二次創作小説(紙ほか)

♪誕生日企画♪〜バースデー大作戦〜 ( No.171 )
日時: 2013/05/02 18:45
名前: 時橋 翔也 (ID: /qYuqRuj)



 『今日は用事があって雷門に来れない。済まないが練習は無しだ』


 部室へ足を踏み入れた海音と天馬が見たのは、テーブルの上に置かれていたメモ用紙。それには円堂の字でこう綴られていた。
 通りで皆着替えていないのか、と海音は周りの仲間たちフィフス反抗組を見つめて思った。
「…二回戦間近なのになあ…」
 呆れ顔で天馬は呟いた。

 この日二人は掃除当番だった為、かなり遅くに部室に来ていた。フィフス反抗組以外居ないのは、恐らくメモ用紙を先に見て先に帰っていったのだろう。
「…先輩達は帰らないんですか?」
「帰ってもすることないから、ここで雑談してたんだ」
 神童は言った。勉強はしないのだろうか?

 すると海音は何故だか違和感を感じて考え込む。あれ、今日って何かあったっけ…。
「どうしたの海音」
「いや…今日って何かあった気が…」
 不思議そうにこちらを見た信助に海音は言った。大切な日だった筈だが、思い出せない。

「あ、そう言えば今日はサスケの誕生日だ!」

 すると突然天馬は言った。誕生日?と三国は聞き返した。
「この日をサスケの誕生日って決めてるんです!」
 明るく天馬は答える。サスケは捨て犬だった為、正確な誕生日はわからないのだ。
 帰ったらお祝いだな〜。そう楽しそうに話す天馬をよそに、海音は誕生日という単語に引っ掛かっていた。
 誕生日…誕生日…———あっ。

「そうだ、今日って…」
「海音?」
 この上なく真っ青になった海音を天馬は見つめる。海音は天馬を見つめ、答えた。


 「今日って…直矢の誕生日だ」


 直矢という名前に、天馬は病室で出会ったあの温厚な性格のバスケ少年を思い出す今日がその直矢の…誕生日?
「直矢さんって今年で高1だよな、…16歳か」
 三国は言った。はい、と海音は頷いた。
「…あーあ、何で忘れてたのかなあ」
 そして溜め息。記憶力はかなり良い筈だが。
 忘れていたのだから、プレゼントもケーキも用意していない。それはこの場の全員が感じ取っている事だろう。

 やれやれ、とレインも呆れていた。
『で、どうするんだ?…あいつ昔から病気でまともに祝ってもらった事無いから、かなり楽しみにしていたじゃないか』
「うっ…」
 ドストライクで痛いところを突かれ、海音は反論の余地が見当たらない。直矢は再びバスケしようと必死に病気と戦っているのに、直矢の悲しそうな残念そうな顔は見たくない。

「じゃあ、このメンバーでお祝いしましょうよ!」

 すると天馬は嬉々として言った。メンバー達の視線が天馬に集まる。
「プレゼント買ってケーキ作って…直矢さんきっと喜びますよ!」
「そうだね!」
「いいな、それ」
 どうやら全員異存は無いらしく、次々と頷いていく。その様子に、海音は驚きと嬉しさ、そして感謝の気持ちを押さえきれなかった。

「すいませんっ、ありがとうございます!」
「気にしないでよ、俺も楽しみだし」
 天馬は言った。まさか自分の失敗がこのような結果となるとは…。
 だが何はともあれ、楽しそうな企画となりそうな事は明白だった。今日は丁度部活も無いので、準備も何とかなりそうだ。



 * * *



 本来ミーティング室は、次の試合について説明を受けたり話し合ったりする場だ。
 しかし今日限り、フィフス反抗組が違った作戦会議で使用する事となった。どのような作戦会議かは言うまでもない。

「——えー、ただいまより直矢さんの誕生日大作戦を開始いたします」
「なんか日本語おかしくないか?」
 ミーティング室のパネルの前に立った天馬に神童は指摘する。そもそも海音ではなく天馬が前に立った時点でおかしいと思うのだが。
 本来なら前に立つべきの海音はニコニコと天馬を見ていた。

「誕生日って言ったらまずはプレゼントだろ?割り勘で何か買うのか?」
 三国は言った。そうですね…と天馬は頷いた。
「直矢さんって何喜ぶかな…サッカーボールとか?」
「バスケ少年にサッカーボールは無いだろ」
 呆れて神童は言った。本当に天馬の中にはサッカーしかないのか?

