二次創作小説(紙ほか)
- Re: 暗黒の世紀を切裂く—— 第1話更新 ( No.8 )
- 日時: 2013/11/10 11:24
- 名前: 風死(元:風猫 ◆Z1iQc90X/A (ID: Bs0wu99c)
冒険王ビィト 暗黒の世紀を切裂く——
第2話「戦士達の世界へ Part2」
アンクルスの門外。
鉄鎧を打ちつけられた二足歩行のサイ型をした魔物達が、所狭しと転がっている。
ある物は真っ二つ。
ある物は腹に穴をあけ、例外なく全てが息絶えていた。
戦闘の音を聞いて駆け付けたらしい住民達は、その光景に慄(おのの)く。
「信じられねぇ! 軽く30体は居た大型のモンスターが、あっというまに……」
「雇ってるこっちがビビっちまうよ」
驚嘆の念を軽く聞き流しながら、怪物達の処罰をした戦士達が歩き出す。
人数は5人。
剣士を中央に、すぐ後ろに槍(やり)使い。
次に盾使い、斧使い、狙撃手と続く。
アンクルスが宿ったバスターの集団だ。
始めに口を開けたのは、金色の短髪をした槍(やり)使いだった。
「こんな程度でビビられても困るんだけどなぁ」
皮肉の混じった口調で言う槍使いに、応えるように盾を持った赤毛の美青年が言う。
「モンスターなどというのは、所詮(しょせん)奴等が戯(たわむ)れに生み出した、使い魔にすぎないのですからね」
「それを操ってる本丸を討たねばならぬ」
トマホーク型の斧を片手に持つ銀髪の偉丈夫がさらに続く。
仮面を被っているせいで斧使いの表情は見えないが、低く強い声からは凄まじい覚悟が見て取れる。
斧使いの巨漢を一瞥(いちべつ)し、一番前を歩く剣士がおごそかな口調で言った。
「そうだな。俺たちが真に倒すべきは、奴等ヴァンデルなのだから……」
はねた黒髪が風に揺らぐ。
剣士の端正な面持(おもも)ちが歪む。
転がっている二足歩行のサイ型のモンスター。
名をアイアンライノス。
自然に繁殖(はんしょく)して増えるような、下級のモンスターではないのだ。
つまり、彼等を軽々と用意できるような強者が、この村落に近付いていることの証明なのである。
門前には、村長と思(おぼ)しき老人が立っていた。
老人は、しわがれた声で剣士に問う。
「どっ、どうじゃったゼノン?」
ゼノンと呼ばれた男は鋭い眼光をさらに細め、嘘偽りない事実を口にする。
「アイアンライノスが約30頭。あれは、自然に大量発生するほど安いモンスターではない」
ある程度以上力の強いモンスターは、繁殖力が高すぎるとヴァンデル自体にも危険がおよぶ可能性があるため、生殖系が劣化しているのだ。
つまり、大量に強力なモンスターを率いることができるものほど、単純にヴァンデルとして強者ということになる。
そして、アイアンライノス30体というのは、並のヴァンデルを遥か逸脱(いつだつ)した存在でなければ統率できない。
察した村人達がざわめく。
彼等自身、薄々は察していたのだろう。
心の悲鳴を長老と思しき、老人が吐露(とろ)する。
「すっすると! やはり来るというのか!? あっ、あの強大なヴァンデルッッ! 惨劇の王者ベルトーゼが」
村長の恐怖に満ちた悲鳴は、瞬(またた)く間に村中に伝播(でんぱ)して。
門の近くに居た者達から恐怖に侵されていく。
農作業などをしていた者達も、心中では心配だったのだろう。
絶望的な力が到来するという事実に戦々恐々とする。
老人の近くに立っていた、老人の息子であろう男がゼノンに問う。
「かっ、勝てるのかあんた等!?」
傍から見れば、非常に他人任せな発言。
だが力を持たぬ者達は、バスターに頼るしかない。
そう、彼等が敗(やぶ)れれば力を持たない一般人など、ヴァンデル達にとって紙切れでしかないのだから。
怯える男を情けないなどと、ゼノンは思いはしない。
なぜなら戦うのがバスターの本分で、村の維持をするために働くことが彼等の仕事だと、理解しているからだ。
強い眼差(まなざ)しで、迷いなく彼は答える。
「そのためにここに来たのだ」
