二次創作小説(紙ほか)

第14話 ( No.34 )
日時: 2013/01/26 15:52
名前: 時橋 翔也 (ID: C5PYK3fB)


遠くからでも、歓声ははっきりと聞こえていた

剣城がやってきたのは、今日雷門が試合をする栄都学園 シードとしての監視だ
…そういえば海音は試合を頑張ると言っていた
「今頃、負け試合と知って驚いているだろうな…」
グラウンドに向かいながら剣城は呟いた
最近雷門は負け試合が続いている 雷門へ入学するものを減らすために
いや…指示が出ているなら勝とうが負けようが関係ない 本気でプレー出来ないのだから
「…腐ったサッカーだ…」
剣城は呟き、グラウンドにやって来る
そして驚愕の表情でグラウンドを見た
「なんだ…これは…!」

栄都イレブンがボロボロにされて地面に倒れていた

スコアボードには2対20で圧倒的点差で雷門が勝っている だが見るからに雷門は誰も指示を破ろうとはしていない 一人を除いて
海音は化身を出していた 美しい女剣士の化身だが、冷酷な雰囲気を醸し出している それは海音も同じだ
「どうした、もう終わりか?」
海音は栄都を見下しながら言った まるで嘲り笑うように
「先程までの余裕はどうした?」

「どういうことだ!指示では3対0で僕らが勝つことになっていたはずだ!」
栄都のキャプテンは叫んだ
だが海音はそんなこと気にもしない
「指示?…サッカーの勝敗に指示など必要か?」
海音はただ言った

「………」
剣城は海音をただ見詰めていた そして全てを理解する、海音がどうして化身を使いたがらないのか

海音の化身は特殊なのだ、そして化身を出せば性格が大きく変わり、自分が意図しないプレーを連発する
海音は多少の制御は出来るようだが、ほとんど化身に意識を委ねている
だからこそ使いたがらないのだ 強い力を持つ化身ゆえに制御が難しい
かつての友人と同じだと心の片隅で剣城は思った

試合再開 だがもはや試合では無かった
海音は栄都がキックオフした瞬間、栄都を吹き飛ばしてボールを奪った
「うわあああッ!!」
「遅い」
海音は冷たくいい放つ
そして一気にゴールに迫り、シュート
あっさりと得点を許してしまった

栄都は海音を恐れてまともなプレーが出来ない
雷門は海音を止めようとパスを要求する
そこにチームも、まして試合など、存在しているのかも危うい
一方的な海音の攻撃、それでも試合が強制終了しないのは、海音の巧みなラフプレーと未だに大ケガをしたものがが出ていないからだろう

そこで試合終了のホイッスルが鳴り響いた
2対21で雷門の圧倒的逆転勝利
何も知らない観客達の歓声 そんな中選手達は目の前の現実にただ呆然としていた

海音は化身をしまう すると目付きや瞳は元に戻り、雰囲気もいつもと同じようになった
「レイン…」
目の前の惨状、それが自分がしたものとわかりつつ、海音は自分の中にいるもう一人の住人『氷界の覇者レイン』の名を呼んだ
答えなど帰ってくるはずもなかった

「海音…」
すると天馬は海音に近づいてくる 驚きを隠しきれない様子だ
「天馬…」
「化身使うとき…どうしたの?あんなに雰囲気変わって…」
天馬は訪ねた やはり化身を出すのは早すぎたかもしれない
「うん… ごめんね」
海音はそうとしか言えなかった

「神童!何故シュートしたんだ?」
霧野は試合中、ずっと俯いていた神童に訪ねた
神童は酷く青ざめている
「…あいつが…あいつのボールが、俺を攻め立てるんだ、サッカーと向き合えと…」
「サッカーと…向き合え?」
霧野にはその意味が何となくわかる気がした

「お前…わかっているのか?」
すると倉間は海音に近づいた
「指示を思いきり破って…もうおしまいだ〜!」
速水は嘆いた
化身の力で荒いプレーをしてしまった事は申し訳ないとおもうが、勝ったことは後悔しない
サッカーとは…そういうものなのだから


——————


「…顔色悪いぞ」

次の日、机の隣に座っていた剣城に海音は言われた
海音は剣城を見る
「…化身使ったから疲れたんだ…」
「………」
剣城は海音を見つめた
「さあて雷門はどうなるのか…あんなに指示を破って、ただでは済まないと思うぜ」
「なんとかするさ、ボクが…」
海音は言った

学校が終わり、海音がサッカー棟にやって来た時だった
「久遠監督…!」
サロンでは雷門イレブンが真ん中で神童と話している久遠を見詰めていた 何かあったのだろうか
「天馬、どうしたの?」
「…久遠監督が辞めさせられるって」
隣で天馬は言った
辞める?
「昨日の試合の責任を取らされたんだ…」
霧野は言った

「すいません監督!!俺がシュートしたせいで…!!」

神童は久遠に言った
久遠はいいや、と首を横に振った
「私の役目が終わったのだ、…じきに辞める筈だった」
「監督!!」
海音も神童の隣、久遠の目の前にやって来た
神童は海音を見つめた
「雪雨…」

「監督…あの…ボクがあんな試合にしてしまったから…」
「いや、あれで良かったのだ」
久遠は海音の肩を軽く叩いた
「雷門を…いや、サッカーを変えるには何か大きなきっかけが必要だった…お前はそれをつくったのだ、雪雨」
「監督…」
海音は久遠を見つめた
すると久遠も言った

「雪雨…お前なら変えられるかもしれない、この腐敗したサッカーを」

「…え?」
海音はその意味がいまいちわからなかった
久遠はその意味を教える事もなく歩き出した
「監督!」
イレブンの叫びは届かず、久遠はサッカー棟から出ていった

『お前なら変えられるかもしれない、この腐敗したサッカーを』

ただ今さっき久遠に言われたことが海音の頭の中でこだましていた
ボクがサッカーを…変える?

これが、サッカーを取り戻す戦いの幕開けだった