二次創作小説(紙ほか)
- 第71話 ( No.217 )
- 日時: 2013/07/17 22:08
- 名前: 時橋 翔也 (ID: 4n3MlAWB)
海音から話を聞き、天馬は自分のポジションへ立った。化身を完成させる、それが…革命の始まりを意味する。
試合に勝ちたい。その為にも、化身を引き出さないと…。だがどうして化身は出てきてくれないのだろうか。
「…考えても仕方ない。今はとにかく集中しないと」
天馬は自分に言い聞かせた。それと同時に、ホイッスルが鳴り試合が始まった。
剣城からのキックオフ。海音はボールを貰い、ゆっくりと上がっていく。練習では化身を全く出せなかった。この試合で出せるのだろうか。
そう思った時だった。
「——考え事なんてして良いのか?」
素早く喜峰が海音の前に姿を表し、対応し切れなかった海音はボールを奪われる。やはりシードなだけあり、ずば抜けた力を持っている。
とっさに振り返ると、喜峰が走り行く先には天馬と神童が立ちはだかっていた。
「……」
この人が、最後のアール。
だが今は敵だ、と天馬は言い聞かせ、ブロックするために身構えた。しかし。
「遅い!」
そう言い、喜峰は高く飛び上がった。到底、ブロック出来ない高さに。
「なっ…!?」
驚いて神童は声をあげ、振り返るが遅かった。ゴールへ向かう喜峰の足元には水飛沫が見えている。
そして見え始めたトビウオと共に勢いよくゴールへ飛んでいった。
「フライングフィッシュ!!」
三国は手から炎を出しながらシュートを止めるべく自身にスピンをかけた。
「バーニングキャッチ!!」
炎の拳はシュートを止めるべくボールの上にのし掛かる。こちらは炎であちらは水。相性で言えば最悪だ。
「ぐうっ…うわああっ!!」
相性で負けたのかはわからないが、シュートの勢いを相殺できず、喜峰のシュートはゴールに突き刺さり早くも海王学園が先制点となった。ギャラリーから歓声が上がる。
身体能力の差は歴然。そう思った神童はメンバー達に思いきり叫んだ。
「皆!ゴールへパスを繋ぐんだ!!」
パスを繋ぐ…。意味を理解した雷門の皆は試合再開の為持ち場へ戻っていった。
試合が再開され、ボールは早速海音に渡る。先程とは違い、勢いよく。
すると今度は湾田が海音の前に立ちはだかった。
「なあなあ、君さ俺らが勝ったら海王に痛い!」
すかさず、いつの間にか隣にいた浪川が湾田の脇腹を思いきりつねった。怒りマークを出しながら。
「お前はどんだけ勧誘したいんだ!」
「え〜?だってかっけーじゃんこいつの力」
「ダマレ!超常現象マニア!」
「…お先失礼しまーす…」
取り合えず海音は二人をスルーして先へ走り出した。
そして剣城へ素早くパスを出す。
「…何やってんだあいつら…」
剣城は呆れ半分でそう呟き、ゴール前まで迫っていた倉間へパスした。だが浪川は昔から変わっていないと思い、どこか安心もした。
シードの施設ではよく料理を教えてもらったな…とそんなことを思い出す。教えてもらうまでは全く料理出来なくて、家では毎日カップ麺だった。今では考えられないが。
施設での生活はそれなりに楽しかった。
———『あの日』までは。
パスが繋がり、倉間はゴール前へと迫っていた。そしてシュートを放つため身構えた。
後ろへ宙返りすると共に足に挟んでいたボールを宙へ投げ、右と左で交互に蹴りつけた。
するとボールはまるで蛇のようにゴールへと向かっていった。
「サイドワインダー!!」
この大蛇がゴールに突き刺さるのか…だがその思いは届かなかった。
海王のGKは地面から思いきり鎖を引いた。海のような地面から鎖に引かれ出てきたのは、船を止めておくため海に沈められる重りの錨だった。
