二次創作小説(紙ほか)
- 第27話 ( No.86 )
- 日時: 2013/02/24 21:34
- 名前: 時橋 翔也 (ID: PlCYIOtu)
「なんだよあいつ…!」
隣の西野空は神童を思いきり睨み付けた
喜多は西野空を見た
「…俺達は勝利に固執していて、本当のサッカーを忘れていたんだな…」
「本当の…サッカー?」
西野空は喜多を見つめた 一瞬意味が分からなかったが、何となくわかる気がした
昔は自分も真剣にプレーしていた
だが天河原の荒いプレーにいつしか洗脳され、真剣の欠片も無くなっていた サッカープレイヤーの誇りも忘れて
「……確かにこの気持ち、しばらく忘れていた気がする」
サッカーを楽しむ気持ち それを思い出した西野空は俯いた
神童は天河原のDF陣を抜いていき、ついにはゴール前に迫る 頼むマエストロ、俺に応えてくれ!そう神童は自分の化身に語りかけた
「……!?」
すると海音は『力』を使い神童を見てみた 神童の中にいるマエストロが神童自身と共鳴していた 声のようなものも微かに感じ取れた
『信じて』
マエストロは確かにはっきりとそう言った気がした
聞こえたとたん海音は目付きを戻して神童に叫んでいた
「キャプテン!化身を…マエストロを信じてください!!」
「マエストロを…?」
神童は海音に言われ、はっとした
そうか…俺は化身を使いこなす事ばかりに集中していて、マエストロの真の力をわかりきってなかった
理解した神童は紫のオーラを再び形成してマエストロを造り出す
「すまないマエストロ…俺はお前に応えていなかった」
マエストロに謝罪すると、僅かにマエストロが微笑んだのが海音にはわかった
マエストロの四本腕がボールへと向けられ、ボールはまるで水に包まれたようになり地面に降り立った
そのボールを神童はすごい威力で蹴りつける
「ハーモニクス!!」
ハーモニクスとはハープなど弦楽器で使われる演奏法の事だ その名に廃らない威力のシュートは真っ直ぐゴールへと向かっていく
「鳥人ファルコ!」
するとそこへ素早く化身を出した隼総が立ち塞がる ファルコはその勇ましい腕でボールを受け止める
「くっ…うわああっ!」
だが神童の化身シュートには敵わず、ファルコが打ち砕かれ消えた それと同時にシュートが威力を保ったままゴールに突き刺さる
その時 試合終了のホイッスルと歓声が鳴り響く
2対1で雷門の勝利だった
「やったああ!!」
天馬は飛び上がる そこに神童と海音、ベンチで見ていた信助もやって来た
「やったよ天馬!勝敗指示をはね除けて勝ったんだよ!!」
海音は言った いつもに増して満天の笑顔だった
「すごいよ二人とも!」
信助も言った
そこにゴールから三国もやって来た
「三国先輩…ありがとうございました」
「…やっぱり勝利の女神の前でみっともないプレーは出来ないしな」
三国はギャラリーで声援を送る母親を横目に神童に言った
「…負けたか…」
喜多は呟く だが何故だろう、今まで勝利に固執していた筈なのに清々しかった それは隣の西野空も同じのようだった
「…まあ負けても、次勝てばいいしねー」
西野空は昔のプレーを思い出しながら言った
すると喜多に近づいてくる人影が見えた それは神童だった
喜多は神童を驚いて見つめる
「神童くん…」
「…喜多」
神童は喜多を見つめた そして握手を求めて手を差し出した
「いいプレーだった… また戦おう」
「………」
喜多は神童の手を握る そして笑顔になった 昔のように
「そうだな… 君達なら変えられるかもしれない この腐敗したサッカーを」
隼総はグラウンドに座り込んでいた 負けたが取り合えず事は順調に進んだ これで次もいける…
そんなことを考えていると、そこへ海音がやって来た
隼総は海音を見た
「雪雨…」
「隼総…だっけ、サッカー楽しかったよ」
海音は隼総に手を差し出す 少しためらったが、隼総は素直に海音の手を握って立ち上がる
「…君は不思議なシードだね、ラフプレーを好まないし…」
「…まーな」
隼総は言った そして続けた
「てかさっきまで敵だったのになんで気軽に話せるんだよ」
「…サッカーをしたら皆仲間だから」
海音は笑顔で言った 昔言われた言葉だった
グラウンドは明るい雰囲気のようだった だがそれは簡単に破られた
「隼総」
少し低めの声がした 見るとグラウンドに数名の黒ずくめの男たちがいた
皆は明るい話をピタリと止めて男たちに視線を向ける きっとフィフスセクターの者だと海音にはわかった
「敗北についての処分が決まった… 来てもらおう」
男は言った 海音は心配そうに隼総を見た
「隼総…!」
「…シードに敗北は許されない 当然さ」
隼総は淡々と言った
男は隼総を睨み付けた
「隼総…お前も『奴ら』の仲間だったのだな」
「………」
奴ら?海音は隼総を見るが、全く否定しない むしろ薄笑いを浮かべていた
すると隼総は海音を見つめる
「雪雨、いずれ…フィフスセクターは崩壊する その中心となるのは…お前たち雷門イレブンだ」
「え…?」
海音の疑問に答えることなく隼総は前を向き、男達の元へ歩き出した
「隼総!」「隼総くん!」
喜多と西野空は叫んだ だがその叫びも虚しく、隼総は男達に連れていかれてしまった まるで囚人のように
海音は小さくなっていく隼総の後ろ姿をただ見つめていることしか出来なかった
これから巻き起こる革命など知るよしもなく
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辺りには樹齢千年は越えていそうな木々が立ち並び、風になびかれて辺りの草や葉がカサカサと揺れていた
快晴なのに薄暗いこの森に、一人の少年が立っていた 年は十三、四くらいで黒い首元くらいの長さの髪にこめかみの辺りから白と赤と黒の髪が延びている 来ているのは学ランのような黒い服だった
「…ちょっと出掛けていたのさ、気になる子がいてね」
少年は肩に止まっている緑色の小鳥に向かって言った そして空を見上げた
「雪雨海音…か、なんか不思議な子だったな…」
すると小鳥が少し鳴いたあと空へと飛び立っていった
「でも、あんな甘いサッカーでサッカープレイヤーぶるの、許せないな……」