二次創作小説(紙ほか)

第61話 ( No.190 )
日時: 2013/05/24 21:08
名前: 時橋 翔也 (ID: jZi4txmM)


 お前はいつも側にいてくれた。

 クラスでもグラウンドでもサッカーしている時も、いつも一緒だった。

 俺に近づく者は誰も居なかった。近付いたら殺されるとか勝手に噂されて、周りからも裏切られるのを繰り返して…それでもお前は違う、そう思ってたのに…ッ!!

 なんでお前は俺を見捨てたんだ?
 どうして俺から離れていったんだ?

 信じてたのに…。なんでなんでなんでッ!!

 俺が悪かったなら謝るから…だから…。



 ———もう、一人にしないで…。
  一人は嫌なんだ…。



 * * *



 夜七時を過ぎた空は曇り空で、今にも雨が降りだしそうな空模様だった。そう言えば今日の天気予報でもどしゃ降りだと言っていたな…、海音はそんなことを考える。

「…ダイヤモンドショット!」

 誰も居ないがら空きのゴールに氷のシュートが突き刺さる。病院の近くにあるこの広い公園は、海音のお気に入りの場所だった。サッカーゴールもあるしバスケットゴールも設置されている。

 レインがいうようにもうひとつ化身が使えるなら…そんな事を考えていた時だった。
 海音のジャージのポケットに入っていた携帯が音を鳴らした。電話だ…そう思い海音は携帯を取り出して電話に出た。

「もしもし?」
『もしもし海音さん?聖歌だよ』
 聖歌か…。海音は思いながら話を聞いた。
『あのね…夜桜さんに聞いてみたよ、海音さんが言っていた事件…確かにあったみたい』

 事件…。シード候補の少年達が次々と消えていく事件の事だ。聖歌は続ける。
『夜桜さんが訓練生の頃一度に一人か二人くらい、選手が行方知れずになることがあったらしいわ。…詳しくはわからないらしいけど、消えた選手達は誰も帰って来なかった』
 龍崎が言っていた通りだ。
 教官たちに強制的に連合されていき、帰ってくることは無かったと。

『…居なくなった選手達の特徴は…、訓練生としての成績があまり良くないことらしいわ…』
 成績があまり良くない、恐らくサッカーが上手くは無いのだ。…だがますます意味がわからない。
 何故フィフスは訓練生を拉致していったんだ?一体何の為に?

「ありがとう…夜桜にそう言っといて」
『わかった、…じゃあね』
 その言葉を最後に、聖歌の方から電話がブツッと切られ、ツーツーという音がした。海音は携帯をたたみ、ポケットにしまいこむ。
 今度雅野にも知らせるか…海音は思った。

 ふと海音はこの前開いてしまった足を見てみる。レインの手当てのおかげか殆ど傷は塞がり、今ではサッカーしても全く問題ない状態となった。

「…レインってさ、もしかして…ボクの中にいる前はどこかで生きてたりしたの?」

 海音は何となくそう訪ねてみた。レインが言っていた言葉やシュウの言葉を思い出しながら。
『…それは、お前が真実を知るべき時に話すよ』
 レインはそれだけを告げた。真実を知るべき時…意味はわからないが、いつかは話してくれると信じよう。

 海音はボールを拾い上げる、すると今度はレインが海音に訪ねてきた。
『じゃあ…俺からも聞くが、
   ———何故お前はサッカーをしている?』
「………」
 すると途端に、海音の身体に空から滴が降ってくる。それは瞬く間に雨となり、次第に勢いを増していく。

「ボクがサッカーをしているのは…好きだから——」
『違うな』
 海音の言葉をレインは遮った。
『お前は雷門に入学する前からサッカー部に入ろうと決めていた…。バスケ部は全く考えずな、…長年切ることも無かった髪をバッサリ切ったのも、女子だという理由でサッカー部に入れないことを恐れてわざと男子のふりをしているのだろう?』
「………」
 海音は俯く。すでに雨足は強くどしゃ降りで、蒼いきれいな髪から雨水が垂れる。


「…ボクがサッカーをする理由…か」



 * * *



「…降ってきたな」
 剣城は病院から出るとそう呟き、バッグの中から青い無地の折り畳み傘を取りだし広げる。
 天気予報を見ておいて正解だったな、と剣城は思った。雨に濡れたら大体次の日は風邪を引いて寝込むはめになってしまう。

 折り畳み傘で雨を避けながら剣城は歩き出した。昔から使っているこの傘だが、丁寧に扱っているため今だ現役だ。
 剣城はポケットから音楽プレイヤーを取り出そうとしたが、止めた。雨に濡れて壊れるのが嫌だった。

 それでも、雨は嫌いではない。
 自分の嫌いな月を隠してくれるから。


「…ボクがサッカーをする理由…か」


 そんな声が聞こえて、剣城は立ち止まり横を見る。病院を歩いてすぐのところ、人通りが少ない場所にある公園に人が立っていた。
 傘も持たず、俯いて雨に当たっているその人影は、剣城がよく知っている者だった。

「海音…?」

 あんなところで何をしているのだろう、それに雨に濡れて…。剣城がそんなことを考えてると、海音は上を向いた。
「…そうだな…『償い』、かな」
『償い、だと?』
 レインの問いに海音はうん、と頷く。

「あの日…死なせてしまった人が、恩人が好きだったサッカーをボクが代わりにすることで、償いになるとでも考えていたのかもしれない。…ボクのせいで、死んでしまったあの人への…それに約束したしね、サッカーを続けるって、その人と」

「……償い…?」
 剣城には海音のいう意味がよく分からなかった。だが何となく納得はした。
 海音がサッカーをやっている特別な理由、それはかつて死なせた人へ対しての償い。
 それだけで意味を伝えるには充分だった。

 すると途端に海音は地面に膝をついた。目の前がくらくらする。
「ヤバイ…貧血…」
『全く…無茶をするからだ』
 レインの呆れた声が聞こえる。万能坂戦、帝国戦共に血を流したのだ、貧血になるのも無理はない。

「なんか疲れたな〜ここで寝てもいい?」
『馬鹿者』
 海音の発言にレインは更に呆れ返る。まあこれも海音故の個性なのだろうか、レインはふとそんなことを考えた。

 その時、突然海音に雨が降り注がなくなった。代わりに大きな影が海音を包むように広がる。
「風邪引くぞ」
 声が聞こえて海音は上を見上げる。剣城が海音の上に傘を出して立っていた。
「あ、剣城…」
 海音はそう言いながら立ち上がった。

 海音は川にでも落ちたかのようにずぶ濡れで、服や髪が肌に張り付いていた。
「お前…傘無いのか?」
「うん、サッカーボールしかないよ」
「…ったく…」
 レインと同じく剣城も呆れ返り、海音に持っていた傘を手渡した。

「これ使えよ、俺は走って帰るから」
「え…剣城!?」
 海音の言葉も聞かず、剣城はすぐさま走り出した。雨に辺りながら、風邪引きを覚悟で。

「………」
 しばらく剣城の背中を見送り、渡された傘を見てみた。
『使っておけ、…アイツの気遣いだ』
「…そう、だね」
 海音は頷き、同じくずぶ濡れとなったバッグを拾い上げて歩き出した。

 でも剣城、大丈夫かな。