二次創作小説(紙ほか)

第60話 ( No.185 )
日時: 2013/05/20 22:28
名前: 時橋 翔也 (ID: /qYuqRuj)


『帝国学園に勝てたの?おめでとう!』
「ありがとう、聖歌」

 帝国戦が終わり次の日、朝早くに学校に着いた海音は廊下の壁にもたれ掛かりながら聖歌と携帯で電話していた。
 シードに復帰した夜桜はフィフスセクターからの管理も一層厳しくなり、電話はなるべく控えるようにしている。この時代、携帯の電波は察知出来るのでフィフスセクターに盗み聞きされる可能性があった。

「夜桜元気?てか万能坂は?」
『兄貴が居なくなって、変わりに夜桜さんが臨時キャプテンになったらしいわ』
 聖歌からの話を聞いて、意外だな…と海音は思った。人見知りで人と話すのが苦手な夜桜がキャプテン…。

 すると途端に海音は龍崎が話していた事件の事を思い出す。龍崎は夜桜と施設が同じだったらしいし、もしかしたら知っているかもしれない。

「聖歌…、夜桜に聞いておいてくれる?シードの養成施設で次々と選手が居なくなった事件について」
『次々と選手が…居なくなる?…うん、わかった』
 聖歌の了承を聞くと、海音は携帯を切ってジャージのポケットの中にしまいこむ。

 もし夜桜が事件について知っていたら、雅野にも伝えるか…。海音は昨日雅野から訪ねた電話番号の書かれた紙を取りだしそう思った。
 その時だった。

「海音」

 声をかけられ、横を見るとそこには剣城の姿があった。相変わらずの改造制服だが、今までと雰囲気が変わった気がした。

「剣城…」
「…今日から、俺も練習に参加する」
 剣城は言った。少しだけ笑顔だった。
 海音はその言葉を聞き、表情が明るくなった。
「本当!?頑張ろうね!」
「…ああ」

 だがあることに気づき、海音は笑顔を止め剣城に訊ねる。
「剣城…優一さんの事はもういいの?」
「………」
 少しだけ黙り、そして剣城は口を開く。
「いいんだ…。これからは兄さんと俺のサッカーをする」

 それが剣城自身の答えだった。
 海音はそれを聞き笑顔になる。

「じゃあ…これからよろしく」
「…そうだな」
 剣城は海音に頷いた。ほころんだような笑顔で。



 * * *



 放課後、この日は第二グラウンドで紅白戦が行われた。
 剣城が部活に来ても、今までとは違いとげのある態度は誰も取らず、晴れて剣城もチームの一員となった気がした。

「海音!」
 同じチームとなった剣城からボールを受け、海音は目の前に迫っていた神童をかわした。

 何故だろうか、最近力が身体の中にこもっていて出せないような感じがした。

「うわあっ!」
 天馬が勢いよくこちらへ走ってきたが、海音に呆気なくかわされ盛大に転けた。
 だが、天馬は諦めずに再び海音に向かってくる。
「……?」
 それをも海音はかわすが、天馬もやたらと元気があるような気がした。
 自分と同じく、力があり余っているかのように。

「…もしかして…」
 そんな天馬を、剣城は気付かれないように観察していた。



 数分程度の軽い紅白戦が終わると、茜から冷えたドリンクを受け取る。
「おつかれ」
「ありがとうございます」
 海音は茜に言った。手を通してドリンクがいかに冷えているのか伝わってくる。

 だが紅白戦が終わっても、天馬だけはドリブル練習を続けていた。それを見て葵は心配そうに声をかける。
「天馬、少し休んだら?」
「いや…力がなんだか湧いてきて…頑張れば解放出来そうで…」
 天馬はそう言いながらドリブルを続ける。見てみると疲れている様子は無かった。
 その時。

「……?」
 見られている感じがして、海音は第二グラウンドの外にある林の方へ目を向ける。すると一瞬だけ人影が見えたが、すぐに林の方へ走っていってしまい見えなくなった。
「…あの人たち…ひょっとして…」
 僅かに見えた二人の人影の姿を思いだし、海音はそう呟いた。

「海音どうしたの?」
「…いや、何でもないよ」
 気になり訪ねた天馬に対して海音は笑顔でそう言った。もし二人がそうだったら、どうしてボクらを…?。

「…松風」

 すると近くで休んでいた剣城が天馬に声をかけた。真剣とも何とも言えないが、気軽な態度では無かった。
「お前…化身が出せるんじゃないか?」

 「え?」

 意外すぎる剣城の言葉に、思わず天馬は声を上げた。今まで様々な選手達が化身を使うのは見てきたが、まさか自分が使うとは思っても見なかった。

「…確かに出せるかもな」
 近くで聞いていた神童も腕を組み、考えながらそう言った。試合の中で、天馬が化身のオーラを出しているのは何度かうっすらと見たことがある。
「じゃあ…この力が溜まってる感覚は…化身なのかな?」
 両手を見つめながら天馬は呟いた。

