二次創作小説(紙ほか)
- 第24話 ( No.76 )
- 日時: 2013/02/16 21:27
- 名前: 時橋 翔也 (ID: zHdJFj8Z)
このように歓声の中に立つのは、栄都学園戦以来だった
天河原は最近できた学校なだけあり赤がモチーフにできた校舎はきれいで、スタジアムのギャラリーもほぼ満席に見えた ギャラリーの約三割は天河原の制服を着た生徒だった
二つのチームはそれぞれのベンチに集まる 向こうにある天河原イレブンのベンチにもすでに天河原の選手達が集まっている
特に言うことも無いのか、円堂からの話は無い 雷門の皆はそれぞれ会話を交わしている中、これから試合に出る海音、天馬、神童、ベンチ入りの信助は固まっていた
「よーし!この試合、勝ちにいくよ!」
海音は言った 天馬と神童は頷き、信助は辺りの先輩達を見た
「…でも先輩達は勝つ気無いみたい…」
「それでも勝ちたい、俺達だけでもなんとかしよう」
神童は言った
すると海音右手を握り前に出す その意味に気づいた天馬と信助も同じく右手を前に出して三人は拳を合わせた 少し間を置いて、神童も同じことをした
「じゃあ…頑張りましょう」
海音が言うと、三人も頷いた
「…昔みたいだな」
その様子を見ていた円堂は呟いた 四人のその光景は、かつての自分がいた頃の雷門イレブンの面影を映していた
「………」
皆から少し離れ、海音は天河原のベンチに少しだけ近づく そして『力』で天河原の強さを探ってみた
全体的にレベルが高く、雷門より少し低い だが雷門の殆どが負ける気なので、かなり手強いだろう
「…化身使いいる…」
天河原に一人だけ化身使いを見つけた 赤い髪に中性的な容姿の選手だ あとはいない 二人ほど化身を出せそうにも見えるが、それは置いておこう
「…偵察か?雪雨クン」
名前を呼ばれ海音はギクリとした 名前を呼んだのは化身使いの選手だった
その選手は海音に近づいてくる
「知っているか?今お前はフィフスセクターの中でブラックリストに入っているんだぜ?」
「ブラックリスト… って事は君は…」
「ああ シードさ」
選手は頷いた だがどうしてなのか、剣城の時のようなシードという感じがしなかった
「俺は隼総 …勝敗指示に従うのか雷門は」
「先輩達はね… でもボクは勝つ気だよ」
海音は言った 隼総と名乗る選手は向こうを見た
「……ふん バカな野郎だな、どいつもこいつも」
それだけを言い残し、隼総は向こうへ戻っていった これまでのシードとは違う何かを漂わせながら
二つのチームはグラウンドで軽い準備体操を始める 海音はボールでリフティングをしていた
周りで準備体操をしているなか、神童は天河原の選手の方を見ていた その中に一人だけ知り合いがいる 小学生の頃同じサッカーチームだったのだ
「…久しぶりだな 喜多」
思わず神童は声をかけた 喜多と呼ばれたオレンジの髪をポニーテールにした選手は神童を見た
「神童君…」
少し寂しげに神童を見ていた
「去年のホーリーロード以来だな …相変わらずキャプテンなのか」
喜多の左腕につけられているキャプテンマークを見て神童は言った サッカーチームでも喜多はその人望の厚さからキャプテンを任されていた
「君がキャプテンか、…少しだけ以外だな」
「俺はもとからキャプテンという柄でも無かったしな」
神童は苦笑する 昔はもう少し明るかったが、やはりフィフスセクターに影響されたのか今ではそうでもない
「…やはりお前はフィフスセクター派なのか?」
「………」
神童が訊ねると、悲しげに喜多は視線を反らした
「…強いものには従うしか無いんだ」
「………」
やはり本当は本気でサッカーしたいのだろう だがフィフスセクターという鎖に縛られてしまっている 少し前の自分のように
準備体操が終わり、海音はFWの位置についた ちなみに海音の背番号は9 栄都戦の後神童と背番号を交換したのだ
「頑張ろうね海音!」
「うん」
短い会話を交わし、天馬も自分のポジションについた
試合開始のホイッスルがスタジアムに鳴り響き、天河原からのキックオフだった
