二次創作小説(紙ほか)
- 第31話 ( No.99 )
- 日時: 2013/03/13 22:32
- 名前: 時橋 翔也 (ID: ozdpvABs)
気分が悪くなるような薬品の臭いにはどうしても馴れることが出来ない 剣城はいかにも不良です感を醸し出しながら病院の廊下を歩いていてそう思った
きっと自分がここに入院なんて始めた日には、気分が悪くて全身が拒否反応を起こしてしまうだろう そう考えると患者達がとても高位な存在に感じた
剣城はお決まりのルートを通ってお決まりの病室のドアを開けた
だがそこに、お決まりの人物の存在は無かった
「…兄さん?」
検査でもしているのだろうか…そう考えた時だった
「優一さんなら近くの病室に行ったよ」
すると背後から声を掛けられる 通りすがりの看護師だった
近くの病室?その言葉に剣城は振り返る
「病室って?」
「すぐ近くの203号室よ、…また行ったのね」
「…ありがとうございます」
剣城は看護師に礼をすると、兄がいるという病室へと向かった
兄が別の病室に行くなんて珍しい… あまり馴れない道を通り、番号を辿っていくと203号室はすぐに見つけた
剣城はドアの前に立ち、軽く二回ノックをして中にはいると、そこには兄と見知らぬ少年の姿があった
「あ、京介来たのか」
車イスに乗った兄は剣城を見ると微笑んだ 近くのベッドに座った容姿端麗な少年は剣城と兄を交互に見る
「優一さん…この人は?」
「京介だよ、前に話した」
兄は少年に言った どうやらここは個室のようで少年の私物であろう私服、バスケットボール バスケ雑誌が置かれていた
バスケ少年の個室になぜ兄が居るのか剣城には検討もつかなかった
「兄さん…この人は?」
「直矢くん 俺より二つ下で前に話した友達なんだ」
兄は楽しそうに語る 確かに以前兄はそのような人物を話していた こんな楽しそうな兄を剣城は久々に見た
直矢と呼ばれた少年も剣城を見た
「始めまして…京介くん 優一さんとは仲良くさせてもらってます」
「こんにちは…」
剣城も軽く礼をした 病弱なのが目に見えてわかるほど直矢の体つきは華奢だった
するとハッとしたように直矢は腕時計を見ると、急いで立ち上がった
「そろそろ検査に行かないと…すいません、終わったらまた来ます」
「わかった 頑張ってね」
笑顔で兄は直矢を見送ると、直矢は歩いて病室を出ていった
兄は姿を消した直矢を思い浮かべながら自分の足を見つめる
「…俺もいつか歩けたらな…」
「………」
その言葉に剣城はズキリと傷跡が抉られる感覚を感じた 歩けない兄にとって唯一の希望はそれだ
剣城は兄に近づき、決意したような眼差しをむけた
「兄さん…俺がまた、兄さんにサッカーさせるから…」
「でもこの足を治すには…すごい大金が必要なんだぞ」
兄は心配そうに剣城を見つめる この足を治すには一般家庭には到底手の届かない大金が必要らしい それを弟が用意できるとは思えない
その時、剣城は突然兄の両肩を掴んだ
「兄さん!俺が絶対に…!」
「え…京介?」
「直矢!聞いてよこのボール…」
「?!」
——————
五人はそれぞれ別れて少年と剣城を探すことになり、海音は一人で患者達が行き交う廊下を歩いていた 今持っているボールを見たら直矢はどんな反応をするのか、考えるだけで楽しみだった
海音は少年や剣城を探す前に直矢のいる病室に向かった 直矢は決して症状が軽い病気と言うわけではないが、最近は検査もされず元気だと話していた
海音は直矢の病室に来るとノックもせずに勢い良く病室のドアを開いた
「直矢!聞いてよこのボール…」
海音は言いかけて止まった
直矢の病室に入ったつもりだったが、中にいたのは先程の少年と、それから剣城の二人だった
しかし問題なのは…剣城が少年の肩を掴んでいることだ
もう襲おうとしているようにしか思えない
「あ、君はさっきの…」
「な…!」
二人は声をあげる 少年は至って穏やかだが、剣城は驚いて少年から飛び退いた
「………」
海音は意味もわからず頭が混乱した挙げ句
「あ…病室間違えました…はい…」
そう言いながら先程の明るさはどこへ行ったのか、海音は静かに病室を出ていこうとした
「ええ!?ち…違うよここは直矢君の病室だよ!?」
だが少年に思いきり引き留められ、海音は再び病室に舞い戻った
「あれ…じゃあ直矢は…」
「さっき検査に行ったよ」
少年は言った 海音は剣城の方を見た
なぜ剣城がここにいるのかさっぱりわからない
「剣城…どうしたのここで」
「それはこっちの台詞だ!」
