二次創作小説(紙ほか)
- 第69話 ( No.215 )
- 日時: 2013/07/17 22:03
- 名前: 時橋 翔也 (ID: Z6SnwTyI)
試合前日の第二グラウンド。
先日の雨のせいでぐちゃぐちゃになっていたグラウンドもすっかり元通りとなり、雷門サッカー部はホーリーロード関東予選決勝前の最後の練習を繰り広げていた。
この日は必殺技の最終確認を兼ねて自主練習。海音は最近使うことの無かった必殺技を試したりしていた。
「剣聖ランスロット!」
向こうでは剣城と天馬が二人で練習していた。未だ天馬は化身を出せないので、剣城の化身の力を借りて化身を引きずり出そうというものだ。
剣城は背後に化身を出したままドリブルをする。天馬は必死にそれを奪おうとしていたが、中々うまくいかない。
ランスロットは神童の時のように、簡単に共鳴反応を起こす気は無いのだろうか。黒髪のあの騎士が、そんな事をするとは思えないが。
「………」
海音はさらに向こうを見る。浜野や速水、倉間がドリブルをしているのが見えた。
途端に、昨日の浜野の話を思い出した。
まさか、あんなことが…———。
* * *
海王学園が去った昨日、ミーティング室で浜野は海音と速水に打ち明けた事を皆に話した。海王学園の小等部出身で、海王の選手の多くと面識があることなど。
初めはもちろん、皆驚いていた。そのような話など誰も聞いたこと無かったから。
「…それで浜野、裏切ったって…?」
話が一段落すると、三国は恐る恐る浜野に訪ねた。特に周りの部員達は浜野を囲むこともなく、いつも通り座っている。
「あの、その前に一ついいですか」
すると剣城は小さく右手を挙げた。視線が集まる中、剣城は訪ねる。
「海王学園の小等部を修了して中等部へ上がれば、自動的にシードの資格が貰えるんですよね?例え訓練をしていなくても…、俺は以前いたシードの養成施設で、浪川とそれから…喜峰が居たのを知っているんです」
「…レンは俺が小四の時に転校してきたんだ」
浜野は剣城を見て答えた。
「シードの資格が貰えるのは、小一から小六まで小等部を修了した者だけ。…あいつは転校してきたからシードの資格が無かったんだと思うよ。喜峰も…多分同じような理由」
そう説明すると神童は剣城にもういいか?と訪ね、剣城は頷いた。
「…アイツは前の学校でいじめを受けていたらしいんだ」
すると浜野は話した。あの人が?海音と天馬が不思議そうに首をかしげたが、浜野は続ける。
「相当ひどいやつをね…。アイツ元々思いやりがあって優しい性格なのに、いじめが原因で誰にも心を開かなかった」
「…浪川がいじめられるとは思えないけど…」
海音が思った事を霧野は言った。そう、と浜野が頷いたのがわかった。
「アイツはいじめられる要素を何一つ備えていない。兄貴肌な性格だし、明るいしな…」
「じゃあ…なぜ?」
「………」
神童が訪ねると、話していいのかという顔をしたのがわかった。話したくないことなのだろうか。海音は思った。
「…三年前に起きた連続殺人事件、知ってる?」
浜野が言うと、部員達は顔を見合わせ知っているという顔をした。有名な事件なので、知らないものは居ないだろう。
三年前、とある街で一人の女性が殺害されたのが事件の始まりだった。
女性の遺体が自宅の部屋で発見され、遺体には無数の刺し傷が残されていた。
次に殺されたのは男性だった。自宅の庭で発見され、またしても大量の刺し傷が残っていたため、警察は連続殺人と考えた。
最後に殺されたのは犯人の妻だった。今までの遺体よりも無惨な殺され方で、その時辛うじて残っていた指紋で犯人は捕まった。
こうして、約一週間の連続殺人事件は幕を下ろしたのだった。
「その事件がどうしたんだよ」
倉間は訪ねる。関連性を考えるなら、被害者の中に知り合いがいた程度だ。
だが浜野が告げたのは、予想を遥かに上回る事実だった。
「…捕まった犯人は、アイツの父親なんだよ」
ミーティング室に重たい雰囲気が到来する。殺人鬼が父親、それがいじめられる原因。
「事件が終結したあと、アイツは仲が良かった人からも裏切られて…徹底的にいじめられた、だから海王にやってきた。名字を変えてな…」
「そうなんだ…」
悲しそうに天馬は呟いた。あの明るさから、そんなこと想像できなかった。
