二次創作小説(紙ほか)
- 第25話 ( No.83 )
- 日時: 2013/02/21 20:37
- 名前: 時橋 翔也 (ID: Z6SnwTyI)
「どういうことだ… 勝敗指示では俺達の勝ちのはずなのに」
天河原の何人かは訝しげにそう口々に会話を交わしていた
すると喜多がそこにやって来た
「…本気なんだな 神童君」
喜多はかつてのチームメイトを遠目で見て呟き、現在のチームメイト達に目を向ける
「雷門が本気で勝ちを取りに来たのなら、俺達もそれに応えるまでだ …そろそろ本気で戦おうか」
「だよね〜 …あいつらムカつくし」
すると金髪に眼鏡をかけた選手は言った
近くにいた隼総は選手を見た
「西野空先輩… あまり痛め付けないでくださいよ」
「さあどうだかね… て言うか君はそんなこと言っていいの?シードなのに」
西野空と呼ばれた選手は隼総を見た 確かに痛め付けるなと言うシードも珍しいだろう 隼総は思いながら言う
「……かわいそーですよ サッカー出来なくなったら」
「相変わらずシードらしくないシードだな」
「キャプテン今何て言いました?」
隼総は喜多を見た 確かにはじめ天河原に来たとき、シードだと最近まで気づかれなかったのだ
まあいいや… そう切り直し、隼総は海音達を見た そして誰にも気づかれない声で呟いた
「…見極めてやるよ お前らが『ふさわしい』かどうか」
試合再開のホイッスルが鳴り、再び天河原からのキックオフ
海音は天河原の選手に向かっていく 行ける!そう思った時だった
西野空が海音に横からタックルを仕掛けボールを奪わせないようにした
「なっ…」
思いがけない事に海音は一瞬戸惑い、その一瞬をつかれてボールを奪えずに終わった
「行かせない!」
するとそこへ天馬が向かっていく するとその選手は立ち止まり、ボールを思いきり蹴りつけてブーメランの形にした
「ブーメランフェイント!」
そしてそれを向こうに投げ、天馬を抜いたとたんまるでブーメランのように戻ってくると再びボールの形に戻り、選手はかけ上がっていく
「隼総!」
シードである隼総にボールが渡り、ゴールへと迫っていく それを見た神童は手をあげて神のタクトを振るう
「DF陣止めろ!」
黄色い線が雷門のDF達に防御の指示を伝えるように出現する しかしDF達はフィフスセクターに従う者だ 俯き防御をしようとせず次々と抜かれていく
動かぬ仲間の前では、神のタクトは無意味以外の何物でもない
そこに海音が走り込んでいく シュートを決めさせる訳にはいかない
それに気づいた隼総は意識を集中させ、背後から紫のオーラを出してそれを化身へと形成した
「出でよ!鳥人ファルコ!」
人形の鳥というより魔物に近い姿をした化身だった その眼光は獲物を捕らえるかのように鋭く、勇ましい
化身か…厄介だな 海音は思った
『…海音、リンクするぞ 化身を相手にするにはそれしかない』
海音の心を読むかのようにしてレインが話しかけてくる 確かに化身に対抗するには化身を出した方が最善なのだろう
だが海音はレインの言葉を無視して隼総に突っ込んでいった
そして呆気なく吹き飛ばされた
「うわあああああっ!!」
地面に叩きつけられた海音の頭の中に声が響いた
『海音!なぜリンクしない!』
「…リンクしたら、またチームが崩壊するから…」
海音はそう言いながらゆっくりと立ち上がる 脳裏に浮かぶのは栄都戦の惨状 勝った事に後悔は無いが、もう二度とあんな試合にしたくないのだ
ゴールへと迫る隼総の目の前に神童が立ち塞がる DF達が止めないならば、自分が止めないと!