「バスケならボールとか?あとナンバリング?」
「いや…多分ユニフォームは持っているな」
「はい、持ってました。ボールも充分だって言ってました」
「なら…バスケのキーホルダー?」
「うーん…」

 バスケ少年ならバスケグッズが喜びそうだが、恐らく直矢ならバスケに関するものは持ちすぎているのでもっと別のものが良いかもしれない。
 じゃあ!と天馬は顔をパアッと明るくした。
「サッカーにも興味持ってほしいし、なにかサッカーに関わる物が良くないですか?」

「サッカーに興味…か」
 海音は呟く。自分がサッカーをしていても全くバカにしなかった直矢だが、特にサッカーに関わろうともしなかった。
 確かにサッカーを知って欲しいと言う気持ちは、無いわけではない。

「それいいね天馬!僕は賛成!」
「ありがとう信助!」
「俺も良いと思う。先輩は?」
「言うことはないな」

 どうやら皆は賛成してくれるらしい。
 すると視線が海音へと集まった。
「海音はどう思う?」
「うん、良いと思うよ」
 海音は頷いた。よし決まり!と天馬は言うとプレゼントは取り合えず決まったようだ。

 続いて天馬は別の話題に切り替える。
「次はケーキ…近くの喫茶店のフルーツタルト美味しいですよ!」
「いや、天馬の好みじゃないだろ、それにタルトはバースデーケーキに向いてない」
 すかさず神童にそう言われ、天馬は否定されたショックからか周りに火の玉が漂い始めた。信助は天馬〜!!と声をあげたのが海音には聞こえた。

「直矢は普通のイチゴケーキが好きですよ」
「イチゴケーキか…」

 海音の言葉に三国は考え込むような雰囲気になる。そしてひらめいたのか、顔を上げた。


「じゃあ、作ってみるのはどうだ?」


 しばらくの沈黙、そして天馬が、
「…作る?」
 そう聞き返した。



 * * *



 今の自分を見たら、誰もが異様な光景に見えることだろう。

 剣城はそんなことを考えながら、商店街を歩いていた。右手にはグレープ味の棒つきアイスキャンディー、とそれから左手にはいかにも重そうなコンビニ袋。この中身は全てアイスしか入っていない。
 アイスをくわえながら剣城はぶらぶらと歩いていた。久々のアイスのどか買いに、小遣いは窮地に瀕している。

 自分がアイスが好きなことは、雷門にはまだ言っていない。知られたらこの先の中学生活はお先真っ暗だ。

「…まあ、こんなとこで会うこともないか」

 半分ほどになったアイスを口から話すと剣城は呟いた。次に会うのは試合の時、そう考えたのが甘かった。


「海音待ってよ〜!」
「天馬早くー」


 そんな声が聞こえてきた途端、剣城は咀嚼していたアイスを吹き出しそうになった。噴射は免れたものの、グレープ味のアイスは容赦なく気管に入り込んできた。
「ゲホッガハッ!!…ッ!?」
 振り返ると、天馬と海音の二人が店から出てくるのが見えた。二人とも白い袋のようなものを抱えている。

「随分買ったね〜、ケーキってこんなに材料要るんだ…」
「だよね、ボクもはじめて知ったし」

 楽しそうに二人は話しているが、そんなことはどうでも良い。
 二人は明らかに、剣城の要る方向へと歩いてきていた。

 反射的に剣城は近くの路地へ駆け込む。路地に置かれていた大きな箱の影に隠れると、二人は剣城に気づくことなく通り過ぎていった。
 心臓の高鳴りが最高潮に達するも、なんとか危機は免れたと剣城は安心する。

  ———にしてもあいつら、ケーキの材料なんか買って何する気なんだ?

♪誕生日企画♪〜バースデー大作戦〜 ( No.172 )
日時: 2013/05/02 18:46
名前: 時橋 翔也 (ID: Y4EbjjKp)



 仕事で親は家に居ないため、三国の住んでいる家には反抗組しかいない。そしてその反抗組の五人は、誰もが想像できないような格好をしていた。

 広いキッチンで五人はそれぞれ、違ったエプロンと三角巾を身に付けていた。全て神童が持ってきてくれたもので、五人とも柄は特にない。
「取り合えず、準備は出来たな」
 目の前に並んだ材料を見て三国は言った。ケーキは専門外だが、そこはなんとかなるだろう。

 問題は四人だ。
 果たしてケーキが作れるのか?