「だから…お前は仲良くなったのか?」
霧野は訪ねる。すると浜野は頷いた。
「孤立してるのは何か理由があるのかな?そう思って話しかけたんだ。初めはシカトばっかで全く心を開いてくれなかったけど、次第に少しずつ話してくれて、小五辺りには普通に明るさを取り戻してたんだ」
でも…と浜野は俯く。
「俺はアイツを…裏切った」
「裏切ったってどういうことなんだド?」
先程の三国の質問を天城は再び口に出す。浜野が裏切るなど想像もつかない。
「…海王はフィフスが運営しているから管理サッカーの教育が盛んだった。初めは俺もフィフスの管理サッカーが正しいと思ってたけど…次第に考えたんだ。サッカーは管理したら楽しくなくなる、サッカーは楽しむものなのにって」
「それで…、わざわざ雷門へやって来たんですか?」
海音は訪ねる。浜野は頷いた。
「雷門に行けば、楽しくサッカー出来るかも…そう思ったから。でも、それは…レンを一人にすることと同じだった」
後悔からなのか、浜野は俯き両手を握りしめた。そこから赤い血が滴る。
「ずっと一緒に居るって約束したのに、ずっと側にいるからって…言ったのに、俺は楽しいサッカーを求めて、アイツに何も言わないまま小等部修了式に海王から姿を消した。レンに言ったらきっと反対されて、意志が揺らぐから…」
管理サッカーを教えている海王から、それが間違いだと気づけた浜野はある意味すごいのかもしれない。そして、意思の固さとサッカーに対しての思いも。
「…浪川はシードである事に誇りを持っていました」
すると剣城は言った。腕を組ながら。
「聞いたことがあります。フィフスはサッカープレイヤーとして挫折していたものをシードへ迎え入れ、そこから才能を開花させるものがいると…。何か関係があるんですか?」
「関係があるかはわからないよ」
浜野は剣城を見つめた。
「海王サッカー部にはシードが多いけど、シードじゃなくても実力さえあれば入れる。レンは入って、そして…挫折した。だからシードになった。もしくは…居場所が欲しかったのかもしれない」
自分が、親友を独りにしてしまった。
後悔は計り知れない。何故…置いていってしまったのか。
「でも…先輩は間違ってないと思います」
すると天馬は言った。周りの部員達は驚いて天馬を見つめる。
「サッカーを楽しくプレーしたいのは皆同じだし、その為に雷門に来たことは正しいと思います!」
「…浜野」
続いて神童は浜野を真剣な顔つきで見つめた。
「お前は…雷門に来て後悔したのか?」
「してないよ!!」
即答だった。それを聞いて神童は笑顔になる。
「だったらそれを伝えればいい、…親友にな」
「…神童…」
伝える。アイツに…自分の思いを。
次の試合の時に。
* * *
その後は至って普通で、隠していたことを問いただす者はいなかった。
ただし天馬に関しては、敵にジュースをぶちまけたためお決まりの説教タイムを食らうこととなったが。
「何もあんなに説教すること無いのに〜」
「あはは…」
休憩の時、ベンチの隣でそう嘆く天馬に海音は苦笑いしか出来なかった。天馬は空を仰ぎ、海音を見る。
「…海音、俺…化身出せそう?」
恐らく『力』で見てほしいのだろう。海音は少し考え、『力』を使い天馬を見てみた。
「えっと…、形は出来てるみたいだけど…」
「だけど?」
「なんていうのかな…。閉じ籠ってる感じがする」
『力』を解き、海音は首を傾げる。天馬の化身は原型は出来ているものの、まるで化身が外に出ることを拒んでいるかのようだった。
じゃあ…と天馬は海音を見た。
「俺の化身ってどんな姿?」
「…うーん…、翼があって、ペガサスが人の形になったようなものかな。細かいのはわからないけど」
そっかあ…と天馬は何だか嬉しそうだった。だがそれが逆に海音を辛くする。
化身は大切なものを失わないと出せない。原型は出来ているので、恐らく天馬も…——。
「松風!続きを始めるぞ!」
すると向こうから剣城の声が飛んでくる。わかった!と天馬はベンチから立ち上がり、剣城のもとへ走っていった。
「…ボクも、頑張らなくちゃ」
もう一人の化身を出すためにも。『力』を使っても自分の能力は見えないし、感覚で感じるしかない。化身は…もう少しで出せそうだ。
そう思いながら海音も練習へと戻っていった。