二次創作小説(紙ほか)

第63話 ( No.194 )
日時: 2013/05/29 22:31
名前: 時橋 翔也 (ID: 8keOW9sU)


「…やっぱりあったみたい、龍崎さんが言ってた事件」

 放課後、廊下の端に座りながら海音は電話していた。相手は以前電話の番号を教えてもらった雅野だ。
 聖歌から聞いた事件について、雅野にはあらかじめ話しておこうと決めていた。

『…龍崎先輩が言ってた事件…、でもますますわからなくなる。…何故フィフスセクターは選手を拉致したんだ?』
 雅野が言うのは海音も疑問に思っていた事だった。
 フィフスセクターが選手を拉致する意味が全くわからない。何か恐ろしい事でもしているのだろうか…。

 恐ろしい事…。そう言えば夜桜の仲間はフィフスセクターの超機密データベースを見てしまい、殺されたと言っていた。
 勘だが、ひょっとして…関係が…?

『…雪雨?』
 携帯の向こうから声が飛んできて、海音は我に返る。もしかしたら関係しているかもしれない…。
「雅野…これ秘密だよ?」
『どうした?』
「…ボクの友達、アールの一人何だけど…その人の仲間はフィフスセクターの超機密データベースを見てしまって…殺されたらしいんだ」
『殺された…!?』

 驚きを隠せない声がよく伝わってくる。海音はそれでも続けた。
「勿論、公じゃなく事故としてね…。そのデータベースと事件…もしかしたら関係があるんじゃないかな?」
 少しの沈黙、雅野が考え事をしているのがよくわかった。
『…確かに、可能性はあるな』

「データベースと事件…、レジスタンスに伝えるべきかな」
『…いずれは話さねばならないな、これはフィフスセクターが不正を犯している事だから。だが今はまだ危険だ、フィフスが重罪にまで手を染めているならなおさらな』

 今話してしまえば、もしかしたらレジスタンスの人たちはそのデータベースにアクセスしようとするかもしれない、そしてレジスタンスの皆までが…。
「…そうだね」
 海音は頷いた。もう少し調べを進めた上で、いつか円堂達に打ち明けよう。
 今はまだ、その時ではない。

 電話を切り、部活に向かうべく海音は立ち上がる。
 浜野が海王学園出身だと言うことは三人で秘密にすると決めた。余計な混乱を防ぐためにも、最善の策だと三人が見出だした答えだった。



 * * *



 海音が部室へやって来ると、すでに海音以外の部員が揃っていて、それぞれユニフォームへ着替えを始めていた。何人かは着替え終わり、準備体操を始めている。

「遅かったね海音…。珍しい」
「…掃除手伝ってたんだ」
 海音は天馬にそう言ってごまかした。電話の事は話さないでおこう。

 ロッカーの中からユニフォームを取りだし、ジャージを脱いで着替え始める。その隣では剣城が同じように着替えていた。
 だがいつものように、ぱっぱと着替えずやけにゆっくりだった。まるでだるそうに。
「剣城どうしたの?元気ないね…」
「…別に」
 剣城はそう言うが、元気が無いのは一目瞭然だった。

 もしかして…海音はあることを思いだし、剣城を見つめた。
「剣城もしかして…、昨日の雨で風邪引いたの?」
「はあ!?お、俺が風邪引くなんてあるわけないだろ!」
 剣城はそう言い、ユニフォームを着替え終わる。だが実際にいつも以上に白くなっている肌を見るからに、説得力は皆無だった。

「ごめんね剣城…」
「べっ、別に…風邪引いてねーし…」
「…熱あるぞ」
 いつの間にか霧野が剣城の額に手を当てながら言った。途端に剣城は顔を赤くして霧野から飛び退いた。
「先輩!何勝手に触ってんですか!」
「前にゴム貸してやっただろ?」
「うっ…(--;)」


「…なあ浜野、お前…俺達に話していない事があるんじゃないか?」


 部室にいた全員が、問いかけた神童と問われている浜野に視線を向けた。
 神童はすでにユニフォームに着替え終わり、丁度ユニフォームに着替え終わった浜野へ平然とした振る舞いだった。
「え…?ちょ…どーゆーこと?」
「教えてほしい、…お前と海王学園との関係を」
 神童は浜野の意見を聞かずに言った。焦りからか、浜野の頬に冷や汗が垂れる。

 勘の鋭い神童の事だ、次の対戦相手が海王学園だと聞かされた時の浜野の反応から、海王学園と浜野に何か繋がりがあることを察したのだろう。
 だがそんなことどうでも良かった。海音は周りに気付かれないように速水に視線を向ける。すると速水も海音にオロオロと視線を送っていた。

 浜野の秘密を守ると約束したのに…今神童という大きな壁が立ちはだかっている。
 沈黙と共に時間が刻々と過ぎるなか、海音は頭をフル回転させた。

 何か、何かきっかけさえあれば、この状況を打破できる…!