「……やっぱり期待はずれか」
神童の目の前で止まると隼総は言った
どうやら雷門を少し買い被っていたのかもなと隼総は内心思いながらシュートの構えになった
隼総は化身とボールと共に高く飛び上がり、上を向いたまま隼総はまずボールを左足で蹴りつけてさらに上へと上がる
そこへ次は右足でファルコの掻き爪と共に思いきりシュートする まるでファルコの強さを象徴するかのように鋭くクロスされたシュートが放たれる
「ファルコ・ウイング!!」
化身使いでないと止めるのが難しい化身シュート技
それは隼総の心境を表すようにしてゴールへと向かっていく
化身シュートならば、化身で対抗するしかない! 神童も背後に紫のオーラを出して化身の形成を始めた
だが上手く形成出来ずに、強力なシュートを前に吹き飛ばされた
「うわあああッ!!」
地面に叩きつけられた神童を見て、思わず三国は声を上げそうになる
負け試合… それを分かっていながらも、三国は反射的にパンチングした
しかし止められず無情にもホイッスルと歓声が鳴り響いた
三国は膝をつき、苦悩を表情に表した
「俺は… 一体どうしたらいいんだ」
「太一頑張れー!!」
そんな三国の心境を他所に、歓声の中三国はそんな声が飛んできたのを感じた
驚いて向こうを見ると、そこにいたのは自分の母親の姿だった
「母さん…」
来るなと言ったはずなのに… どうして来たんだ…
その時、前半終了のホイッスルが鳴った
ハーフタイムに入り、両チームはそれぞれ自軍のベンチに戻り休憩を取り始めた
「………」
皆と違いベンチの横の地面に座り、海音は先程タックルされ痛め付けられた肩を抑えた じんじんと痛むが、今はそんなこと言ってられない
「化身使いか…」
海音の隣で神童も言った さっき自分は何も出来なかったと、悔しさを噛み締めながら
「…すでに勝ち負けは決まっている 反抗は無駄だ」
するとベンチの近くで雷門を監視していた剣城は嘲り嗤うようにして言った
確かに勝てないのか…?そんな不安を逆撫でするような気がした
「まだ勝てるさ、希望はあります!」
海音は皆に聞こえるようにして言った まだ逆転されたわけじゃない
「ほう… ではどうやって戦う? 相手には化身使いがいるのに」
剣城は海音を見た …まさかこいつも化身を使うのか?
「…キャプテンがいるよ」
海音はさらに神童を見つめた 今のところ化身使いは海音と剣城を覗き神童だけだ
「…勝ちたい…」
するとさらに海音の隣で天馬は俯きながら言った その表情から、勝ちたいという思いが痛いほど伝わってくる
「勝敗指示なんて、はね除けて!!」
「天馬…」
そんな親友を、信助は見つめていた
「監督!ボクたちは勝ちたいです!」
海音は立ち上がり、近くにいた円堂に言った
「…ああ、お前達の勝ちたいという思いがよく伝わってくるよ」
円堂は頷いた そしてベンチに座る三国を見た
「三国!お前は勝敗指示に従おうとしながらボールを止めようとした あれがサッカープレイヤーの本能だからだ」
「本能…」
円堂に言われた言葉を三国は呟く
さらに円堂は周りに問いかける
「皆!これがお前らが求めるサッカーなのか?本当に勝ちたくは無いのか?!」
「ボクは勝ちたいです」
海音は言った その蒼い目に揺るぎない意思を携えて
『…相変わらず変わらないな円堂は』
するとレインは言った
「君もよく出てくるね… ヤバイ明日は台風くるかも」
『俺とリンクしたら出来ない事も無いぞ』
「いや、いいよ…」
海音は言った レインなら本当にやりかねない
すると天馬はそんな海音を見た
「海音どうしたの?独り言?」
「な…何でもないよ」
冷や汗を掻きながら海音は適当に言った 確かに独り言を呟いてばかりの人は只の変人にしか見えないだろう
「…キャプテンは本当にラフプレー嫌いなんですね」
天河原のベンチで隼総は喜多に言った
喜多は隼総を見つめた
「昔… チームでラフプレーが原因でサッカーを止めた仲間がいたからな」
喜多は言った 悲しげに
「そんなこと言っていいの?勝たないと意味ないのに」
すると嫌みったらしく西野空は言った
隼総は西野空を見た
「先輩は卑怯じゃないですか、雪雨にあんなタックル仕掛けて」
「フィフスセクターのサッカーはこんなものでしょ?シードである君ならよくわかるよね」
言われてみたらそうだ
ラフプレーが嫌いなシードなんて、きっと他にそうそう居ないだろう 『アイツら』を除いて
「だからって…やり過ぎですよ」
「………」
喜多は隼総と西野空の対立や他のチームメイトを見渡した
かつては天河原も、正々堂々としたプレーで戦う強豪チームだった だがフィフスセクターが出来てから、勝利のためにはラフプレーもいとわない非道なチームへと変わり果ててしまったのだ
昔のプレーは何処に行ったのか… その答えは返ってくるはずも無かった