二次創作小説(紙ほか)
- 第68話 ( No.207 )
- 日時: 2013/06/29 21:26
- 名前: 時橋 翔也 (ID: Y4EbjjKp)
氷で出来ていながら、この鳥籠は鉄に匹敵するくらい頑丈だった。剣城は渾身の蹴りを同じ場所に何度も放つが、割れるどころかひび一つ入らない。
自分のせいで皆に迷惑をかけてしまった…、そんな罪悪感に苛まれる。
「くそっ…」
剣城は諦めて座り込み俯く。力を奪う作用があるのかわからないが、力があまり入らない。
どうやら今の自分には、『試合を傍観する』しか選択肢が無いらしい。自分の無力感に呆れながら、第二グラウンドに立った雷門と海王の方を見た。
雷門と海王はグラウンドの中央に五人ずつ並び、残りはグラウンドの外で同じく傍観している。
「………」
「…浜野くん、浪川さんとは…どういった関係なんですか?」
寂しげに浪川の方へ目を向ける隣の浜野に、速水は聞きづらそうに訪ねた。浜野は俯き、力のない声でああ、と言いながら頷いた。
「…俺の昔の…、一番の親友さ」
海音からのキックオフによりバトルが展開する。まずはパスを出さず、そのまま突っ走った。
「行かせっかよ」
するとそこに湾田が立ちはだかる。海音は一度止まり、向こうに神童が走っていったのが見えた。
「キャプテン!」
反射的に海音は向こうへパスを出した。大きな弧を空中で描き、神童の所へ収まる———筈だった。
ボールが神童の所へ収まる前に浪川がやって来ると、神童が本来受け取るボールを奪ってそのまま走り出した。
「速い…!」
驚いて神童はその背中を見つめる。あれだけ短時間で移動し、ボールを奪う判断が出来るなんて…。
海王学園が全員シードというのはどうやら本当のようだ。
「喜峰!!」
浪川は先程の少年へパスを出す。かなり高速のパス回しだが、喜峰と呼ばれた少年は難なく受け取った。
「湾田!!」
高速のパス回しで瞬く間にゴールへ上がっていく。雷門のメンバーをかわしていき、ついに海王の一人がゴール前へやって来た。
すると海音はあることに気づく。
海王学園は、一向に技を使おうとしない。さっきから今まで。
『簡単に手の内を明かす気は無いようだな』
レインは言った。シードとして訓練されているのか、そういう所まで考えている。
霧野が止める間もなく、海王の一人は雷門ゴールにシュートした。普通のシュートだったが、それでも中々の威力だった。
「くっ…!」
高い反射力で、何とかギリギリ三国はボールを拳で打ち返す。打ち返したボールは宙を舞い、海音の上を飛んでいく。
「天馬!!」
ボールが向かう先に天馬が居ることに気づき、海音は叫ぶ。天馬はこちらへ飛んでくるボールを見つめていた。
もし負けたら、剣城は連れていかれる。遠い、手の届かない所へ。そんなの嫌だ。
——連れて、いかれる?
「…?」
天馬は心の奥底で妙な感覚を感じた。連れていかれる?この感じ…昔にも…?
———ダメだ天馬ッ!!その手を引いたら!!
「え?」
今、確かにそんな声が聞こえた気がした。聞いたことない筈なのに、どこか懐かしい声。
俺は…何かを……忘れてる?
「天馬ぼーっとしたらダメだ!!」
考え事をしているあまり、天馬はボールを喜峰に取られてしまった。神童の声が飛んできて天馬は今はバトル中だということを思い出す。いけない、考え事してたら…。
剣城と…サッカーするんだ!絶対に勝ってやる!!
