二次創作小説(紙ほか)
- Re: 暗黒の世紀を切裂く—— 第2話更新 ( No.10 )
- 日時: 2013/11/10 11:22
- 名前: 風死(元:風猫 ◆Z1iQc90X/A (ID: Bs0wu99c)
冒険王ビィト 暗黒の世紀を切裂く——
第3話「戦士達の世界へ Part3」
今ビィトがいるのは、アンクルスで最も家が密集している空間の路地裏。
彼をここまで運んできた少女は、体をワナワナと震わせながら怒鳴った。
「馬鹿ッ! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿アァァッ! あんたどういうつもりなのよ、勝手に契約なんてしちゃってっ!」
全力で怒りを表現する少女に、ビィトは頬をさすりながら言う。
「うっせぇなぁ。どっちみち俺はバスターになるって、決めてたんだ。いつなったって同じだろ?」
「両親(おや)を亡くしたあんたを育ててくれたうちの母さんや父さんに、申し訳ないって思わないのかって聞いてるのよ!」
ビィトの弁明に重ねるようにして、少女は声を張り上げる。
どうやら少女はビィトと同じ屋根の下に住まう、深い顔馴染みらしい。
当然彼のことを良く知っているだろう彼女は、彼がバスターを志(こころざ)していたことも知っているようだ。
そして、彼の意思を曲げることができないという事実も。
だが、予想よりも余りに早すぎた。
バスターになるということはつまり、常に死の危険に身をさらすということ。
育て親に感謝の念があれば、そう力もつけず簡単になる職業ではないはず。
少しは気持ちが届くだろうかと、少女は少年の表情を伺(うかが)う。
しかし、ビィトはケロリとした表情で。
「大丈夫だって! 俺は世界最強のバスターになるんだ。そしたら、おじちゃんもおばちゃんも、きっと喜んでくれるさ。ついでにポアラもその嫁さんにしてやっても良いぜ。それなら文句ないだろ?」
何度言葉を重ねても理解してくれないだろう、ポアラと呼ばれた少女は唐突(とうとつ)に理解した。
そしてバスターになってしまえば、それを解除することはできないことを思い出す。
それを生業(なりわい)にしてしまえば、当然上層部から入った仕事を断ることもできない。
今更議論しても意味のないことだと、理論的に考えるほどに無意味だと思い知る。
最後にポアラは幾ら理論的に割り切ろうとしても、感情的には許せない思いを拳に乗せて、思い切りビィトの顔面を殴った。
土壁が砕ける音が耳に届いたと同時に、ビィトは気を失う。
それから、数分の時間が過ぎビィトは目を覚ます。
「うーん、どうして誰も俺の話を信じてくんねぇんだ? やっぱ、レベル1だから、説得力ねぇのかなぁ?」
少しひんやりする地べたに寝転がりながら、やや的外れなことを口にして彼は立ち上がる。
ゼノン達やポアラが彼の言葉を遮(さえぎ)ったりするのは、彼が弱いからという問題とは違うところにあるのだが。
「よーし! まずはモンスターを倒してバンバン倒しまくろう! なーに、あっと言う間に、レベル10位にはなるさっ!」
そして、ポアラに殴られたときも手放しはしなかった、手製の槍を掴み走り出す。
その頃ゼノン達は、ビィトを世話している夫婦、つまりポはアラの両親が経営する宿屋の食堂にいた。
田舎らしい飾らない内装。
木の匂いが香ってくるような、優しい雰囲気の店だ。
6人座れるテーブルが5つ。
カウンターから1番近い席にゼノン達は座っている。
アンクルスのような片田舎に足を運ぶような旅人はほとんどいないのだろう、彼等以外は誰も座っておらず物寂しい。
そんな静かな店内に驚愕に染まった声が響く。
ゼノンの声だ。
「3日に1度しか寝ないっ?」
他の面々も怪訝(けげん)がる中、ポアラの母親と思しき40台程度の女性が、語り出す。
「そうそう、ビィトは不思議な子でねぇ? 昔っから3日間ずーっと、起きていて、そのあとは丸1日眠る。そういう、体質みたいなんだよ」
無精ひげにバンダナ姿をした、ポアラの父と思しき四十路(よそじ)男性が続く。
「遊ぶのも仕事手伝うのも、3日間ぶっ通し。この宿の屋根だって、ツララコウモリに穴空けられたのを、あいつが3日間で全部直しちまった」
それに対してライオは内心驚きながら、平静を保ち言葉を返す。
「ほぉ、そいつぁある意味バスター向き……かもな。敵を追うにしろ冒険の旅をするにしろ、活動時間は長いほうが良い」
少しでもビィトのバスターという職業に対する適正を見つけ安心したいという、ライオの本音を察しポアラの母親がそれを否定する。
「無理無理ッ! その後だって、お風呂で爆睡(ばくすい)しちゃって、丸1日浸かってたのよ? 体ブニョブニョになっちゃって、全く溺れたりしなくて良かったわよ」
ぶっきら棒で憎まれ口を叩くライオだが、本当は熱く世話好きな男であることを短い付き合いで知っているのだろう。
「そう言うこった。寝てるときに魔物に襲われたりしたら一溜りもねぇよ」
皮肉を含んだ口調でポアラの父が続く。
そんな中、ゼノンは沈鬱(ちんうつ)な顔立ちで物思いに耽)ふけ)る。
それを見たポアラの父は申し訳なさそうな表情をして口を動かす。
「すまねぇなゼノン。あの子にはカタギの暮らしをさせるつもりだったんだが……」
どうやら、ゼノンとビィトとは何かしらの関係があるようだ。
彼の表情が少し動く。
そのときだった、ライオが席を立ったのは。
「ちょいと様子を見てくらぁ。おっちゃんが止めてくれなきゃ俺達ぁ、この町来るたびこれから野宿だしなぁ」
これからは、ビィトの様子を見るため定期的にアンクルスにを訪れる気らしい。
自分の軽薄な台詞が招いた結果に対する、せめてもの罪滅ぼしとしてだろう。
ここ2日間何だかんだで、付きまとうビィトの世話をしてきた彼のことだ。
ビィトへの単純な思い入れも、少なからずあるに違いない。
「ありがとなライオ……」
「気ーにするなって。俺の背金もあるし、な」
安堵した声で礼を言うポアラの父に対し、軽い口調でライオは流す。
しかし、眼光鋭く表情は真面目そのものだ。
そんな同胞をクルス達は、優しいまなざしで見送る。
一方ゼノンは、他の仲間達とは全く違うことを考えていた。
『俺達バスターの能力と眠りの間には、密接な関係がある。生まれつき深く長い睡眠をとるということは、あいつも持つのかあの力を』
大陸最強と名高いバスター集団、ゼノン戦士団の中にあって頭1つ違う実力を持つゼノンだけが知る情報。
“あの力”それは、ビィトが世界を蹂躙するヴァンデル達を殲滅させるための、切り札となっていく。
まだ、遠い未来の話だ——
——————
End
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