二次創作小説(紙ほか)
- 第22話 ( No.66 )
- 日時: 2013/02/12 19:43
- 名前: 時橋 翔也 (ID: zHdJFj8Z)
「…今の神童か?!」
すると屋内グラウンドから他の部員達がサロンに入ってくる 皆は驚いたような顔をしていた
天馬と海音は部員達を見た
「…すいません、キャプテンを止められなくて」
天馬は俯き言った
霧野はサッカー棟の自動ドアの方に目を向ける さっきの叫び声は、やはり神童…
「やはり、神童にキャプテンを任せたのは相当なプレッシャーだったんだな…」
三国は責任を感じているのか俯いて言った 自分はサッカー部の未来も考え、神童をキャプテンに任命した
だがそれは、神童に余計なプレッシャーを与えるだけだったのかもしれない
「…ボク、キャプテンの所に行ってきます」
すると海音は言った 皆は驚いて海音を見る
「え…キャプテン何処行ったのかわかるの?」
天馬は海音に訊ねる
「うん… 大丈夫だよきっと」
『力』の事を言うつもりは無いので、そう言って海音はごまかした
「じゃあ行ってくる!」
海音はそれだけを言うと、皆の制止する間も与えずサッカー棟を飛び出した
「……海音…」
天馬は海音が飛び出した自動ドアを見つめていた 本当に不思議な人だ まるで…別の次元の人のように
海音はサッカー棟を飛び出し、本校舎も抜けて第二グラウンドの前にやって来る サッカー棟の前でも気づかれる心配は無いだろうが、何となく不安だった
意識を集中させ、赤いつり目になると海音は『力』が有効な限り探した
『力』の射程は大体グラウンド二個分くらい 神童がその内に入っていれば見つけられる
どこだ?神童は化身使いだ、神童の化身だけを探せ
指揮者の化身マエストロ、敷地内の林の中…見つけた!
海音は目付きをもとに戻し、神童が居る方向へと走り出した
「………」
そんな海音の様子を、校舎の三階の窓から剣城は見ていた すぐ近くの窓はテープが貼られ生徒が触れないようになっている 入学式に海音が壊した窓だ
…また、あの能力を使っていた
海音は隠し通すつもりだろうが、剣城は大体気づいていた 海音が周りとは違う能力を秘めていることを
この事をフィフスセクターに報告すべきか 報告したら恐らく目を付けられ、何らかの方法でシードに引きずり込もうとするだろう かつて自分がそうだったように
あるいは海音が女子だと報告しようか もしフィフスセクターに報告したら恐らく、ホーリーロードには出られない あくまで少年サッカー大会なのだから
…だが…
『…ボクは剣城も仲間だって思ってる』
そうしようとすると海音のあの言葉がよみがえる シードだと分かりながら敵意も憎悪もなく自分に構ってくるアイツ
昔から人を寄せ付けない体質というか見た目をしている剣城にとっては本当に珍しい存在でもある
「…寂しいだと?そんな感情、捨てたはずだ…あの日に…」
誰もいない廊下で一人、剣城は呟いた
——————
雷門の敷地内には本校舎やサッカー棟だけでなく、他にも部活などで使われている建物や木々が生い茂る林などがあった
海音はその林の小道を歩いていた 入学してからあまり来たことのない道だが、ほとんど一本道なので迷うこともない
生い茂る木の葉に遮られた太陽の光が作り出すまだら模様の道を歩いていくと、向こうに人影が見えた 少し大きめの木の前に立ち、俯いてこちらに背を向けている
それが神童だと気づくのに、そう時間はかからなかった
「キャプテン…」
海音は声をかける 神童に反応はない 足音から海音が近づいて話しかけることは気づいていたのだろう
「キャプテン、ボクは………円堂監督となら本当のサッカーが出来る気がします!」
「本当のサッカーってなんだ!!今のサッカーに何の意味がある!!」
とうとう神童は声を上げた 俯き背を向けたまま続ける
「サッカーは支配された!!サッカーを愛してないやつらに!!…俺だって、もう情熱なんて無いんだ!!」
「そんなこと無いです!!」
海音も反論した
「キャプテンはサッカーが大好きだからあんな努力も出来る…なんで辞めるんですか!?」
「なんででもだ!!」
神童は海音を振り返る 目には涙が浮かび、サッカーの事で思い悩む神童の心境がそのまま表情に出ていた
「お前も気づいて居るはずだ…今のサッカーに、本気になる価値なんて無いんだッ!!!」
神童はボロボロ泣きながら言った ここまで病んでいたのだ、管理サッカーによって
「違いますよ!!キャプテンがサッカー辞めるなんておかしいです!!」
「うるさいッ!!」
神童は再び背を向ける
「俺には…松風や雪雨のような勇気がない… そうさ俺は逃げているだけなんだ、現実から」
「……キャプテン…」
海音は何も言う言葉が無かった
「こんな俺なんかに…キャプテンの資格なんて無いんだ…」
「資格ならあるさ!」
暗い雰囲気とは打って代わり、明るく元気な声が二人に聞こえた
ほぼ同時に向こうを見ると、そこには円堂が立っていた まるで何かを照らす太陽のように
「…円堂監督!」
海音も円堂を見ると明るく言った
円堂は神童を見つめた
「神童、お前はサッカーが大好きだから…涙が出るんだろ?」
「……監督…」
神童も声を上げた
「俺は…本当は勝ちたいです!勝敗指示なんて無視して!」
「…その言葉を待ってたぜ、キャプテン!」
円堂は笑顔で言った
海音も円堂を見た
「監督!ボクも本気で戦いたいです!」
「もちろんだ!負けていい試合なんてない!」
円堂は頷いた
そして海音は神童に近づき、手を差し出した
「ですから… これからもよろしくお願いします、キャプテン!」
「……そうだな、…海音!」
神童も海音の手を握った 先程とは違い、満天の笑顔で
…もう、現実から逃げるのを止める これからは前を向いて進んでいこう サッカーと向き合うんだ
これは神童の決意だった