「よーし作るか!えーとまずは…」
 神童は早速近くに置かれていたレシピの紙を見てみる。

『小麦粉とベーキングパウダー、卵、牛乳を混ぜる』

 そこに示された分量を計り、神童は卵と牛乳をボウルに入れ、次に小麦粉を入れた。———何もしないまま。
「おい神童!小麦粉は先にふるいにかけるんだよ!」
「え?ふるい…?」
 三国からの指摘に神童はポカンとする。やはり予想は的中した。

 だが事態はそこに留まらなかった。

 レシピに書かれた砂糖を計り、海音はそれを微塵のためらいもなくドパッと入れた。砂糖が入っていた容器を見て三国は真っ青になる。
「かっ…海音!それ砂糖じゃなくて塩!!」
「あ…間違えた」
 容器に書かれていた『塩』の文字に気がつき、特に慌てることもなく海音は呟いた。事の重大さに気づいていないようだ。
 これだけ塩を入れたら、とんでもないことに…———。


「うわっ!!」


 そんな声が聞こえた途端、三国の頭に真っ白な粉が降ってきた。まるでピエロのように頭が白くなった三国を前に、この場にいた誰もが凍りつく。
「ご…ごめんなさい!」
 そう言うのは、床に倒れていた信助。どうやら転んだ拍子にベーキングパウダーをこぼしたらしい。

「だっ…大丈夫ですよ!」

 すると天馬はベーキングパウダーをありったけ入れ生地をかき混ぜ、型に流し込んでオーブンに入れた。その間十秒。
 どれだけ早く焼きたかったのだろう。天馬が設定したオーブンの最高温度と一分と書かれたタイマーを見て海音は思った。

 ケーキを焼く上であり得ない速度で焼き上がりの高い音がした。そして天馬はオーブンに近づく。
「ほ、ほら出来ま———ゲホッゲホッ!」
 だが開いた途端、吹き出した真っ黒な煙りに天馬は最後まで言えなかった。

 天馬がオーブンから取り出したのは、真っ黒なスライムのような『ケーキ』

 それを見た三国は大きなため息をつく。

「…仕方ない、買うか」

 初めからそうしていれば良かった。



 * * *



 検査が終わり、病院特有の薬品臭が漂う廊下を直矢は歩いていた。注射やらよくわからない色々大変な検査を長時間受けていたせいか、何だかクラクラする。

 するとこの日が何か特別な日だった気がした。直矢は考え込むが、なかなか思い出せない。
 この日…五月二日……———。

「あ、そうか…今日は俺の誕生日だったな…」

 一人で直矢は呟く。いつも誕生日の日に限って体調が崩れたり入院などドタドタしていたので、まともに祝ってもらったことなどなかった気がする。
 まあ今年も同じか。海音達はホーリーロードで忙しいし、祝う暇など無いだろう。

 取り合えず今年も、一人平穏に過ごすとするか。

 そう思いながら病室のドアを開けた時だった。


「直矢!誕生日おめでとう♪」


 声が聞こえた刹那、耳をつんざくようなクラッカーの音が至るところから飛び交い、様々な色の紙吹雪が舞い散る。
 個室なので特に静かにしろとは言われていない。

 クラッカーを使い、こんなシチュエーションを繰り出したのは海音を初めとしたサッカー復活組の五人だった。

「………」
 予想もしていなかったシチュエーションに、直矢は言葉を失いただただ立ち尽くす事しか出来なかった。

 ノーリアクションにショックを受けた海音は直矢を見つめた。
「ちょっ…直矢!反応しないの!?」
「あ、ごめん…いやまさかこんなことがあるなんて…」
 直矢は苦笑しながら言った。このシチュエーションはやはり迷惑だっただろうか。海音はそんな心配をしたが、その必要は無いらしい。

「…皆、ありがとうね、誕生日覚えててくれたんだ」

 嬉しそうに微笑む直矢を見て五人は安心する。
 すると神童あらかじめ用意していたケーキを箱から出し、ベッドの上のテーブルに乗せた。近くでも人気なイチゴケーキのホールで、乗っているミルクチョコのプレートに『直矢!誕生日おめでとう』と書かれてある。
 コンピューターのようにきれいな字だが、人の書いたものだと分かった。

