二次創作小説(紙ほか)

第64話 ( No.200 )
日時: 2013/06/04 20:47
名前: 時橋 翔也 (ID: 4n3MlAWB)


 新たに雷門に復帰した二人は、退部したあともサッカーを続けていたのかそれなりの実力は保っているようだった。
 以前のような二軍のユニフォームではなく、人数の関係上同じ一軍のユニフォームを渡された二人は特に個別練習の必要もなく、すぐにチーム練習に入ることが出来た。

「一乃先輩ッ!」
 チーム練習の紅白戦、同じチームとなった一乃へ海音はパスを出す。二軍のキャプテンだった一乃は鮮やかなドリブルで天馬や信助を抜いていく。
「剣城!」

 パスを受け、剣城は三国が待ち構えるゴールへやって来る。そしてボールを足で救い上げ、得意のあのシュートを放った。
「デスソード…ッ!」
 だが、いつもに増して威力が無かった。

 三国は拳に炎を宿し、剣城のシュートを思いきり地面に叩きつけた。
 いつもは手応えがあるはずのシュートは、いとも簡単に三国の手に収まる。
「剣城どうした?シュートの威力が悪いぞ?」
「…すいません…」
 剣城は言った。その声すらも弱々しい。

 帝国戦以来、今までの態度を改め先輩に敬語を使うようになり刺々しい言葉も減ったが、剣城にしてはらしくない。
 よく見ると剣城は顔色も悪く、先程まで白かった肌が火照って赤くなっていた。

「おい剣城…大丈夫か?顔が赤いぞ」
「無理はしない方がいい、休めよ」
 神童や霧野はそんな言葉を投げ掛けるが、剣城は首を横に降り、続けます…と言って聞かなかった。

 恐らく風邪が悪化したのだろう。海音は罪悪感に苛まれながらも剣城に近づいた。
「ごめん、ボクのせいで…」
「だから俺は平気——」
 剣城は最後まで言えなかった。海音が最後まで言わせなかった。

 言いきる前に海音は剣城の両肩を掴み、自らの額を剣城の額に当てた。

「なッ…!?」
「やっぱ熱ある…、どう?冷たい?」
「はッ…離せよ…ッ!!」
 剣城はさらに顔を赤くし、海音から離れた。確かに海音の額は冷たかったが、そういう問題ではない。

 だが海音は至って普通だった。そして表情を変え、悲しそうに剣城を見る。
「え?嫌だった…?」
「ちっ…違う!違うが…その…ッ」
「剣城照れてる〜」
「松風エェェェ!!」
「リア充…」
 円堂もこっそりと呟いた。


 結局剣城の熱は更に上がってしまい、強制的に天馬と霧野により保健室送りになったのは言うまでもない。



 * * *



「剣城大丈夫かな〜…」
「……」

 天馬は鈍感この上ない親友を見つめた。無意識のうちに剣城の理性を試すとは、海音はある意味すごい逸材なのかもしれない。

 二人が要るのは河川敷のベンチの上だった。練習が終わり、部活帰りに二人で河川敷に寄っていたのだ。
 本当ならサッカーの練習をしに来たのだが、この頃まともに休んでいないため疲れが溜まっており、ジュース飲みながら話してから練習しよう!という天馬の意見を採用することとなった。

 二人が手に取っているのは、近くの自動販売機に売っていた炭酸飲料。夕方が近いためそこまで気温は高くないが、暑い日にはうってつけの飲み物だった。
「あー…。この飲み物考えた人、きっと夏が嫌いなんだろうなあ…」
「カゲロウデイズと同じこと言わないでよ天馬…。てか今はまだ夏じゃないよ?」

 正確に言えば、春と夏の中間と言ったところだろう。春ほど涼しくないし、夏ほど暑くもない、かなり中途半端な時期だ。

「…海音」
「なに?」
「そろそろさ、話してくれてもよくない?」
 天馬に言われ、海音はペットボトルから飲料を飲むのを中断する。そして驚いて天馬を見つめた。

「な、何を…?」
「浜野先輩の事。…知ってるんでしょ?」
「………」
 やはり天馬には全てお見通しか…海音は観念したようにそう思った。天馬はにっこりと笑う。
 今日は結局、突然の一乃と青山の復帰に流されて神童も浜野に聞けず終いとなったので、なおさらだろう。

 だが、易々と言ってしまうようではダメだと海音は思った。約束だから…三人での。
「…ごめん、今は…言えない」
「そっか…じゃあ話せるときに話してね」
 天馬は問いただす事もなく、あっさりと諦め飲料を飲んだ。恐らく自分を信用している故に出来る行動なのだろう。
 感謝の気持ちを募らせながら、海音も飲料を一気に飲んでしまった。

 そういえば…と天馬が話し出し、海音は天馬を横目で見る。
「俺さ、もう少しで化身出せそうなんだ!」
 天馬は嬉々として言った。だが海音の方はまだ一向に出せる気配がない。
 …どうしてなんだろう。


「よーし!じゃあ特訓するか!絶対化身出すぞ〜!!」

 そう元気よく天馬は言いながら、両腕を思いきり振り上げベンチから立ち上がる。元気いいな…そう思ったのもつかの間だった。

「…あれ?」

 天馬は右手に持っていた、炭酸飲料がまだかなり残ったペットボトルが消えているのに気づいた。そしてバシャン!という液体の音。
 嫌な予感がしながら、海音と天馬は後ろを振り返る。嫌な予感は見事に的中していた。

 天馬の炭酸飲料は後ろにいた少年の頭に盛大にぶちまけられ、少年の髪やら学ランやらはびしょびしょになっていた。
 少年の足元には、さっきまで炭酸飲料が入っていたペットボトルが転がっている。


 「うわああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」


 海音と天馬の悲鳴というか絶叫が河川敷全域に響き渡る。そして二人はすぐさま少年に駆け寄る。
「だっ…だだ…大丈夫ですかっ!!?」
「なに…しやがんだ…」
 少年は黒い液体を髪からポタポタ滴らせながら言った。怒っているのかよくわからない声だ。

 海音は少年をよく見てみて目の色を変える。その少年は、朝に会ったあの少年だった。

「な…浪川さん!?」

「え、海音知り合い?」
「うん…海王学園の…」
「海王学園ッ??!」
「…ベトベトする…」
「うわああ!!て…天馬どうするの!?」
「仕方ない…、すいません取り合えず俺の家に…」

 この事が知れれば、明日は部員全員から説教を食らうだろう。敵選手にジュースをぶちまけるなど、宣戦布告しているようなものだ。
 天馬は自分のドジさに呆れ返りながら、浪川と呼ばれた少年の手を引いて走っていった。