剣城はトゲ剥き出しで海音に言った すると少年は海音の方を見た
「もしかして京介の友達かい?」
「はい!同じサッカー部員です!」
海音は元気良く言った だが少年の方は苦笑いしながら海音が手に持っている物を指差した
「…それ…バスケットボール、だよね」
「……はっ!」
海音は今持っている物に気づき、急いで後ろに隠した バスケットボールを持ったサッカー部員 余りにもミスマッチすぎる
「…あの…剣城と知り合いですか?」
海音は気になることを訊ねる 少年は軽く笑った
「知り合いどころか兄弟だよ、俺は剣城優一 京介の兄さ」
「に、兄さん…」
剣城は優一と名乗る車イス少年を見た 一瞬海音は頭が真っ白になり、そして理解した この二人はれっきとした兄弟なのだと よく見たら瞳の色や雰囲気は似ていないが、同じ藍色の逆立った髪に顔つきもなんとなく似ている
優しい兄 不良の弟 言い方は悪いが、明らかにこちらの方がさっきの自分よりミスマッチだと思う
海音は笑いそうになるのをこらえながらそう感じていた
「京介の友達かあ…京介どうなのサッカー部では?」
だが優一が無邪気にそう訪ねてきたのを聞いて、海音は一瞬で表情が変わった それは剣城も同じのようだ
…恐らく優一は剣城が、弟の京介がフィフスセクターのシードだと知らないのだ そして次の試合、剣城がシードとして海音を再起不能にする命令を受けたことも
「兄さん俺は…」
「剣城はすごいですよ!サッカー部でもずば抜けた実力を持ってて…化身まで使えるんです!」
海音は考えた後、優一にそう言った 剣城は驚いて海音を見つめた 海音も一応嘘にならない程度に言ったつもりだ
海音に言われ、優一の表情がパッと明るくなる
「そうかそれは良かった!京介いつも来てくれるのに…何も話してくれないから」
「………」
きっと優一にシードだと知られたく無いのだろう 海音は剣城をちらりと見た
剣城もため息をつくと、優一を見た
「兄さん俺はもう行くよ…」
そして海音に近づき 腕を思いきり掴んだ
「ほらお前も行くぞ」
「あ、うん…さよなら!」
海音はどさくさ紛れに優一にそう言うと、剣城に引っ張られながら片手にボールを持って病室を出ていった
——————
「お前…まさかつけてきたのか?!」
角を曲がり、海音を振り返った剣城は海音に強く言った はっきり言えばそれは間違いでは無いのだが、一応直矢に会いに来たのが第一だ
「ち…違うよ!ボクは直矢に会いに来ただけで…」
「直矢…ってあの病室の人か」
剣城は腕を組みながら言った
海音は先程渡せなかったバスケットボールを抱いた 剣城はそのバスケットボールを見つめる
「…お前バスケするのか」
「うん、楽しいよバスケ!」
海音は嬉々として剣城に言った
剣城は訝しげに海音を見つめた
「なら…なぜサッカー部に入った?」
「だって…サッカーが好きだから」
海音は当たり前のようにお決まりの言葉を剣城に言った その言葉は大嫌いだ
「…所で剣城さっきどうしたの?」
「は?」
「急に泣き出して… 気を失ったからボクが保健室に連れていったけど」
そう言われたとたん、剣城の中にあの映像が思い浮かんだ 考えるだけで寒気がする
「あと…ソラって知り合い?」
「ソラ?」
「うん 剣城そう呟いてたよ」
剣城は記憶を探るが、そのような人物は知らないし、そもそも映像が流れ込んだ時に自分が何をしていたのかあまり覚えていない もし泣いていたなら、この上無い失態だ
「…知るか、もう…俺と関わるな」
剣城はそう言うと、すぐに海音から離れていった 泣き顔を見られたのが恥ずかしい 兄や親にしか見せたことないのに まさか敵しかも女子に見られてしまったのだ
だがひとつだけ疑問がある
俺はあいつを潰すんだ …それを知りながらあいつは何で俺を助けるのか
「…仲間か」
剣城は呟き、歩いていった
「……剣城」
「あ!海音ー!」
悲しげに呟いた海音の背後から、天馬の元気な声が聞こえて振り返ると、そこには天馬達四人がいた
「ったく探したぜ、どこ行ってたんだよ」
「ちょっと歩いてました…」
海音は水鳥に何とかそう言って誤魔化した すると海音は葵がさっきまで持っていたサッカー雑誌が消えていることに気づいた
「サッカー雑誌渡せたの?」
「うん、あのお兄さんすぐそこの病室にいたから」
葵は頷いた
「あーあ…結局剣城居なかったなー」
「…仕方ないですよ、もう戻りましょう」
さっき剣城と話していたことを隠すつもりの海音は水鳥に言った 水鳥を始め三人も剣城が病院で何をしていたのか知りたいようだが剣城に兄がいる事は話してはならない気がする