「このプレート俺が書いたんですよ!」
 天馬がそう言ったのを聞き、直矢は驚いて天馬を見つめる。
「そうなのか?…天馬くん字上手いね」
 お世辞にも字が上手いとは言えない直矢は素直な感想をのべた。

 病院内は火気厳禁な為、ロウソクを立てる事は出来ない。なので三国はすぐにケーキを切り分ける作業に入った。
「…なんかごめんね、俺のためにわざわざ…」
「気にしないでくださいよ」
 ケーキを貰い、愛想よく神童は言った。天馬や信助は近くでケーキではしゃぎまくっている。海音もケーキとフォークを受け取った。

 あ、そうだ…と海音はあることを思いだし、ケーキを食べ始めていた天馬を見つめる。
「天馬!ほら、プレゼント!」
「あっ、そうだった!」
 海音の一言で天馬も思い出し、ケーキの箱の横に置かれていた袋から包装された包みを取り出した。『直矢さんへ』と書かれてある。
 ここは弟(妹)である海音が渡すべきだと、天馬は海音に手渡した。

「直矢これ…ボクらで考えたんだ」
 海音はそう言いながら直矢にプレゼントを差し出す。ありがとうと言い、直矢は受け取った。
 中身が気になり、直矢はすぐに中身を包装紙を破らずきれいに開き始めた。中から出てきたのは、少し以外な物だった。

 中に入っていたのは、今サッカー少年達の間で人気の『イナズマファンブック』という雑誌だった。
 十年前、雷門イレブンが弱小から世界一になるまでの道のりと、サッカーについて色々書かれた物だ。

「…サッカー?」
「直矢ならバスケ関係の物が良いかな〜って思ったけど、サッカーについても知ってほしかったから」
 海音は言った。すると天馬は直矢を見つめた。
「サッカーは楽しいんですよ!戦略を考えたり、絆が深まったりするし!」

 その言葉を聞いて、直矢は一瞬表情が曇る。だがすぐに笑顔になった。
「ありがとう皆…、大切にするよ」
 五人は顔を見合わせ、笑顔になる。しかし直矢はけど、と付け加えた。
「楽しいのはバスケも同じさ、バスケも戦略を考えたり絆が深まったりするし、何より常に動き回るから熱くなれる。…もちろんサッカーもそうだと思うけど、ボールに思いを込めるのは同じさ」

 すると五人は再び顔を見合わせる。サッカーしかやってこなかったせいか、他のスポーツの面白さの理解に欠けているのだ。
 途端に信助は直矢を見つめた。
「じゃあ…バスケ教えてください!バスケも何だか楽しそうだし」
「信助…」
 嬉しそうに海音は信助を見つめた。それは直矢も同じだった。

「そうだね…。君達が俺にサッカーの楽しさを知ってほしいのと同じく、俺も皆にバスケの楽しさを知ってほしいから…」
「俺もバスケしたいです!」
 天馬も言った。サッカー以外のスポーツなどしたことはあまりないが、悪い体験ではないだろう。
 だから…と天馬は付け加える。


 「絶対…復帰してくださいね!」


 天馬の言葉に直矢は沈黙する。そして綻んだように笑顔になる。
「ああ、もちろんさ」

 そして周りはイチゴがぎっしり詰まったケーキを食べ始めた。結局あのケーキ(みたいなもの)はどうしたのか…取り合えずまっすぐ鳥の餌となった。
 サッカーとバスケ、二つのスポーツの話題で持ちきりの中、海音は直矢をちらりと見て小さく、自分にしか聞こえないような小さな声で呟いた。


「———ハッピーバースデー、直矢」



 ◇ ◆ ◇ ◆ 


 こんにちは!時橋です。

 こんなくだらない短編書くくらいなら本編進めろ!と言われかねない駄作をお送りしました、ハイ。

 誕生日企画は先月、4月18日に私が16歳の誕生日を迎えたことから思い付いたネタです。直矢と同い年か〜と思いつつ、同時に直矢の誕生日を今日、五月二日に決めこの短編を出しました。
 直矢、ハッピーバースデー!

 居ないとは思いますが24時間、感想or友達or感想&友達募集しております。こんな堕作者で良ければ大歓迎です!最近我が友、神奈しか来ていなくて寂しいので…。

 あと、これからも短編はいくつか出すつもりなので、リクエストがあれば受け付けます。
 
 くだらないあとがき、時橋翔也がお送りしました。