戦士としての矜持(きょうじ)が、その短いセリフからは滲み出ていた——
その時、子供の声が大人ばかりの空間に響く。
「おれも力を貸すぜゼノン!」
先程、バスターとしての契約をしていた少年ビィトだ。
多くの者達が、場違いな少年の登場に呆)ほう)ける。
そんな沈黙を破ったのは、金髪で面長の槍使いだった。
「あーぁーっ」
盛大に溜息を吐く槍使い。
さらに彼は愚痴(ぐち)を続ける。
「かぁー、また出てきやがったなこの馬鹿餓鬼め。冷たくあしらわれるのもムカつくが、こういう信者みてぇな奴等も困りもんだぜ!」
新底疲れた様子で、ビィトを指さしながら、槍使いは嘆く。
しかし、男の言葉をビィトは否定する。
意味がわからないという様子で、槍使いの男は結局何なんだ問う。
「ライオォ、知ってるだろう?」
呆れ半分にライオと呼ばれた槍使いは、知らないと返す。
それに対し、ビィトは自信満々に胸を張り宣言した。
「期待の新戦力だ!」
ライオはビィトの発言に眩暈(めまい)を感じたのか、頭(こうべ)を垂れて勘弁してくれと毒づく。
村人達はと言えば、自殺志願者に近いバスター達なんかに憧れるとはと、呆れた様子だ。
自分達の仕事を子供の遊び同然に扱っているように感じたのか、無口を貫いていたゼノンもさすがに口を開いた。
「家に帰れビィト」
ゼノンの一見すれば、無知な子供を護るためのセリフに、ビィトは反論する。
その反論にゼノンが答えることはなく、その替りに美麗な盾使いが優しい声でビィトを諭(さと)す。
「僕達の仕事は遊びじゃないってことですよ」
さらに説得するチャンスとばかりにライオが続く。
「そうそう、俺たちゃぁプロなんだからな!」
しかし、彼等の発言はビィトにとって逆効果だった。
ビィトがバスターとして契約をかわしていることなど、彼等が知る由(よし)もなかった。
ビィトは胸を肌蹴させ、自信満々にバスターの証を見せびらかす。
「そんなことは心配ないよ! 見てくれ、俺もとうとうヴァンデルバスターの契約をしたんだ! 今日から俺もプロだぜプロッ!」
ビィトの宣言に、その場に居た全ての者達が呆然とする。
取分け、驚愕しているのはライオだ。
彼は辛うじて震えた声を出す。
「おっ……おっ、お前っ、マジかよ」
愕然(がくぜん)としているライオにビィトは的外れな返答をする。
「餓鬼の遊びじゃ付き合えねぇから、バスターになってから来いって言ったのライオだったよな? だから、滅茶苦茶痛かったけど我慢して、契約してきたんだぞ!?」
諦めろという意味をこめた脅し文句。
ライオは少なくともそのつもりで発したのだが、どうやらビィトは本当に契約してしまったらしい。
とんでもないことをしてしまったと、ライオは顔を引きつらせる。
真面目な盾使いの男は、そんな短慮な言動をしたライオを叱責した。
「そんな適当な約束をなぜっ!?」
それに対し、しばらくライオは口を紡(つむ)ぐ。
目を爛々と輝かせ、自分を未来のホープと思い込んでやまない馬鹿は言いよる。
「さぁ! 今すぐ仲間にしろよ! ゼノン戦士団の仲間にさぁ!」
戦士団とは同じ思想や繋がりのもと寄り合い、ハウスで戦士団契約をかわした集団のことだ。
基本的にゼノン戦士団というように、リーダー名を使って名乗ることが多い。
リーダーとして断ろうとゼノンが動いた時だった。
ゼノン達の横を小さな影が駆け抜ける。
水色の髪をした生真面目そうな顔立ちの少女だ。
少女はビィトの前へと躍り出て、彼の頬を思いきり殴ってみせた。
何も言わずにビィトは気を失い倒れこむ。
女の子にた易く殴り飛ばされるバスターなど前代未聞(ぜんだいみもん)。
哀れビィトは、突如現れた少女に引きずられていく。
そんな情けないビィトを目で追いながら、ライオは深々と溜息をついた。
「あららっ、大した期待の新戦力だわ」
——————
End
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