二次創作小説(紙ほか)
- Re: 暗黒の世紀を切裂く—— 第5話更新 ( No.23 )
- 日時: 2013/04/13 11:36
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
冒険王ビィト 暗黒の世紀を切裂く——
第6話「戦士達の世界へ Part6」
「おりゃぁっ! もう、ガブリ貝には苦戦しねぇぞぉ! アクアドックも勝てるようになってきたし!」
「そう喚くなよ。大したこっちゃねぇよ。バスターなめんな。そもそも、そいつはアクアドックの下位でブルードックって言うんだよ」
バシャバシャと派手に音を立てながら、服をぬらし沼地で戦う少年ビィと。
それを少し1歩引いた場所から、優しい目で見詰める兄貴分ライオ。
小さな進行に一喜一憂する体力のある少年ビィトにライオは多少押され気味のようだ。
証拠に受け答えが粗雑である。
下らないやり取りのすぐ後だった。
ビィとの頭がぐら付き突然倒れこんだのは。
「あっ、ヤベェ。眠ぃ……」
「ったく、本当にきっかり72時間で寝るのかよ! 規則正しいねぇ」
場所を選ばず時間になると派手に倒れこむビィとを見詰め、ライオはぼやく。
規則正しすぎて、むしろ恐怖を感じているのだろう。
その表情には呆れより不可解さが滲(にじ)む。
しかし、ライオも彼との修行に付き合って2週間が過ぎている。
単純計算で4回はこの現象に対面している計算だ。
ぼやきつつも、ライオはビィトの体を強引に運ぶ。
いくら揺さぶっても目を覚まさない。
「はぁ、こりゃぁ、暗黒の世紀終らすにはスゲェ相棒がいねぇと無理だなぁ」
いつでもどこでも時間が来ると即寝てしまうというのは、大きなリスクだとライオは分析する。
例えば今のように水中で寝ていれば、おぼれる可能性は当然あるし水温で体温を奪われかねない。
崖上りをしてたりしたらそのまま滑落(かつらく)。
当然モンスターに襲われては一溜まりもない。
強いヴァンデルと戦っている最中に眠ってしまったりしたら、目も当てられないだろう。
ある程度、時間の調整は聞くだろうが、強いバスターになるほど有無(うむ)を言わさない強制的な依頼も増えてくる。
恐らくビィトが目指すようなバスターは、大半がそんな重要任務を受ける地位のはずだ。
ビィトの義父達には軽いノリで向いてるかもなどと言ったが、反省が必要なのは間違えないだろう。
アンクルスの宿まで運んでライオは溜息を吐く。
「だが、筋は悪くねぇ。それに感じられる天力は凄まじいんだよな」
ここ最近は大した大きなクエストも来ない。
だから毎日ライオだけはゼノン達とは別行動で、ビィトに付きっ切りである。
時々空いた時間にゼノン達も見に来るが、圧倒的にライオが時間的には見ているだろう。
そして、気付いたことがある。
それはビィトの戦士としての資質。
反射神経や筋力の強度。
そして、何よりバスター最大の力である天力の強大さ。
未完にして溢れ出る波動の凄ましいこと。
「これで眠る時間が8時間とかならまだ見込みあるんだけどよぉ」
「すっかり、子を見守る母親のようだなライオ」
「うおっ、ビビったぁ! 居たんですかブルーザムの旦那!」
「おいおい、俺は朝から居たぞ」
もったいないとぼやくライオに掛けられる深い低音。
気配を察知できなかったことに驚き、周りを見回す仕草をするライオ。
そんな周りの見えない状態のライオに、ブルーザムは呆れる。
2mを超える偉丈夫が近くに居ることに、気づかないのはいかがなものか。
常に野性の中に身を起き、小さな気配を見逃さないバスターとして重大な怠慢なのではないか、とブルーザムは説教する。
ライオはただすみませんと、謝るしかできない。