天河原の隼総に素早くボールが行き渡り、隼総はゴールへ上がる やはり予想通り雷門の皆は勝敗指示に従う気なのであっさりと抜かれていく
しかし勝敗指示のせいか両チームとも覇気が全く見られない 苛つくのかレインがうずくのを感じた
「キャプテン!」
天城をあっさり抜き、隼総は近くにいた喜多にパスを出した 喜多はそれを受け取り三国がいるゴール前にやって来た 勝敗指示に従う三国はもはやゴールを守っているとは言い難い
勝敗指示では負けないといけない わざとゴールを入れさせないといけないのだ 三国もその事はよく理解していた
『サッカーを裏切りたく無いんです』
だが手を抜こうとすると、先ほど神童が言っていた言葉が頭の中でこだまする
わざと負ける それは自分が大好きなサッカーを裏切っている事になる
三国はシュート体勢に入った喜多を見て 目を反らした それでもやはり、勝敗指示には逆らえない
喜多は足に力を込めシュートした その時
神童はゴール前でシュートをカットした
「神童…!」
思わず三国は声をあげる 周りの選手達の視線が神童に向けられる
そんな中、神童はハッキリと、選手全員に聞こえる声で言った
「この試合…本気で勝ちを取りにいく!!」
その言葉は雷門だけではなく、天河原の選手をも凍りつかせた
隼総は神童を見た そして試すように言った
「…フィフスセクターに逆らったら未来は無いぞ」
神童も隼総を見た 答えなど決まっていた
「未来は自分達で切り開くさ!…天馬!」
そして神童は天馬へロングパス 大きな弧を描きボールが天馬のもとに収まると、天馬はそのまま駆け出した
だが、すぐに周りのDFに囲まれた
「こっちだ天馬!」
海音の声が飛んできた 声がした上の方に反射的にパスを出すと、天馬の頭上を飛ぶようにして海音が天馬からのボールを受け取り華麗に地面に着地した
このまま勝ちにいくんだ 絶対に!
海音が駆け出したのを見ると、神童は手をあげた
「いくぞ海音!神のタクト!」
あげた神童の手はまるで指揮者のように振られ、そこから黄色い線が出現した そして黄色い線は海音が誰にパスを出せば良いのか正確に指し示していく
海音はちらりと神童の方向を見た これはDVDでも見た必殺タクティクス 神のタクトだとわかった 霧野が話していた通り、神童が出現させる線はまるで指揮者のタクトのように、どこにパスを出せばいいか どうしたらボールをキープ出来るかなどが指し示されるのだ
海音の目の前の黄色い線は天馬の方に向かっていた
「天馬ッ!」
素早く海音はパスした そこに再び天河原のDF達が立ち塞がる だが黄色い線に導かれ、そのまま天馬は突っ込んでいった
とたんに天馬の周りに優しい風が吹いた 「そよかぜステップ!」
まるで微風のような暖かい風は天馬を守るようにして相手のDF達を軽く吹き飛ばし、DF達は地面に倒されたが無傷だった
栄都戦でも使っていた技だ
黄色い線はすでに無かった だが線が無くとも天馬は次に誰にパスを出せば良いのか分かっていた
「決めてください… キャプテン!」
ゴール前に来ていた神童にパスを出しながら天馬は言った
ボールが自分に迫るなか、神童は右足の前に円形の五線とそれに描かれた音符を出現させる それらと共に神童は両足が地面に着かないまま軽やかなボレーシュートを放った
「フォルテシモ!!」
フォルテシモは楽譜記号で『強い音』を意味する その名にふさわしいボレーシュートは勝敗指示を盾に余裕だったGKに止められる筈もなくゴールに突き刺さる
先制点のホイッスルが鳴り響き、ギャラリーからの歓声が沸き起こると海音と天馬は神童に駆け寄った
「やりましたねキャプテン!」
「…ああ!」
神童は海音とハイタッチした 天馬も満点の笑顔だった
そんな三人を他所に、雷門の皆は青ざめ始めた また勝敗指示を破ったのだ どうなるかわからない
「もう言い逃れはできませんよ〜!!」
頭を抱えて速水は嘆いた 隣にいた霧野は三人を見つめた 特に神童を
「………神童…」
恐らくあの二人が… 特に海音が神童を変えたのだ 変えてしまったと言うべきか
目に見えない厚い壁が、自分と神童を隔ててしまった気がした