二次創作小説(紙ほか)
- 第62話 ( No.193 )
- 日時: 2013/05/26 20:09
- 名前: 時橋 翔也 (ID: LCLSAOTe)
昨晩のどしゃ降りもすっかり上がり、海音はいつも通りジャージ姿でアパートを飛び出した。水溜まりが道端に所々出来ている。
今日は珍しく朝練が無いので、いつもより少し遅めだ。そのため通学路には同じ雷門の生徒達が歩いていた。
決して大人数が歩いている訳ではない、だがいつもの静かな通学路に慣れてしまっている海音にとっては、違和感この上なく感じる。
「レイン…」
『どうした?』
「近道しようか、ボク良い道知ってるから」
海音はそういうや否や、商店街に入らず近くにあった暗い路地へ進路を変えた。たまに海音が通っていた道だ。
『迷うなよ?迷って遅刻なんてアホな話はやめろよ?』
「しないよ、もちろん…」
そう相槌を打って海音はスタスタと歩いていった。
薄暗い路地は当たり前のように人が居らず、野良猫がそこら辺に居るのが見える。不良の溜まり場のような場所となっている路地を好んで通るのは、『力』を使える海音位なのだろう。
少なくとも、次の瞬間まではそう思っていた。
「久しぶりじゃん、小学校以来?」
声が向こうから聞こえた。見知らぬ声…海音は反射的に近くに積み上げられていた木箱に隠れ、向こうを除いてみた。
そこには驚きの光景が広がっていた。
「浜野先輩!?…速水先輩まで…」
恐らく普通に登校していたであろう二人は、雷門とは違う学ランを着た少年四人に囲まれていた。不良、とまではいかないが、四人は並々ならぬ雰囲気を漂わせ二人を見ていた。
「は…浜野くん…ッ」
四人に怯え、浜野の右腕にしがみつきながら速水は言った。浜野はじっと四人の少年を見つめている。
「…お前ら何の用?もう俺は…海王学園に関わる気はねーけど」
いつもの軽い雰囲気とは打って代わり、浜野はそう言った。
海王学園に…関わる?海音や恐らく速水の疑問もお構い無しに浜野達の話は進んでいく。
「そんな事いうなよ〜俺達同じ小学校だったろ」
青いドレッドヘアーの少年は言った。軽い口調だが、内容は驚きのものだった。
「…にしても驚いたぜ、まさかお前のいる雷門が反乱なんてさ、…小学校の頃の管理サッカーに対する教育を忘れた?」
意味がわからない。
浜野は元々海王学園?管理サッカーに対する教育?海音の頭はパンク寸前だった。
「なあ浜野、お前海王学園に戻ってこいよ」
するとドレッドヘアーの少年の後ろにいた別の少年は言った。
「お前のサッカーセンスならすぐにレギュラー入りだ…それに、アイツも寂しがってたしな」
「……!」
アイツという言葉に浜野は少しだけ反応する。途端に話を聞いていた速水は驚いて浜野を見つめた。
「え…浜野くん…。ど、どういうことですか?海王学園に戻ってこいよって…」
「………」
声が微かに震えている速水に、浜野は何も言わず冷や汗を掻きながら俯いた。
変わりに答えたのは、ドレッドヘアーの少年だった。
「…あんたら知らない?浜野は…海王学園の小等部出身なんだぜ?」
海王学園…小等部?
確かに海王学園は小中一貫校だと聞いたことがあるが、浜野が…その小等部出身?
