二次創作小説(紙ほか)

Re: 暗黒の世紀を切裂く—— 第3話更新 ( No.18 )
日時: 2013/11/10 11:30
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: Bs0wu99c)

 冒険王ビィト 暗黒の世紀を切裂く——
 第4話「戦士達の世界へ Part4」

 「ったーっく、あの馬鹿だぎゃぁ、どこにいきやがった!?」

 苛立たしげな口調で赤いボサボサ頭の男が愚痴を零す。

 「ライオよ、なぜビィトを探しているかは分らぬが、ビィトなら外へ飛び出していったぞ」
 

 そんなライオに掛けられる声があった。
 深海の様に深く、どこまでも落ち着いた声。
 見上げると巨大な青色の目が、見下ろしているのが分る。
 門だ。
 街や村を囲む巨大な塀。
 その中央には意思を持った扉が設置されている。
 彼らの役割は相手をその目で見極め、自らを稼動させるかさせないか決断すること。
 それと、門外に対する一連の状況報告だ。
 ライオはビィトが外にいると聞いて驚きの表情を隠せない。
 明らかな焦りを見て取った門が、更に言葉を続ける。
 

 「ライオ、心配はないはずだ。彼が行った池にはガブリ貝程度の下級モンスターしかいない」
 「……門を開けてくれ。あの馬鹿のことだ! 先走って強い奴のいる場所に行きかねないだろ!」
 「確かに……門を出て20分と経って居ないが、急いだほうが良いやも知れんな」
 「馬鹿野郎が! 頭沸いてんのかてめぇ、子供の脚だとか甞めんなよ! 20分もありゃ簡単に危険区画に出ちまうぞ!?」

 アンクルスに到着し時から思っていた。
 この町の門は危険の少ない片田舎ゆえか、他の門より相当鈍い。
 他の門ならいかなる理由があろうと、子供を外に出すことはないだろう。
 例えそれがバスターでも指南役のバスターを随伴(ずいはん)させるのが普通だ。
 子供の少ない町だからというのも関係しているかもしれないが、余りに目の前にある彼の対応は杜撰(ずさん)。
 
 ライオはイライラしながら、扉が開かれるのを待つ。
 そして、体がすり抜けれる程度の隙間が開いた瞬間走り出す。
 近隣(きんりん)でモンスターがいる場所。
 ガブリ貝が生息している沼はヤフィロン沼地しかない。
 無論、ビィトがもっと危険な場所に向っている可能性も有るが、まずはそこを調べるべきだ。
 いくらビィトが無鉄砲の愚者(ぐしゃ)でも、最初から強者に挑むなどという無茶はしないはずだと信じて、ライオは走った。

 
 「くそっ、あの馬鹿! 行動が速過ぎだろうが! 少しは考えてから動け!」

 クルス辺りが居たら、逆に窘(たしな)められそうなセリフを吐きながら、ライオは息を切らせて走る。
 100メートル10秒台の健脚(けんきゃく)で、すぐに目的地につく。

 「はぁはぁっ、ビィト……くそっ、ここにいろよっ」

 沼地の目前で止り、息を整(ととの)えるライオ。
 そして、改めて辺りを見回す。
 先ずは正面、そして左。
 ライオは何かを探すとき、正面、左、右の順で首を動かすくせがある。
 右からジャブジャブと水を蹴るような、激しい動きをするものの少ない、沼地には似つかわしくない音が響く。

 「ライオー、何焦ってんだよぉ!?」
 「はっ、死んでなかったか……餓鬼」
 「餓鬼じゃなくて、未来の英雄だって!」

 ライオは右へ顔を振り向いた。
 すると、そこにはあのボサボサ頭の少年が体を濡(ぬ)らしながら、ガブリ貝と戦う姿が。
 ライオは彼の安否(あんぴ)を確認すると、拳(こぶし)を天に掲(かか)げ、喜びをあらわにした。
 
 そんなライオの心配など知らぬビィトは、相変らずマイペースだ。
 呆れたライオは、躊躇(ためら)わず沼へと入り込む。
 それなりに階位の高いバスターの服は、基本的に防火性と防水性を備えている。
 ライオのジャケットやズボンも、当然加工されているのだ。
 ちなみにビィトの様に、普通の服で何の躊躇いもなく沼地に飛び込む者は、バスターといえど少ない。
 一目散(いちもくさん)にビィトへと走りより、ライオは彼の頭に拳骨を食らわす。


 「いってぇ! 何すんだよライオ!」
 「うるせぇ! こういうときは先達(せんだつ)を頼れ! まだまだ、素人(しろうと)なんだからよ! 期待の新星をこんなところで、死なせるわけにはいかねぇんだよ! バスター業界も、結構人員不足だしな」
 「期待の新星? 今、ライオそうっ、いでっ!」
 「調子に乗るな! 本当にそうなるかはこれからの努力次第だ!」 

 
 しばらく言い争う2人。
 周りにいるガブリ貝達は、大声を出し合う2人が恐ろしくて近づけないようだ。
 二の句が続かなくなって黙り込んだのは、ビィトが先だった。
 それを見たライオは、結局まだまだ餓鬼だなと内心でつぶやいて、咳払いする。
 そして後から近付いてきたガブリ貝を、一閃(いっせん)のもとに片付け言う。
 

 「俺が見てやる! ここから先、俺がテメェの師匠だ!」
 「えぇー、ライオが師匠かよぉ!? ゼノンとかクルスのがかっけっ、ぐふっ」
 

 反論するビィトを小突き、有無を言わさぬ雰囲気を出すライオ。
 

 「言いたいことは分るぜ。俺はゼノン戦士団じゃ確かに一番弱いからな」
 

 大声に慣れたのか、ガブリ貝達はビィト達に近付き、周りをぐるりと囲んでいる。
 そんなガブリ貝達をライオは、武器の一振りで全て殻ごと砕いてみせた。
 驚嘆(きょうたん)するビィトを尻目に、彼は飄々とした口調で言う。

 「だが、てめぇよりずっと強ぇ。そして、恐らくテメェに一番近いタイプだ」

 ビィトは、彼を過小評価していたのだと今更になって気づく。
 ゼノン戦士団にいる時点で、誰もが怪物なのだと思い知る。
 そして、彼は頷いた。

 「うん! 頼むライオ! 俺を最強の槍使いにしてくれ!」
 「分ってるじゃねぇか。そうだ。槍を使えば俺がゼノン戦士団でも最高だぜ! その俺を超えて見ろよいつかな!」

 満面の笑みを浮かべ教えを請(こ)うビィトに、ライオは未来への可能性を見た——
 
 ——————

 End

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