二次創作小説(紙ほか)

第21話 ( No.65 )
日時: 2013/02/11 19:24
名前: 時橋 翔也 (ID: 7uqXWVar)


二人は歩いて雷門まで戻り、サッカー棟に近づいていく 思い浮かぶのは、ダメだったと聞いて悲しむ部員達の顔のみだった
「…キャプテンを連れ戻せなかったこと、どう伝えよう…」
「……なんとかなるさ」
天馬は俯く海音に言った だがそう言う自分も、不安を拭いきれない

天馬はちらりと海音を見てみる 海音はまた…栄都戦の時のように雰囲気が思いきり変わった
海音にどんな秘密があるのかはわからない 入部したときから普通の人と違うのは薄々感じていたが、なんだが少し怖かった
海音が、海音でなくなる気がしたから
「?…天馬?」
「あ…何でもないよ」
天馬は海音に見られるとそう言ってごまかした

自動ドアが開き、二人はサッカー棟に入る すでに皆は練習を開始しているのか、サロンには誰も居なかった
「誰も居ないね…」
「…ユニフォームに着替えて屋内グラウンドに行こう」
海音は天馬に言った
部室に入り、二人はロッカーに近づく 少し急ぎ目でユニフォームを着替え終わった時だった

「…あれ?」
海音は部室のテーブルの上にいつもはない何かが置かれているのに気がついた
手に取ると、それは革製の黒い手帳だ 本屋等でよく目にする、値段が普通の手帳と桁が違う高級品だ
「手帳…?」
天馬も見てみる 海音は中を開いた そして二人とも内容を見て驚く

手帳には栄都学園を初めとした、様々な学校のサッカー部に関しての戦術がびっしりと書き込まれていた 今まで戦った学校に対しての有効な戦術まで考えられている
約八割のページがそれで埋め尽くされていた
「これ…キャプテンだね」
表紙に『2−2 神童拓人』と書かれているのを見て天馬は言った そもそもこんな手帳を買ってこんなに戦術を書き込むなんて、神童かあるいは三国くらいしか考えられないだろう
海音はずっと手帳の内容を見つめていた そして霧野と共に見たDVDの決勝戦、神童が繰り出していた『神のタクト』という必殺タクティクスが脳裏に浮かぶ

「キャプテンは…こんなに頑張って、努力していたんだな…」
海音は呟く

才能があり、天才ゲームメーカーに見える神童だが、実は影の努力家なのだろう 神のタクトも、こうして相手の戦術を分析し尽くして有効な策を考える努力をしたからこそ成せる必殺タクティクスなのだ
才能や潜在能力だけではサッカーの実力は決まらない 確かに潜在能力は大切だが、努力して得た実力には到底及ばないのだから 
それでも世間は、努力していようが実力だけを見てしまう もしかしたらそれがフィフスセクターを生み出した原因の一つかもしれないと海音は思った

「…?」
すると海音は部室のドアを見た 人の気配を感じる
「もしかして…」
「海音?」
天馬は声をあげる そして海音はドアに近づきガラッと開いた

そこにいたのは…


——————


サッカー棟に入ると、辺りを見回した
誰もいないことが神童を少しだけ安心させる
もう来ることの無いだろうと思っていたサッカー棟に、こうして再び足を運んでいる事実に神童自身も驚いていた 来たことには深い意味はない ただ皆の様子が気になった キャプテンだった名残かもしれない
そういえば手帳を部室に置きっぱなしだったな 神童は思い出し、部室に向かう
手帳はまだ純粋にサッカーが好きだった頃から書き始めた戦術集だ 様々な学校の戦術を分析することで相手の強さ、弱点を見極める
これはいつかフィフスセクターの管理サッカーが無くなり、自由なサッカーが実現された時の為に作ったものだ その頃の自分はまるで愚かで、そんな夢を見ていたのだ

神童は部室に入ろうとして、足が止まる 入ったらもう戻れない気がした 部室に入ればやはり優柔不断となり、サッカー部を忘れきれないかもしれない
そう考えていた時だった

部室のドアが勢いよく開かれる
ドアを開き、神童の目の前に現れたのは、海音と天馬

「キャプテン…」
開けた本人である海音は声を上げた
驚きと戸惑いが混ざった表情で神童は二人を見つめる
「キャプテン、やっぱり辞めないでください!ボクもキャプテンとサッカーしたいです!」
海音は思わず言った
だが神童は即答する
「俺は忘れ物を取りに来ただけだ…俺はサッカーを辞めたんだ!」
「忘れ物って…これですか?」
すかさず天馬は神童に手帳を見せ、神童は表情を変えた
「松風…なんでそれを…」
「部室に有りました、…すいません、中を見させてもらいました」
海音は神童をまっすぐ見た
「この手帳は…いつか自由なサッカーが出来るようになったときの為につくったんですよね」
「……」
神童は俯いた
「あの頃の俺は本当にバカだった…管理サッカーと向き合えず、そんな夢を見ていた」
「サッカーは待ってます!俺達が本当のサッカーを楽しむことを!」
天馬は言った 神童は天馬を見る
「キャプテンがサッカー辞めたら……サッカーが悲しみます!」



「……サッカーを友達みたいに言うのは止めろォッ!!!」



神童の悲痛な叫びは、サッカー棟の全体に響き渡った そして二人に背を向け、神童は走ってサッカー棟から飛び出していった
「キャプテン!」
天馬は声を上げるが、その声は届かない
海音も、神童がサッカー棟を出ていくのをただ黙って見ているしか出来なかった