『…部室の外に誰かいるぞ』
「…え?」
 レインに言われ、海音が部室の入り口へ目を向けると確かに人の気配を感じた。謹白感のせいで気づかなかった。
 これなら…!考えるより先に口が動いていた。

「…誰かいる…」
「え…」
 海音の言葉に、部員達は次々と視線を部室の外へ向けた。その時。

 部室の外から何かが走り去る音がした。

「ひょっとして…フィフス?!」
「誰だろ…最近見られてる気がするけど」
 信助に続いて海音は呟く。そしてこっそり浜野へ、アイコンタクトを送った。

 それに気づいた浜野は途端に口を開いた。
「もしかしてフィフスセクターが俺達を監視してるとか?じゃあほっとけねぇ!」
「や…やめた方が…本当にフィフスセクターだったら…」
 浜野を煽るように速水もそう言った。すると浜野は追うという名目で部室を出ていった。
「俺達の革命はジャマさせねぇ〜!」

「おい浜野!」
 倉間は制止をかけるが、浜野はどうやらすでにサッカー棟を出ていったようだった。まだ話しは終わってないのに…。
 呆れながら神童もため息をついた。
「…俺達も行ってみよう」

 次々と部員達が部室から浜野や神童、そして人影を追って出ていく。
 二人しか居なくなった部室で、海音と速水はハイタッチした。

「助かりました海音くん…!」
「こちらこそ!ありがとうございます」

 まだ完全に危機が去ったわけではないが、取りあえずは安泰だ。
 そう考えながら、海音と速水も仲間たちを追って部室から飛び出した。



「…皆どこ行ったんでしょう…」
「………」

 海音と速水はサッカー棟から出ると一度立ち止まり、辺りを見回した。まずい、完全に見失った。
「…仕方ない!」
 そう言い、海音は『力』で辺りを探した。そこまで遠くはなく、すぐ近くの雷門校舎の横の駐車場だった。

「…あそこか!」
「ま、待ってくださいよ海音くん〜…あれ、海音『くん』?海音『ちゃん』?」
「『くん』でお願いしますッ!!」
 リンクを解き、走り出した海音は追いかけてくる速水にそう叫んだ。



 * * *



 雷門には人の出入りが多いため、それなりに広い駐車場が存在する。車が約三割止められた駐車場に海音と速水が追い付いた時には、部員達はさっきの人影の正体であろう二人の前に立っていた。
 部員達の後ろへやって来ると、速水は二人を見て口を開いた。
「あの二人…!」

「あの人達…」
 同じく海音も呟いた。

 見覚えがある。この前第二グラウンドで練習していた自分達を見ていた二人だ。
 入学式、黒の騎士団戦の後、フィフスセクターを恐れて辞めてしまった二軍の二人だった。
 きゃしゃな体つきと黒い髪をした青山と、サイドの髪が赤くなっている二軍のキャプテンだった一乃。話したことは無かったが、顔だけは覚えていた。

「…何で見てたんだ?」
 浜野は訪ねる。それはこの場の全員が疑問に思っている事だった。

 すると二人は申し訳なさそうに顔を見合わせた。そして青山がこちらを見てくる。
「…すまない、帝国戦を見てたんだ。お前達の本当のサッカーを」
「それを見て思った、俺達はサッカーが好きなんだって…」
 続けて一乃も言った。二人の目を見るからに、嘘は言っていない。


「じゃあ…サッカー部に戻ってきてくださいよ!ボク、先輩方とサッカーしたいです!」


 すると海音は後ろの方で嬉々として言った。部員や二人が驚いて見つめる中、海音は笑顔だった。
 二人は再び顔を見合わせる。本当はそれを頼みに来た…と雰囲気が物語っていた。

 それを悟ったのか、神童は真剣な顔で二人を見つめる。
「…フィフスセクターと戦うんだぞ?」

 他の部員達も同じく問いかけるような視線で二人を見つめた。だがそれでも、二人の答えは決まっていた。
「いいんだ。…もうサッカーが好きと言う気持ちに嘘はつきたくない」
 一乃は言った。

 その言葉を聞き、神童は綻んだように笑顔になった。
「…わかった よく戻ってきてくれたな」
 そして頷く。周りの部員達も、おかえり!待ってたよ!お願いします!と声をかけ始める。いつの間にか二人は部員達に囲まれ歓迎を受けていた。

 この人達…本当にサッカーが好きなんだな…。
 海音は思った。楽しそうな二人を見つめながら。