二次創作小説(紙ほか)
- Re: 少年陰陽師1夜 『花』 ( No.9 )
- 日時: 2013/04/02 13:22
- 名前: 透明 (ID: xlcSC1ua)
昌浩が修行に明け暮れている頃、庵では物の怪と勾陣、小野蛍がなにやら他愛ない会話をしていた
「あいつは本当に晴明が好きでな、昔は」
物の怪が遠いことを思い出したように身振り手振りで話すと勾陣が頷いた
「そうだったな、よく晴明にくっついていた」
そのころ勾陣はめったに異界から出てこないので、同胞から聞いたことなのだが
聞いていた蛍はちょっといいかという風に首をかしげた
「昔はって…今はどうなんだ?」
物の怪は曖昧な言葉で色々あってなと答えた
蛍はそのことに気づいたが、余計なことは訊かない方がいいと思ったのか、そうかと話題を変えた
「都の市はにぎやかだと聞いたがどんな感じなんだ?」
勾陣は蛍の意外な興味を発見しながらも、「いつも人が溢れているそうだ」
それは二年前のことだった
昌浩と彰子は久しぶりに二人で仲良く市に出かけていた
もちろん二人だけではない。もっくんこと物の怪と勾陣の十二神将も護衛でついている
「ねえ、昌浩。何か食べたい物はある?」
「えーと、今は特にないかなあ」
昌浩が言うと彰子は頬をふくらませた
「やっぱり昌浩は私の好きな物を知ってるのに… 私だけ昌浩の好きな物を知らないのは、ずるいわ」
「へっ!?俺、そんなつもりで言ったわけじゃないよっ?」
二人のやり取りに勾陣と物の怪は微笑ましそうに眺めていた
すると、
「ああっ、盗っ人だあ—!!!」
商人の叫びに三人と一匹は何事かと振り返った
見るとなんと男が大量のきらびやかな布をかかえて逃げ出しているではないか
「なんてこと……!」
男を追いかけようとする彰子の肩を昌浩はつかんだ
「彰子、あの盗っ人は俺がつかまえるからそれまでここでまっていてくれ。…彰子を頼む」
後半は勾陣にむけて言い置くと、物の怪を連れて男が逃げた方向に駆け出した
彰子は心配そうに十二神将、紅の二番手を見上げると勾陣は安心させるように微笑した
「案じることはない。晴明の孫なのだからな」
「……そうよね」と少女は頷いた
一方、男を追いかけている昌浩はくっと歯噛みした
どんどん男との距離が広がってきた
「このままじゃ追いつけない…っ」
息も絶え絶えにそう吐くと印を結んで叫んだ
「縛!」
昌浩から霊力がほとばしる。しかしその鎖は男まで届かなかった
「これじゃあ」
捕まえられない
どうする
こうしたら男に何か投げつけて転ばせるか……
昌浩は横にいる物の怪を見て思った
いける。もっくんなら盗っ人を足止めすることが出来るかも
彼の視線に気づき、思考を読み取った物の怪はおいっと目を見開いた
「まさかこの俺様を投げようとかおもってないよな?」
そのまさかだ
いつも思うが物の怪はなんて察知能力が高いんだろうか
焦った物の怪は勾陣に「この馬鹿を止めろ」と言ったが、対する勾陣は面白そうなのであえて助け舟を出さない
昌浩はがしっと物の怪の首根っこを掴むと…
「もっくんよろしくっ!」
「ちょっ、お前放せってうおおぉーーーーーーーーーーぃ!??」
男に向かって放り投げた
「なっ!?」
見事に物の怪が勢いよく男の背中に命中し、予想外のことに男は前に倒れた
その間、男との距離を縮めた昌浩はもう一度捕縛の術を行使した
「なんだあ!?体が動かねえっ」
突然のことであわてている男の前に昌浩は立つと手をだした
「商人たちが困ってるよ。はやくその布を返してくれないか。それとも検非違使に捕まりたい?」
「誰がそんなこと。これはもう俺のものだっ」
一歩も引かない男を見やり、仕方ないかと昌浩は近くにあった木から葉を一枚取ると口の中で何かを唱えた
すると
「………!!?」
男は息を呑んだ
昌浩の背後に恐ろしい悪鬼が現れ、じろりと自分を睨んでいるではないか
「ばっ、化け物ぉ!!」
男は震える手で悪鬼を指差すと白目をむいて気絶した
それと同時に悪鬼は音を立てて一枚の葉に変わり、はらりと落ちた
二人の様子を見ていた観衆はおおーと歓声をあげ、その中心にいる昌浩はふうと息をつくと衣の商人に渡された縄を懐から取り出し、伸びている男の両手首にぐるぐる巻きつけた
「これでよしっ」
額の汗を拭うと盗まれた大量の衣を商人に返すと、商人はきょろきょろ周りを見渡し、変だなと昌浩に訊いた
「この盗っ人は化け物がいると言っていたがどこにもいないではないが」
ああ、と心当たりがある昌浩は男と一枚の葉を見下ろしながら言った
「盗っ人が見たのは俺が術を使って葉を悪鬼に変えたものです。こうでもしないと、この人逃げようとするんで…」
それを聞いた商人はぎょっとしながらも納得したようだ
「あんた何者なんだい?」
昌浩はにかっと笑うと名は言わず
「ただの通りすがりの陰陽師です」とだけ答えた
彰子のもとへと歩いている昌浩は上機嫌だ
投げられた物の怪はというと散々文句を言っていたが、昌浩は聞く耳も立てなかったのでこんにゃろーとあきらめた
あの後、昌浩が陰陽師だと言うと商人は急いで男が盗んだ中から衣を一枚昌浩に礼として持たせた
桃色に一面の花が華やかでかわいらしい衣だった
「やった、これで彰子の単を母上に作ってもらおう」
そんな訳で今の昌浩は衣を持っている
「彰子喜んでくれるといいなあ」
そう呟くと聞いていた物の怪は尻尾を振った
「お前がいいと思って贈るものなら彰子はなんでも喜ぶさ」
その後昌浩は露樹に単を作ってもらった
家事を終えた彰子に単を渡すと見とれてしまうほど可愛らしい笑みで「昌浩、ありがとう。とても嬉しい」
と喜んでくれた
もうすぐ蛍の時期がくる
昌浩はそっと瞳を閉じて想った
—やっぱり彰子には花のような笑顔が一番似合う
回想から物の怪はおおまかなことを蛍に教えると、彼女は面白そうに聞いていた
「市にはこんなこともあるんだよな」
「へえ、そうなんだ」
そこに
「ただいま〜…」
疲労困憊の昌浩が庵の出入り口の前で倒れふした
蛍はそんな彼に声をかけた
「おかえり昌浩。夕餉の支度ができてるぞ」
「やった、俺すごく腹が減って…」
物の怪と勾陣は二人のやり取りを見てこれだと当分都に帰れそうもないなと温かい気持ちで見守った
