくなかっただけかもしれない。
「え…?」
海音くんを…潰す?だが優一の疑問など知りもせず、二人の会話は進んでいく。
「…俺が出なくても、雷門はきっと負けます 帝国は強いので」
剣城は言った。この際雷門が勝とうが帝国が勝とうが、不安な事には変わり無かった。
「だといいですがね、もし雷門が勝てば、お兄さんの手術費は諦めてもらいます」
頭をハンマーで殴られたような衝撃がした気がした。目の色が変わり、冷や汗が頬をつたる。
「…京…介……」
信じられない。信じたくない。
優一はそんな思いを胸に、気づかれないよう病室へと戻っていった。
* * *
「…いい?帝国は強いわ。天才ゲームメーカーの兄が指揮を取っているからなおさらね」
音無はチームの皆にそう告げた。兄がフィフスセクターに居るという事実が未だに信じられていなかった。だがそれは海音も同じだった。
「…夜桜は知ってたのかな、この事」
海音は悲しげに呟いた。
「先輩、…楽しみましょう、サッカー」
「ああ…」
雅野に言われ、龍崎は腕を組みながら頷いた。雅野は純粋にサッカーを楽しみたいと思っている…自分がシードなのを知らずに。
「………」
シードだと知ったら悲しむだろうか。そんな罪悪感が募るが、表情には出さなかった。
「…円堂、お前の覚悟見せてもらう」
それぞれが持ち場につき、試合開始のホイッスルが鳴り響いた途端、鬼道は円堂のほうを見つめてそう呟いた。