二次創作小説(紙ほか)

第28話 ( No.88 )
日時: 2013/02/26 20:14
名前: 時橋 翔也 (ID: cFLcjEJH)


早朝の廊下には誰もおらず、海音は一人で静かな廊下を歩いていた 相変わらずのジャージに肩にかけられた通学用指定バッグ だが今は見慣れないものが存在していた
バッグをかけているもう片方の肩には白い不透明なビニール製で紐で口を閉められた袋が下げられていた その膨らみようから、ボールの形の何かの存在を意識させる

「………」
今日は久々に直矢に会いに行くつもりだった このボールを見たらきっと驚くだろう
そんなことを考えながら歩いていた時だった

「…もしもし」

剣城の声が歩いていた廊下の角を曲がった向こうから聞こえた 海音は角を曲がった向こうを見てみると、剣城が壁にもたれ掛かりながら電話をしていた 海音は剣城に見つからないよう角の壁に隠れた
『ファーストランク剣城、雷門は二度もフィフスセクターに逆らった これ以上は見逃せない』
海音には聞こえた 普通の人には聞こえない音量だが
「…わかっています」
剣城はそのまま言った
『特に雪雨は要注意人物だ…剣城、雪雨を次の試合で再起不能にしろ 君の望みの為にもな…』
「…………はい」
そして剣城は電話を切って携帯をポケットにしまいこむ
海音を倒すこと、それは望みでもあったはずだが、何故だか乗り気になれなかった

「………」
『あの少年は…お前を潰す気だな』
海音の中でレインは言った 昨日の試合以来、今まで出てこなかったレインが頻繁に出てくるようになった
何故だかはわからないが、海音も特に気にしなかった
「そうだね… まあ簡単に倒される気はないよ 君もだよね?」
『当たり前だ』
レインははっきりと海音に言った
『あの少年…いけ好かないな』
「レインは短気過ぎるよ…剣城も良いとこあるよ?いつも見てるじゃん」
『良いとこ?どこがだ?』
「え…例えば………」

「…何している雪雨」

背後から声がして海音は言いかけて振り返る 剣城がそこに海音を見ながら立っていた
「あ…剣城…」
「聞いていたのか話を」
剣城は単刀直入に訪ねた 以外と落ち着いていた
「まあ…ね…」
「…次の試合がお前の最後だ 覚悟しておくんだな」
不適に剣城は笑った この怪しい笑顔はもう見慣れていた
すると海音の中にとある疑問が出てきた 剣城と出会ってからずっと思っていたことだったが、今まで口にはしなかった

「…剣城って、どうしてフィフスセクターに居るの?」
「はあ?」
いきなり訪ねられ、剣城は表情を変えた
「サッカー上手いのにサッカー嫌いで…不思議だなって思ってたんだ」
海音は剣城に訪ねた
とたんに剣城の中に怒りが生まれ始めた 今までずっと押し付けてきたものを、海音は放とうとしている気がしたのだ
「お前にわかるわけ…」
そう言いかけて剣城は止まった

突然の事だった

剣城の頭の中に突然、見覚えのない映像が流れ込み始めた

どこか降雪地方の集落のようだ だが辺りの木で出来た家の殆どが燃え盛り、破壊されている そのため空は立ち上がる煙で暗かった
さらに道端にはあまり見ない質素な服を着た人々がまばらに倒れている 服はボロボロになり傷だらけで、積もっている雪が赤く染まっていた
皆死んでいるようだ 家の近くにいて燃えていて無惨になっているのもあり、まさに地獄絵図みたいだった

「……っ?!」
訳もわからない映像に、剣城は吐き気が込み上げる これ以上見たくないと剣城は口を抑えるが、映像の羅列はとどまることを知らない

「え…剣城?」
様子がおかしい剣城を心配そうに海音は見るが、剣城にはもはや海音など見えていなかった

映像の向こうに生存者と思われる人影が見えた 年は六歳程の幼い少女だった 青白い長い髪を霧野のような二つ縛りにしていて、少女もまた様々な所に怪我を負っていて血まみれだった
少女はしゃがんで目の前の何かに叫ぶようにして呼び掛けているのがわかった それは同じ生存者のようだ 年は十代半ばほどの少年 しかし少女よりも傷は深刻で、助かる見込みが見られない
少女は泣きながら少年に呼び掛けていた

だがその時、少年が目の前にいた兵士のような者達が放った銃によって、無惨に弾けとんでしまった

「剣城!?」
海音はその映像に耐えきれなくなり、口を抑え膝をついた剣城に言った
海音は訳も分からず剣城の背中をさすった 呼吸は安定しておらず、泣いていた
それでもなお剣城には映像が流れ込む

目の前に血の海を残して弾けとんだ少年を前に、少女は泣き叫んでいた
剣城に伝わってくるのは、悲しみ
恐らく少女が感じているであろう酷い困惑と身を引き裂くような悲しみが剣城を支配していた
とうとう惨劇の映像に耐えられなくなった剣城は身体から力が抜けて海音にもたれ掛かる

「剣城どうしたの!?剣城!!」
海音は剣城を揺するが反応は無い
変わりに剣城はこんなことを発した

「…ソラ…」

「え…今なんて…」
「海音?」
言いかけた海音にそんな声が聞こえた
海音は向こうを見ると、そこに居たのは登校してきたばかりの天馬だった
「天馬…」
「え、剣城…?」
天馬は驚いて気を失った剣城を見つめた
海音は剣城を抱き抱えてゆっくりと立ち上がる 以外と華奢な身体つきだった
「天馬!手伝ってくれない?剣城を保健室に連れていかないと…」
「え…わかった…!」

後で話を聞こう
そう思いながら天馬も剣城に駆け寄った