二次創作小説(紙ほか)

第55話 ( No.163 )
日時: 2013/04/15 21:20
名前: 時橋 翔也 (ID: oMcZVhE7)


 海音からのキックオフ。

 剣城の居ない雷門はエースストライカー抜きで試合を開始することとなった。

「倉間先輩ッ!」
 さっそく海音は倉間へとロングパスを出した。だがその時。
 帝国の一人が素早くボールを奪っていってしまった。
「なっ…!?」
「…速い!」
 苦々しく海音は呟いた。

 帝国のパス回しは雷門の本気のDF陣を軽々と突破していき、あっという間に三国が待ち構えるゴール前にやって来た。
 DF達が止める間もなく、帝国の選手が渾身のシュートを放つ。

「ぐっ…!」

 対する三国も力一杯シュートを止めた。何とか威力は相殺され、うずくまる三国の中にボールが収まる。
 だが技術の差は一目瞭然だった。

「…守りを固めた方がいいな」
 三国の姿を見て車田は呟いた。それは誰もが思っている事でもある。
 しかし、守っているだけではダメだ。

「神のタクト!」

 ボールが天馬へと投げられた途端に、神童は手を振り上げ金色の線を出現させた。
 攻撃は最大の防御。神童の必殺タクティクスに導かれ、天馬は海音へとパスを出す。

「…いくよ、レイン」
 海音は呟き、『レベル1』のリンクを開始した。化身のオーラを薄く纏ってのパワーアップだ。

 誰にもパスを出さず、独断で帝国のDF陣へと突っ込んでいく。
 そんな海音の目の前に立ちはだかったのは、帝国DF陣の要である龍崎だった。
「龍崎さん…」
「………」
 だが今は敵だ。そう思い海音は龍崎へと突っ込んでいくが、突破できずにボールを奪われた。

「…レベル1じゃダメか…」

 向こうへパス回しで遠ざかっていくボールを見つめながら海音は呟いた。だからと言って前回の事もあり、血を持ってしてまで化身を使おうとは思わない。今度こそ出欠多量で死にかねない。

 どうする…どうする?


「仕方ない…皆!アルティメットサンダーだ!」


 すると神童の叫び声が聞こえた。
 昨日海音が見ていた時点では、まだ完成していなかった筈だ。
 そんな海音の疑問など知りもせず、アルティメットサンダーのメンバー達は着々と準備を進め始める。

 倉間がボールを奪い、アルティメットサンダーの初めである車田へパスを出した。
「いくぞ!アルティメットサンダー!」
 神童の叫びと共に、四人は神童へ向かって強力なバックパス。
 稲妻一色となったボールは神童へと飛んでいった。

「くっ…うわああああ!!」

 だが四人分のパワーがこもったボールを制御しきれず、ボールもろとも吹き飛ばされてしまった。やはり無理だったのだ。練習で成功しなかったのに…。
 
「神童!」
「大丈夫か!?」

「………」
 倒れこむ神童に駆け寄る霧野と浜野を見て、意を決した海音はボールの方向へと走り出した。

「レイン」
『…どうした?』
「ボク、剣城呼んでくる!だから後はお願いね!」
『なんだとッ!?』

 レインの言葉など聞かずに、海音は走ったまま幽体離脱した。いきなり身体の主導権を押し付けられ、レインはバランスを崩し転倒する。

「え、海音!?」

 その様子を見ていた天馬は走りながら声をあげる。周りの者たちには突然転んだ海音に対して言っていると思うだろうが、天馬は突然幽体離脱した海音に対してそう言った。

「ちょ…なんで海音出てったの!?」
「剣城を呼びに言ったのだ…バカ者が」
 天馬の手を借りて起き上がりながらレインは言った。すでに二人の目に海音の姿は見えなかった。

 仕方ない…。そう思ったレインは天馬を見つめた。
「おい少年!…天馬だったか。反撃ののろしだ、海音が居なくても戦うぞ」
 レインは言った。その瞳はまさしく『騎士』そのものだ。
 天馬はうん、と頷いた。
「わかった。…えっと…何て呼べばいい?」
「…レインだ。覚えておけ、少年」
「う、うん!わかったよ…レイン」

 天馬はレインと顔を見合わせ、二人は同時に走り出した。



 * * *



 話を終え、剣城は真っ直ぐ優一の病室へと戻っていく。そうだ、優一への償いの為にも…フィフスセクターに協力しないといけない。わかりきっている筈なのに…、何故ためらいがあるんだ?

 海音を潰さないと…兄さんは…。


「あ…京介くん?」

 すると突然自分の名を呼ばれ、剣城は後ろを見てみる。そこには以前に知り合った少年が立っていた。

「あなたは…直矢さん」
「久しぶりだね。俺はしょっちゅう優一さんに会ってるけど、京介くんは居なかったから」
 何も知らず直矢は微笑む。その笑顔が、逆に剣城の心に突き刺さるようだった。
 ——もし、自分が妹を傷つけようとしているなどと知ったら、どれほど悲しむだろうか。

 現に剣城は海音を傷つけた。いや、下手をしていたら殺していたかもしれない。———『あの時』のように。
 だが直矢の平然とした振るまいからして、どうやらその事を知らないようだった。

「海音元気?…最近部活忙しいみたいで全然来ないんだ」
「あ…はい、元気ですよ」
 剣城は少し冷や汗を掻きながらそう答える。怪我した、屋上から落ちたとはとても言い出せなかった。

 すると直矢は剣城を見つめ、少し寂しげに笑った。
 その意味が剣城には始めわからなかったが、直矢は告げた。
「…京介くん。海音の…そばにいてあげてくれないか?」
「え…?」
 さらに頭が混乱する。直矢が何を意図して言っているのか全くわからない。
 …それに、海音とは敵対しているのだから。

「海音は昔から無理ばかりするんだ。…俺も、アイツに何があったのか詳しくはわからないけどな」
「わからない…って、兄妹じゃないんですか?」
「…アイツとは血は繋がっていない。海音は俺の父さんの養子なんだよ」
 直矢は更に寂しげに笑う。その笑顔はどこか痛々しいが、同時に納得もしていた。
 海音と直矢は兄妹にしては、余りにも似ていなかったのだから。

「…でも、何で俺に…?」
「………」
 剣城に訪ねられ、悲しげに直矢は目線をあげた。


「…俺は、もうすぐアイツの前から姿を消すからさ」


 剣城は頭が真っ白になる。直矢がいう意味が嫌と言うほど明確に伝わってくる。
「直矢さん…それって…死…」
「………」
 直矢が何も言わないのが答えだった。違うと言ってほしかったのに。
「けど…兄さんは、直矢さん元気だって…」
「…あれは俺が嘘をついたからさ、検査のたび、俺の身体は確実に衰弱していると医者には言われてる……。…ホーリーロード終了まで生きられるかどうかってところかな」

 剣城は何も言えなかった。すると直矢は微笑み、
「…このことは秘密だからね?」
 そう言い残して剣城に背を向けて歩いていった。

 その背中すらも、酷く悲しげに見えた。