「え…浜野…くん…?」
「………」
嘘だと言って欲しかったのかもしれない。だが浜野は青ざめながら冷や汗を掻いている。もう、真実か否かは一目瞭然だった。
「そんな…浜野くん…」
だが、海王学園出身だと言っても、浜野は海王学園と関わりを持たないようにしているようだ。
スパイというわけではない、なのに…驚きを隠せなかった。
「…所でさ〜、そこに隠れているのも、同じサッカー部員?」
ドレッドヘアーの少年はそう浜野に問いかけながらこちらを見てくる。途端に冷や汗が出始めた。ヤバイ、見つかった…。
離れようとした海音は突然腕を掴まれる。振り返ると、いつの間にか移動していたのかドレッドヘアーの少年がいた。
「女…?」
「…ッ!」
離れようとするが、以外と力が強く離れられない。海音の姿を確認したのか浜野の驚きの声が飛んでくる。
「海音ッ!!」
「へー…、雷門って女子も入れるのか」
「おい湾田!海音を離せ!」
浜野は叫ぶ。湾田と呼ばれた少年は浜野と海音を交互に見る。
「海音…って事は君?今フィフスセクターのブラックリストに登録されてる雪雨海音って」
「…名前は合っています」
少し警戒をしながら海音は答えた。ふーん…そう言うと、湾田は海音の腕を引いて仲間や浜野達の近くに戻ってくる。
「や、やめてください!海音くん…」
速水は必死に湾田に訴えるが、湾田はきれいにスルーした。そして驚きの言葉を放った。
「浜野が戻る気無いなら…君、海王学園に来ない?」
湾田は海音に問いかける。海音はその意味が理解出来なかった。
「君強いし、レギュラーでエースストライカーの可能性もあるよ?」
「か、海音くんダメです!!」
速水の声が聞こえた。だが海音の答えはもう決まっていた。
「…ボクは、雷門でサッカーしたいので…それは出来ません」
すると湾田は海音の答えに笑みを溢した。
「そう言うと思った…。でもすんなり諦めるとでも——」
言い切る前に、海音の腕を掴んでいた湾田のその腕を別の何者かが掴んだ。
「おいよせ、…ここで問題起こす気かよ」
その者の姿を見て、浜野は目の色を変えたが海音は気づかなかった。
いつの間に現れたのかさっきまでここには居なかった少年だった。青い鮫のような髪に細いヘアバンド、そして左目に長い傷がある。
「浪川どうして止めるんだよ…」
「もうすぐ学校が始まるぞ、…俺はキャプテンとして、部員を守る責任があるんだ」
浪川と呼ばれた少年に言われ、しぶしぶ湾田は海音から手を離す。そして先に他の少年達と路地を出ていった。
その様子を見届け、浪川は海音を見た。
「…うちの部員が申し訳ない事をしたな、湾田には気をつけておけ」
「あ…はい、ありがとうございます」
海音がそう言うと、浪川はちらりと浜野を見つめた。どこか悲しそうに。
「……」
だが何も言わず、湾田達を追って走り去ってしまった。どうやらあの人が海王学園のキャプテンなのだろう。
「海音くん大丈夫ですか!?」
すると速水は海音に駆け寄る。外傷は無いようだが、なんだか心配だった。
「だ、大丈夫です…」
海音は苦笑いで返した。自分でも大丈夫なのかわからなかった。
どちらかと言えば、浜野の方が大丈夫なのだろうか。
「…浜野くん…」
速水は少し悲しそうに浜野を見つめた。
「浜野くんさっきの話って…」
「…うん、本当さ」
浜野ははっきりと言った。こちらを悲しそうに見ながら。
「俺は海王学園の小等部出身なんだよ、…フィフスセクターが運営する、海王学園のね」
「フィフスセクターが…運営?」
海音が聞き返すと、うん…と浜野は頷いた。
「海王学園は元々、フィフスセクターが管理サッカーを推進させるために造られた学園なんだ、…小等部から管理サッカーに対しての授業もあって、中等部では自動的にシードの資格が貰える。…まあ俺は中等部に入らなかったから無いけど」
シードの資格…。恐らく夜桜が言っていた訓練が修了したことと同じようなものだろう。
だから海王学園は全員シードなのか…。海音は納得する。
「…ごめんね、今まで隠してて」
すると浜野は二人に言った。酷く弱々しい笑顔で。
「知られて…孤立したく無かったんだよ」
「浜野先輩…」
海音は呟いた。確かにこの事が知れれば、雷門の皆は浜野をスパイのように捉えてしまうかもしれない。
だが浜野はただ、海王学園の小等部に居たと言うだけで、シードではないのだ。誤解を招いて仲間を失う位なら…、そう思い海音は決心し速水を見つめた。
「速水先輩…、この事は、皆には秘密にしましょう」
「え…!?」
浜野は驚いて海音を見つめる。海音の言葉に速水も少し驚いたようだったが、了承し頷いた。
「そう、ですね…、…俺に言う勇気なんて無いし…たとえ浜野くんが海王学園出身だとしても…。
———俺の大切な友達だから…」
速水は言った。あの気弱な速水がこんなこというなど、予想もしていなかった。
でも、嬉しかった。
「…二人とも、サンキュ」
浜野は言った。いつも通りの笑顔で。途端に二人も笑顔になる。
すると打って代わり速水は海音を見つめた。
「ところで海音くん、女?って…?」
「ああ、ボクは女子なんです」
「え?(・_・?)」
「…てか遅刻三十秒前…」
「え?ちょ…(;゜0゜)」
「………」
「ええええええええええええッ!!?」
お決まりの二人の絶叫と共に、遅刻を知らせるチャイムの音が雷門から聞こえた。
「だからこんな遠くに来るなって言っただろオオオォ!!」
「責任取ってくれるんでしょ?キャプテン♪」
「湾田てめぇぇ…!!」
「あーあ、こっから学園まで戻るのにどんだけかかんだよ…」
「一時間目余裕で終わってるだろ、大遅刻だな〜」
海王の少年達も余裕で遅刻したのは言うまでもない。