平謝りを繰り返すライオを他所(よそ)に、ビィトは寝言を吐く。
「俺はいつか槍なんかじゃなくて、ブルーザムみたいなスッゲェ斧振り回す戦士になるぞぉ! ムニャムニャ」
「ムッ」
その寝言を聞いたブルーザムは、嬉しかったのかまたは虚を突かれたのか、小さく声を上げると黙り込む。
「良かったじゃねぇですか。旦那が目標だってよ」
「お前、暗に槍が格好悪いと言われているのに気付いてるか?」
「こ・のガッ」
「止せ、見っとも無い!」
それを好機ととらえたライオは、先ほどのお返しとばかりにブルーザムを皮肉(ひにく)る。
しかし結局ライオの冷かしは、墓穴を掘る結果に終わった。
ブルーザムに指摘されるまで気付かなかったライオは、拳を固く握り締め振り上げたが、それも結局ブルーザムに止められてしまう。
あんなに親身になって武器の使い方や戦いの基本を教えてやっているのに、何で自分の得意武器が馬鹿にされないとならないんだ、と子供の様に憤慨(ふんがい)するライオ。
それを全力で阻止するブルーザム。
そんな騒ぎの中でも平然と寝ているビィトは凄まじい大物なのかも知れない。
とカウンターの奥で皿を洗いながら、この光景を静かに見守るビィトの育て親2人は思うのだった。
その時、扉が開かれる音が店に響く。
「おっ、ゼノン達が帰ってきたみたいだぞ2人共ぉ」
入ってきたのは、顔馴染みのバスター達。
ライオとブルーザムの所属する戦士団。
ゼノン戦士団だ。
「ビィトは、寝ているようだな……」
「あぁ、寝始めて2時間位だから、まだまだ起きやしねぇぜ?」
「そうか。そうなるとライオ、お前もしばらくはここを離れることができそうだな?」
ライオ達のすぐ近くでビィトが寝ているのを確認すると、ゼノンはライオに顔を向ける。
そして厳しそうな表情で、ライオに問う。
ライオも普段と雰囲気が違うことに気付き、真面目な顔立ちでゼノンの発言の続きをうながす。
「急に改まってどうしたんだよゼノン?」
「久しぶりに手強い相手だ。俺達全員で行くべきだと思ってな」
「相手は?」
「最近頭角を現し始めた、気鋭(きえい)のヴァンデルを知っているでしょう?」
自分達が全員で当たらねばならない相手など、久しく存在していない。
生唾を飲み込み、ライオは今回の相手について問う。
答えたのはゼノンではなく、ライオのストッパー役であるクルスだった。
「あぁ、存在が確認されて3年足らずで4つ星になったあの空激(くうげき)のレジアドルのことだろ?」
クルスの問い掛けに、知らない訳がないだろうという風情でライオは答える。
しかし、一方でライオは思う。
確かに手強い相手になるだろうが、レジアドル1人だけなら4人所か3人でもお釣りがくるはずだ、と。
思案するライオの脳内に、1つの解が思い浮かぶ。
バスターの平均的実力の上昇に伴(ともな)い、最近の魔人達は戦略的に人を襲うようになった。
ヴァンデル同士で徒党(ととう)を組み組織的に動くようになったのだ。
何者かと組んだのか、そう問おうとしたとき。
クルスが口を開く。
「そうです。そのレジアドルと5つ星ヴァンデルの流水のカルナッツォが組んだらしく」
「なるほど、そらぁ、大変なことだな」
ライオの懸念は当たったらしい。
カルナッツォと言えばハングアクス有数のヴァンデルだ。
レジアドルが加入する以前にもすでに、大陸で猛威をふるう実力派魔人達数人と組んでいる。
久しぶりに歯応えのある戦いになりそうじゃないか。
ライオは口角を上げ、凄絶(せいぜつ)な笑みを浮かべた。
——————
End
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