二次創作小説(紙ほか)
- 第19話 ( No.57 )
- 日時: 2013/02/07 23:47
- 名前: 時橋 翔也 (ID: cFLcjEJH)
「キャプテンが…退部!?」
放課後海音が部室に入った時、始めに聞いたのはそう言う天馬の声だった
周りも驚いたような表情を浮かべ、天馬は円堂を見つめていた
「退部って…キャプテンが?」
海音が声を上げると、視線が一気に海音へと向けられる
円堂は重々しく頷いた
「ああ… だが、俺は認めていない」
「けど退部も同然だ、それだけ告げて帰ったなら… 責任取ったんじゃねーの?」
南沢は腕を組みながら言った
神童が退部
海音は俯いた ボクがあんな試合にしたから…キャプテンは…
…だが、神童はサッカーが大好きなはず
考え直してもらわないと
「ちょ…海音!?どこいくの?」
部室を出ようとする海音に天馬は言った
海音は天馬を振り返る
「キャプテンの家に行くのさ、…退部なんて絶対ダメだ」
「…元はお前のせいだろーが」
倉間は海音を睨む
「はい、…だからこそ止めないと」
海音は倉間を見てはっきり言った
「しかし神童は強情だからな…退部を取り消すかどうか…」
霧野は言った 昔から神童を知るからこそよくわかる 本当は神童にサッカー部に残って欲しいが…
「…なら、俺が案内してやるよ」
すると今まで聞いていた三国が声を上げた
周りは三国を見つめる
「神童の家なら何度も行ってるしな、…それに辞めるなんてアイツらしくない」
「俺も行くよ」
天馬も言った
「キャプテンを止めないと!」
「…そうだね、行こっか」
海音はそれだけを言った
——————
三人はサッカー棟を出て商店街を歩いていた 人通りも多く、海音のアパートがある方角でもある
神童が退部するのは、きっと自分のせいなのだろう 栄都戦、あんな試合にしてしまったから神童は責任を取るつもりだと思う
だが、本当にそれで良いのかな
サッカーが大好きな神童がサッカー部を辞めるなんて… らしくないというか…
「あら、太一?」
声がして三人は立ち止まる
商店街の向こうにある店から髪の長い女性が出てきた
「あ、母さん…」
三国は女性を見て声を上げる
母さん?海音と天馬は顔を見合わせる
「どうしたんだこんなところで」
「ちょっと買い物…二人は友達?」
女性は三国の横にいる海音と天馬を見た
「あ…三国先輩の後輩の雪雨海音と言います」
海音は言った
「松風天馬です …三国先輩にはお世話になってます」
天馬も同じく言った 先輩のお母さん若い人だなあ…
「…そうだ、太一今度の試合見に行こうか?」
「いや良いよ、来なくて…」
三国は女性に首を振り言った
「…中学に入ってからこうなの」
女性は苦笑しながら海音と天馬を見た
「昔は来てくれって聞かなかったのに、中学に入ったとたん来るなって…私が見に行った試合は必ず勝つから、勝利の女神とも言われたわ」
「母さんよせって…」
三国は言った
「はいはい、…じゃあ練習頑張ってね」
そう言って女性は去っていった
天馬は三国を見る
なぜ三国が試合見に来てほしくないのか、察しは大体ついていた
「…もしかして勝敗指示でわざと負けるのが見られたくないからですか?」
「……行こう二人とも」
三国は答えずそう言った
ひどく悲しげな顔をして
——————
商店街を抜け、舗装されたきれいな道を歩いていくと、次第に大きな白い家が見えてきた 家と言うよりは城のような外見で、三人は入り口から家の敷地内に入る
敷地内には噴水、高級車など、どこかの高級ホテルなのかと言いたくなるような無駄にすごいものばかりが置かれている
「ここがキャプテンの家…ですか?」
「神童の家は世界で有数の財閥なんだ」
海音の問いに答えるように三国は言った
財閥…確かにそれならこのような所に住んでいても不思議ではない
三人は玄関の前に立った
標札には神童と書かれ、ここが神童の家であることは明白だった
海音はインターホンを押してみる 以外と普通な呼び出し音が少し聞こえた後、インターホンから声が聞こえてくる前に
「すいません、神童先輩はいますか」
海音はそう言った
天馬は驚いて海音を見る
「海音!こういうのは向こうが出てから…」
「え…あ、そうなの!?」
今まで他人の家に行く経験がほとんどなかった海音は少し焦る そして恐る恐るインターホンを見た 出てきてくれるだろうか…
『…雷門の方々ですね?拓人様はお会いになるそうです』
インターホン越しに声がした 口調や声的に恐らく執事なのだろう
「…じゃあ俺は帰るよ」
少し安心した海音の背後で三国は背を向けた
驚いて海音は振り返る
「え…先輩帰るんですか?」
「後輩だけの方が話しやすいだろうしな」
三国はそう言うと、すたすたと先に去っていってしまった
その後ろ姿を見つめる二人の背後で、ドアが開かれる音がして二人はドアを見た
「お入りください」
黒いいかにも執事な姿をした老人が立っていて二人に言った
「入ろっか天馬」
「うん」
海音と天馬は顔を見合わせ、中に上がる
とたんにピアノの音が聞こえてきた
美しく、それでいて悲しい曲だった
「…これはキャプテンですか?」
「はい、拓人様は部屋に隠り、ずっとピアノを弾かれています」
執事は天馬に言った
そして少し表情を変え、ですがと付け加えた
「音が少々荒れています、拓人様は繊細なお方 すぐに音に出るのです」
「………」
きっとサッカー部の事で悩んでいるのだろう
海音が試合をめちゃくちゃにしたことで、サッカー部の未来がどうなるのか、責任を取らねばならないとか、そういった事を一人で抱え込んでいるのだ
神童…いや、サッカー部の皆のサッカーを縛るのは、フィフスセクターと言う心の鎖
今ならば久遠が言っていた意味がわかるかもしれない
ならボクが…鎖を断ち切りたい
サッカーは絶対、このままではダメだから