二次創作小説(紙ほか)

第17話 ( No.49 )
日時: 2013/02/05 16:42
名前: 時橋 翔也 (ID: j.vAWp8a)


「こんにちはー…って誰もいない…」

放課後、海音はサッカー棟の部室のドアを開けるが、部室には誰もいない
掃除当番も無いので早めに部活に来たが、どうやらまだ他の皆は来ていないらしい …しょうがない、先に練習してるか
見た目も口調、もしかしたら心も男子である海音だが、れっきとした女子だ 特に恥ずかしいという感覚は持ち合わせて居ないが、男子である他の部員達が居ないので心おきなく着替えが出来る

海音はロッカーを開け、バッグをしまうとジャージを脱ぎ始めた 高速でユニフォームに着替え、きれいに畳むとジャージをロッカーにしまいこむ ただし貴重品である財布と携帯はユニフォームのズボンの中だ

さあ練習しようか…そう思いながら屋内グラウンドに行こうとした時だった
「…?なんだろ…」
部室のテーブルの上にいつもは無い何かが置かれているのに気がつき、海音は近づいて手に取ってみる
平べったい形をしていたので初めは本かとでも思ったが、それはDVDだった 白い半透明なケースに入れられ、ケースには『ホーリーロード決勝戦 雷門対木戸川清修』とマジックでキレイな字で書かれている

ホーリーロードとは四年前から始まった中学サッカー日本一を決める大会の名だ フィフスセクターが運営しているらしく、全国大会からはフィフスセクターのトップ、聖帝を決める選挙となっていると聞いたことがある 試合ごとの勝ち点を投票出来るらしいが、フィフスセクターが勝ち点を決めているのに投票なんておかしな話だなと海音は思った 現在の聖帝はイシドシュウジという名の男だ、フィフスセクターが出来て初めての聖帝であり、現在もその座を保ち続けている 理由はイシド以外に聖帝に立候補する者が居ないからだ

そういえば雷門は去年のホーリーロードで惜しくも木戸川清修中学に負けたんだっけ
木戸川清修はイナズマジャパンが世界一になる前から有名なサッカーの名門で、社会的地位も雷門と肩を並べるほどだ
イナズマジャパンのエースストライカー、豪炎寺修也の出身校でもある 豪炎寺と聞けば知らない者はいないだろう
高いサッカーセンスと強力なキック力でゴールを量産し、イナズマジャパンを世界一にしたと言っても過言ではない伝説のストライカー
大抵のサッカー少年が一番に憧れているであろう豪炎寺だが、海音はそこまで尊敬はしていなかった やはり一番尊敬しているのは、同じくイナズマジャパンのストライカーだったあの人だろう

「…雪雨もう来ていたのか」

部室のドアが開かれる音と共に声が飛んできた ドアを見ると、霧野が制服姿で入ってきていた
「霧野先輩…」
海音は自分の先輩の名を呟いた
霧野は自分のロッカーに近づき、海音と同じく着替えを始める 霧野はまるで女のような美しい顔立ちをしているが、体つきも女子のように華奢でよりいっそう中性的に見える
すると霧野がシャツを脱いだとたん、海音は霧野の背中にうっすらと切り傷があるのに気がついた 右肩から左脇腹にかけて、まるで刀で切られたかのような細長い傷が延びている
普通の怪我で出来るものではない、本当にうっすらと刻まれているため、普通の人は間近で見なければ気がつかないだろう だが海音は二メートル以上離れた所からその傷に気がついた 人並み外れた視力で

「…先輩、その傷どうしたんですか?」
思いきって海音は訪ねてみる 霧野はユニフォームに着替えると海音を見ないまま背を向けて答えた
「………昔に出来た傷さ」
酷く悲しげな霧野を見て、少しだけ自分と重なった気がした
霧野は海音の方を向いた
「そういえば雪雨は何していたんだ?」
「あ… 去年のホーリーロード決勝のDVDを見つけたんで、見ようかなって思ってました」
海音は手に持っていたDVDを霧野に見せた
「良かったら先輩も見ませんか?」
「そうだな、俺も見たい」
霧野は海音に頷いた

——————

よくよく考えたら、このように霧野と話すことは初めてかもしれない 栄都戦以来、海音は先輩達と孤立していたのだから
霧野も他の者たちに比べ、特に海音を嫌っている訳でもない 三国と同じく誰でも受け入れられるタイプなのだが、他の者たちに合わせて話すような事まではしなかった

二人が来たのは誰もいないミーティング室だ ここには大きなTVと共にDVDプレイヤーも設置されている
「えーと…これかな?」
海音は慣れない手つきでケースから出したDVDを入れると、再生と書かれたボタンを押した
するとTVに画面が繰り広げられた
どうやら始めから撮影されたものでは無いらしく、後半戦かららしい

『さあ始まりました後半戦!現在木戸川が二点リードしています!』

スコアボードが映し出され、そこには二対0の数字がカウントされていた
海音は雷門のプレーを見てみる、実に鮮やかなプレーで木戸川と戦っている
「…あれ?」
すると海音はあることに気づく 一年生である神童にこのときからキャプテンマークが付けられていた 普通キャプテンとは経験が豊富な年上の者がやるものだ
「霧野先輩、神童先輩ってこのときからキャプテンしていたんですか?」
「ああ 準決勝からな」
霧野は頷いた
「もとは三国先輩がキャプテンだったけど…先輩が卒業したあとの事を考えて神童にキャプテンの座を譲ったんだ」
だが霧野は俯いた
「…それが、アイツにとって酷いプレッシャーになっていたとも知らずにな」
「………」

『おおっと雷門!一年生にしてキャプテンの神童が手を上げた!これはまさか!?』

『神のタクト!!』

すると神童は手を上げ、神童が指し示す方向に黄色い線が現れ始めた 雷門はその線に導かれ、ボールを奪った
まるで指揮者のように繰り広げられる神童の指示によって、あっという間に南沢がゴールにやって来た

『ソニックショット!!』

南沢は思いきりボールを蹴りつけ、まるで槍のような形になったシュートを放つ 超高速のため、音まで置き去りにしていたのでゴールした後にその音が聞こえた
だがそこで試合が終了、スタジアムの歓声を浴びるなか、優勝したのは木戸川だった
ここでブツッとDVDの画面が途切れた

「先輩、神のタクトって?」
「今、神童が指し示す方向に黄色い線が見えただろ?神童は黄色い線を駆使して、どこにボールをパスしたらいいのか、どこへ走ればいいのかとかを的確に指示する必殺タクティクスを発動出来るんだ」
霧野はDVDを取り出しながら説明した
「…この試合は勝敗指示が出ていない、だからこそ神童は神のタクトを使い、南沢さんもソニックショットを打ったんだ」
「フィフスセクターって謎ですね…」
海音が言った時だった

「ここに居たのか二人とも」

円堂がミーティング室に入ってきた 二人は振り返る
「どうしたんですか?」
「ホーリーロードの第一回戦の相手が決まった 発表があるから理事長室に集まってくれ」
それだけを言うと、円堂はミーティング室を出ていった
少しの静寂 それは海音によって破られた

「第一回戦…どこでしょう」
「さあな、栄都戦を考えて…ろくな指示じゃない気がするけど」
霧野は言った そして二人は円堂の後を追ってミーティング室を出ていった