「…ねぇレイン、力が溜まってる感覚って…ボクにも…」
『………』
 自分にはすでに『氷界の覇者レイン』という化身がいる。それなのに何故、化身が出せそうな天馬と同じような感覚があるのだろうか。

『…海音、お前も化身が出せるかもしれない』

 始めレインの言う意味が理解できなかった。頭が真っ白になった海音に、レインは続ける。
『氷界の覇者レインとは違う…自分自身の化身をな』
「自分自身の…化身?」
 海音は聞き返す。と言うことは、レインは自分自身の本当の化身ではないのか?

 ———レインは君の身体に定着していて、離れる事が出来ないからさ。

 シュウが言っていた事がフラッシュバックする。だが更に意味がわからない、レインが自分自身の化身じゃない?じゃあ一体何者なんだ?

 …それでも、レインとはある意味姉妹のようなものだ。こうして頻繁に話始めたのは最近の事だが、ずっと側にいてくれた。
 レインに例え秘密があっても、レインはボクの大切な…———。


「——おい海音ッ!」

 肩を揺さぶられ、ハッと海音は我に返る。横を見てみると、霧野が心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫か?呼んでも答えないから…」
「あ…すいません」
 海音は霧野にそう言った。

「…もし天馬も化身が使えたら、次の試合も勝てるかもな」
 三国は言った。確かに仮に天馬が化身を使えるようになれば、雷門に化身使いは海音を入れて四人となる。四人もいれば強豪校並だろう。
「…そういえば、次の相手ってどこなんですか?」
 ドリンクを片手に速水は訪ねた。そういえばまだ伝えられていなかった。

 円堂は周りの部員達が自分に視線を向けているのを確認し、少し早いが告げる事にした。
「……ホーリーロード関東予選、決勝の相手は——海王学園に決まったんだ」

 トンッ!と静かなグラウンドにそんな軽い音がした。海音が見てみると、速水の隣で浜野が持っていたボールを地面に落とし、青ざめていた。
「海王…学園?」
「…浜野くん?」
 その声に反応したのか、浜野はいつもの明るい表情に切り替え、なんでもないよ!と誤魔化してボールを拾い上げる。

 どうしたんだろ浜野先輩…。海音はふとそんなことを考えたが、再び円堂の話に耳を傾けた。
「勝敗指示に従っていたから強さはわからない。…だが先日、謎のメールが届いた」
「謎のメール?」
 天馬は聞き返す。もしかして…海音の予想は当たっていた。

「差出人はわからないが、アールだと書いてあった」
「アール…」
 海音は呟いた。夜桜はあと二人いると言っていた、龍崎を抜いてあと一人…恐らく最後のメンバーだろう。

「そのメールによると…。
  ———海王学園は、全員シードだ」

 円堂の言葉に、グラウンドにいた全員が硬直した。フィフスセクター直属の選手であるシードのみで構成されたチーム、どれほどの強さなのか検討もつかない。

「………」
 そんな中、浜野だけは特に驚いた様子も無く、ただ円堂の話を聞いていた。



 * * *



「…ねぇ、今日の浜野先輩様子おかしくなかった?」

 浜野や殆どの部員達が居なくなった部室で、天馬は海音にそう言った。確かに海音もそれは感じていた。
「確かに…。海王学園って言葉に反応し過ぎてたし」
 ユニフォームの上からジャージを着ながら海音は言った。

「速水は浜野と仲良いよな…。何か知ってるか?」
「いいえ…」
 神童の問いに速水は首を横に振った。
「俺が浜野くんと知り合ったのは雷門に入学してからで、海王学園については何も…」

「そういやさ、アイツの小学校って知らないな」
 ふと霧野はそんなことを思い出す。神童とは同じ小学校だったし、速水と倉間も近くの小学校だと言っていた。
 だが、浜野の出身校なんて聞いたこともない。
「聞いても答えなかっただろ、アイツ…」
 倉間は腕を組みながら言った。何か事情でもあるのか、訪ねても答えてくれた事など無かった。

「…少なくとも、何か秘密があるのは間違いないようだな」
 神童は言った。仲間の事をあまり探るような事はしたくないが、海王学園と何か関係があるなら見過ごすわけにはいかない。
 海王学園は、全員シードなのだから。

「………」
 一体先輩と海王学園って、何があったのだろうか。
 海音はそんなことを考えていた。