二次創作小説(紙ほか)

Re: 暗黒の世紀を切裂く—— 第4話更新 ( No.20 )
日時: 2013/03/14 01:23
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)

 冒険王ビィト 暗黒の世紀を切裂く——
 第5話「戦士達の世界へ Part5」

 「いっでえぇぇぇぇっっ!? くっ、くそ、この野郎は・な・せぇ」
 
 後ろを付かれ、ガブリ貝に左腕を噛まれるビィト。
 痛みに耐えかね情けない悲鳴を上げる少年に、ライオはつぶやく。

 「はぁっ。そんなんで、よーくも槍だけ持って、町の外に出る勇気が持てたもんだよなぁ。無知ってある意味凄いわ」

 手を額にやりオーバーリアクション気味のライオ。
 どうやら本気で呆れているようだ。
 それもそうだろう。
 この世に存在するモンスターの中でも、最下級とされるモンスターにこのざまなのだから。
 
 「ばっかにすん、なあぁぁぁぁっ!」
 「…………」
 「いっでえぇぇぇっ! 血っ血がっ!」

 思い切り左手を振り回すビィト。
 その反動で、あまり鋭くも無いガブリ貝の牙が食い込む。
 そして、ビィトの腕から血が流れ出す。
 さすがに酷に思ったのか、助言をしようとライオが口を開く。
 
 「ビィ」

 それに覆いかぶさるようにして、低くてマイルドな声が響いた。
 
 「ビィト。腕の力を抜け」

 ライオの後ろには、ゼノンが立っている。
 どうやら、彼も心配になって来たらしい。
 顔には少なからず、心労(しんろう)の色が浮かんでいた。
 ライオは自分の横に移動してきたゼノンに、目を一むけると一瞬だけ微笑(ほほえ)んだ。
  
 「ゼノン! でっでも、これ凄くっ」
 「良いから言うとおりにするんだ。そのままだと、痛みはいつまでも続くぞ。場合によっては出血量で倒れるかもしれん」
 「うっ!」

 痛みに耐えかね正常な判断ができないビィトに、ゼノンは強い口調で再度腕の力を抜くことを促す。
 いつも冷静な男の強い語調に、ビィトは危機感を感じ、腕の力を抜く。
 瞬間、痛みが和らいだのを理解する。
 それと同時に、ガブリ貝の顎が盛り上がったことも。

 「筋肉の収縮により押さえ込まれていた牙が、押し出されたのだ。ビィト槍の柄を短めに持て。そして、ガブリ貝の口上部を切るんだ」
 「わっ、分かった」

 ゼノンの言葉は理論的で、筋(すじ)が通っていた。
 ビィトはそれを認め、彼の言葉通りに行動する。
 ガブリ貝は歯茎から青い血を流、し真っ二つになり沼に落ちていく。
 敵が絶命したことを確認すると、ビィトはゼノン達のほうに顔を向け、嬉々とした口調で問う。 

 「バーカ、ガブリ貝の昇格値は1ですぜぇ? レベル2になるには40位の昇格値が必要だし、そいつ等100匹やってもレベル3になれねぇよ」

 それに答えたのは、岩に座っているライオだ。
 レベルとはバスターの強さを測る指標。
 モンスターや魔人にはバスター協会の調査により、明確な昇格値が設定されていて、昇格値が一定量貯まるとレベルアップする仕組みになっている。 
 ゆえに同レベルでも、多少の才能差が目立つ。
 ちなみにバスターになるということは、レベル1になることに他ならない。
 バスターの証であるブランディングこそがレベルの指標ということだ。
 生活に必要な知識としてこれは一般人たちにも知れていることだが、当然必要な昇格値などというのは素人には分からず。

 「思ったより遠い道のりだなぁ」

 ビィトは遠大な道のりに驚く。

 「ははっ、諦めるなら今だぞ素人ぉ」

 茶化すライオ。
 なるべく彼としては、ここで諦めて欲しいのだろう。
 最低限の力を持って、ハウスから出される任務に手を出してしまったら、二度と戻れなくなる。
 しかし、ビィトは諦めない。

 「馬鹿言うなよぉ、皆が村にいる間に、ドンドン倒しまくって強くなれば良いだけだろ?」
 「3日ぶっ続けて戦ってかぁ? 全く、てめぇは」

 ライオ自身こんなことで諦めるはずはないとは分かっていたが、あらためてビィトの愚直(ぐちょく)な性格に頭を抱えた。
 そこでゼノンが口を開く。

 「なぁ、ビィト。なぜ、お前はそんなにバスターになりたがる? バスターは常に命の危険にある上に、誰からも尊敬されず感謝もされない仕事だぞ」
  
 率直な疑問。
 その声には理解できないという、心情がにじみ出ていた。
 しかしビィトはその質問に、迷いなく答える。

 「ゼノン達みたいに格好よくなりたいからさ! だって、ゼノン達はいつだって魔人達と命懸けで戦って、皆を護ってるじゃないか! 俺はゼノン戦士団みたいな皆のために魔人を倒す正義のバスターになりたいんだ!」

 一瞬、ハッとなったような顔をするゼノン。
 しかしゼノンはすぐに冷静に戻りビィトの言葉を、本質を見ていない理想論だと厳しく批判した。

 「ビィト、バスターはモンスターや魔人を殺して生きていく職業なんだ。はっきり言って奇麗事だけではつとまらない。憧れや格好良さだけじゃつとまらないぞ」
 
 さらにライオも続く。

 「里の連中の俺達に対する反応は見てるだろう? 毎日毎日命賭けてるってのに、誰にも感謝なんざされねぇ。最悪だ、ある意味ヴァンデル畜生と同じ扱いさ。まっ、やってることは殺し屋さんだから仕方ない、かな? これ正義? ヴァンデルもバスターも悪だって、大人達は思ってるぜ?」

 これでもかというほどに、ライオはバスターを貶(けな)す。
 しかし、ビィトは打ちのめされない。
 全ての言葉を理解した上で、彼は強い口調で言った。

 「そんなことないだろ? じゃぁ、ゼノン達は金が目当てで戦ってるのかよ? モンスターやヴァンデルを倒して、俺達強ぇって自慢したいわけ。違うだろう? 里の人達とか、世界中の人達を護るために頑張ってんだろ!?」
 
 ビィトの語調が強くなっていく。
 ゼノンとライオは言葉を一瞬失う。
 最後に息を吸い込み、ビイトは今までで一番強い語調で、最後の言葉を口にする。

 「知らないのか、それを正義って言うんだぜ!」

 そして、ビィトは改めて沼へと走り出す。
 ここからは1人で大丈夫だから、帰って良いと言って。
 ビィトの甲高い叫び声が響く。
 
 「はっ、てこでも動きそうにねぇな……ゼノンよ、あいつ化けるぜ、きっとな」
 「過去でも照らし合わせたか?」
 「あんたこそな」

 ビィトに希望を見た2人は帰路(きろ)に着く。
 そして、彼が大物になることを願う。
 誰よりも自分勝手で頑固に見えて、誰よりも正義感にあふれていて真っ直ぐな男。
 ビィトが大物になることを——
 
 
  

——————

 End

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