「ハイドロアンカー!!」
錨はシュートに絡み付き、それをGKは引き上げる。
倉間が放った蛇のシュートはみるみるうちに威力を失い、引き上げられ宙を舞った。
「止められた…!」
あのバトルの時には手の内を明かさなかったため、GKの実力など知る由も無かった。だがやはりシードなだけあり、それなりの実力は持っているようだ。
海音は辺りを見回す。ボールはすでに海王に渡り、ラフプレーでは無いものの怒濤の攻防を受け反撃できずにいる仲間たちが見えた。
ふざけたりする仲の良さげな反面、このようなシードとしての素顔が露になっているようだ。
パス回しの末、ボールは浪川に渡る。雷門ゴールへと向かう浪川の前に、浜野が立ちはだかった。
「レン!」
「カイジ…また、俺を裏切るのかよ」
浪川は浜野を罵った。怒りと悲しみが混じった赤い目で。
浜野は更に悲しそうな顔をした。自分が裏切ったから、目の前の親友は変わってしまった。
「レン俺は…ッ!」
「…邪魔だ!!」
浜野の言葉など聞かず、問答無用で浪川は浜野を吹き飛ばして強引にゴールへと進んでいく。
間に合わない!そう思いながらも海音は浪川を止めるべく走り出す。化身を使うつもりだと、海音にはわかっていた。
紫のオーラを形成し、現れたのは青い身体の化身だった。三ツ又の矛を持っている。
「海王ポセイドン!!」
ポセイドンはギリシャ神話に登場する海の神の名だ。化身必殺シュートを決めるのかと思ったが、浪川は普通のシュートを決めた。
〝これ以上点差を広げるわけには行かない!〟三国はそう思い、シュートに対してパンチングを繰り出した。だが、無情にもその思いは砕かれ、シュートはゴールへと突き刺さった。
0対2。スコアボードに記された現実を見て、浜野は悲しそうに視線をそらした。
「…俺がもっと、しっかりしてたら…」
試合が再開され、ボールは海音に渡る。
どうしたら化身を出せるのか…海音には未だにわからなかった。
そもそも、本当に化身なんて出せるのか?
「天馬!」
海音は向こうに見えた天馬に向けてすばやくパスを回す。天馬はボールを受け取り、攻め上がる。
「遊びは終わりだぜ、天パ君」
そこへ天馬を止めるべくやって来たのは、湾田だった。
気軽な振る舞いの裏側、本当の素顔を表したように、背後で化身を形成していく。
現れたのは、スピーカーのようなユニットがある機械に似た化身だった。
「音速のバリウス!!」
だが天馬は怯まない。化身を相手にしようと、果敢に立ち向かっていく。化身使いを相手に突破を試みたその時。
———天馬の背後に、紫色のオーラが見えた。
「あれは…」
「うわあっ!!」
しかし海音が呟いた直後、天馬はいとも容易く吹き飛ばされてしまう。ボールを奪い、湾田が走り出したその時に前半は終了した。
二点もリードされた雷門メンバー達には余裕が無いようだった。皆焦っているのが雰囲気から読み取れる。
『…海音戻るぞ、少し休め』
「うん…」
レインに言われ、海音は海王陣地から雷門ベンチへと歩き出した。周りでは余裕ながらも緊張を解かない海王の選手たちが見えた。じゃあさっきの湾田達はなんだったのだ…?!
———…シードでもないと、存在価値なんてない。
「え?」
ベンチにやって来た海音は突然聞こえてきた言葉に声をあげる。辺りを見回すが、声に該当する者は見当たらない。
もしかして…と海音は感じ、レインに語りかける。
「レイン、今のもしかして…」
『…ああ、弱めの共鳴現象だな』
レインも言った。やっぱり…と海音は思った。
存在価値なんてない?
どういう意味だろう。
そして…誰なのかな。