そのまま天馬は敵陣へ突っ走る。喜峰を追って。
次の瞬間。天馬の背後からオーラが出たのが海音にはわかった。前よりもはっきりと、鮮明に。
「あ…」
化身のオーラだ!だが海音がそう思った瞬間、オーラは消えてしまった。
代わりに天馬はさらに勢いよく喜峰へ向かっていく。あの勢いはマッハウインド?海音は思ったが、違うことに気づいた。
天馬の周りに強い風が発生し、天馬を中心につむじ風のようになった。その状態で天馬は勢いよく喜峰へ突っ込んだ。
「スパイラルドロー!」
「うわああっ!」
喜峰を吹き飛ばし、天馬はボールを奪い返す。すると向こうに神童がゴール前で構えているのが見えた。
「キャプテン!」
すかさず天馬は神童へパスを出した。待ち構えていた神童は、そのまま利き足に円形の五線と音符を出現させた。
「フォルテシモ!」
久々に見る神童のボレーシュート。
ここでも技を明かさない意地を見せたのか、GKは必殺技を繰り出すことなくシュートを止めようとした。が、及ばなかった。
神童のシュートがゴールへ突き刺さり、バトルは雷門の勝利に終わる。
「やったあ!」
「ナイスですキャプテン!」
天馬は飛び上がり、海音は勝利の決め手となった神童とハイタッチする。そして笑顔で天馬を見た。
「驚いた!いつの間にそんな技覚えたの?」
「マッハウインドの勢いをドリブルに使えないかなーって考えてたんだ」
天馬は答える。だが途端にさっき聞こえた声の事が気になった。
聞こえたというより、思い出したの方が正しいかもしれない。遠い昔、そう言われた気がする。
しかし天馬は肝心の、そう言われた時の記憶と言った声の主が誰なのか思い出せなかった。
大切なものだった筈なのに…思い出せない。
「——天馬?」
突然俯いた親友を見て、海音は心配そうに声を上げた。それに気づき天馬は苦笑いしながら海音を見た。
「だ…大丈夫さ!」
「………?」
「…じゃあ退散すっか、野郎共!帰るぞ!」
すると浪川は至って普通にそう言った。はーい…と周りの仲間たちが反応する。
海音は驚いて浪川を見た。
「え…もう帰るんですか?」
「言ったろ、負けたら退散するって」
浪川は海音をちらりと見て言った。そして続いて浜野の方を見る。
「カイジ…、次の試合で証明する。お前の愚かさを」
「レン!俺は…!」
だが浜野が言い切る前に、浪川は仲間を引き連れて第二グラウンドから去っていってしまった。海王学園が消え去り、浜野は悲しげな顔をした。
「………」
「随分あっさりと帰ってったな」
車田は腕を組みながら言った。フィフスにしては粘りが感じられない。霧野は海音を見た。
「浪川…だったか、あいつが最後のアールなんじゃないか?」
「………」
海音もそれは感じていた。だが、何かが違う。直感だが、恐らくアールは別の人物だ。
…一体誰なのだろう。
海音は氷の鳥籠に近づき、指をパチンと鳴らした。途端に鉄ほどの強度だった氷の鳥籠はヒビが入り、瞬く間に崩れ水蒸気へ戻っていった。
「剣城大丈夫?」
中に閉じ込められていたせいか、俯いて座っている剣城へ海音は手をさしのべる。だが剣城は海音の手を掴むこと無く立ち上がった。
「どうして…そこまで俺を助けようとするんだ?俺は…お前らに酷いことしたのに」
剣城は言った。その声は雷門サッカー部員全員に聞こえた。
恐らく剣城は罪悪感を感じていたのだろう。かつてシードとして、雷門を痛め付けた事に関して。
少し考え、海音は口を開いた。
「…剣城はまだ未来があるじゃん、サッカー出来る明るい未来が。……ボクとは違って」
海音は言った。笑顔だが、酷く悲しそうだ。剣城はその意味がよくわからなかったが、訪ねる前に別の声が聞こえてきた。
「そうだよ剣城!俺達が君とサッカーしたいんだ!」
天馬は言った。剣城は天馬の方を向いたが、周りの視線も感じていた。
どうやら他の部員も、同じ気持ちらしい。
「………」
両手を握りしめ、俯く。ありがとうという言葉は自分には似合わない、だからこそこの言葉で伝えよう。
「…そうだな」
その言葉を聞いたとたん、部員達は更に笑顔になった。どうやら気持ちは伝わったらしい。
すると神童は浜野を見た。今まで以上に真剣な眼差しで。
「浜野、教えてくれないか?…海王学園との関係」
「………」
恐らく誰もが疑問に思っている事だろう。海音と速水は顔を見合わせた。
部員達に視線が集まる中、浜野は顔を上げた。そして口を開く。
「…俺とレン…、浪川蓮助は親友だった」
「親友…だった?」
まさかの過去形に、霧野は声をあげる。
でもな…、と浜野は続ける。悲しそうで、いつもの明るい雰囲気は感じられない。
「俺は昔…アイツを裏切ったんだよ…」