二次創作小説(紙ほか)

雑鬼達のトリック・オア・トリート ( No.35 )
日時: 2013/11/02 20:06
名前: 透明 (ID: 86FuzJA.)

十月三十一日、安倍家にて。
トントンとカボチャを切る音が台所に響く。
「えっと、これを鍋で煮て…」
少女は確認すると水を入った鍋に均等に切ったカボチャを入れ、蓋をしてから火をつける。
そのまま数十分が経過。
「昌浩君…喜んでくれるかなあ……」
そっと呟くと瞳を伏せる。

一週間ほど前、昌浩から連絡が来た。
『今度みんなとハロウィンパーティーするんだけど、章子ちゃんも来ない?』
昌浩は自分の初恋の相手。決して叶うことない片思いなのだが。
声をかけてくれたことが嬉しくて、何か手伝えることがないかと訊いたところ、今のお菓子作りの手伝いになったわけだ。
そろそろいいだろうと、火を止めてカボチャを鍋からボールに移し、潰しながら砂糖で味つけする。
どうせ食べるなら、できたてで皆で作ったお菓子の方がよりおいしい。
係分担は男子が飾りつけほか雑用、女子がお菓子作り。
女子のメンバーは章子以外に従姉妹(で敵わぬ恋敵)の彰子と彼女の幼馴染の蛍が参加しているのだが、今は足りそうにない食材を買いに出かけている。
昌浩以外の男子と蛍とは知り合いで仲良しといった感じではないので、なかなか輪の中に入れない。昌浩も自分のことなんか全く意識したことないだろう。
それでも、と章子は笑みを浮かべる。
誘ってくれた。そのことだけでも幸せだ。
思いに耽っていた章子の耳が小さな音を捉える。
「……?」
音がした所を振り返っても誰もいない。
「まただわ」
さっきから同じような事が起きている、いったい何だろう。
疑問に思いながらも気にしないようにしようと章子は決めた。
潰したカボチャを半分に分けると、半分は先ほど用意した生地の中にカボチャを包み、もう半分は同じく用意した別の生地に混ぜてハートや星の形にくりぬく。
オーブンで焼けばカボチャパイとカボチャクッキーの完成だ。
おいしくできますようにとオーブンに入れると、章子はふう、と息をついた。
まだカボチャが残っている。
「そうだコロッケにでも…」
カボチャに手を伸ばそうとしたその瞬間、章子に突然現れた影が襲いかかってきた。
昌浩達からしてみればたいしたことがない影だが、見鬼の才がない章子や一般人にとっては恐ろしい存在だ。
『————ァ———ォオ—!!』
影が何を言っているのか理解できないほど恐怖と混乱に満ちた章子は絶叫した。
「きゃあああぁぁぁぁぁ!!!!』




—————
「結構時間かかったね、章子ちゃん一人で大丈夫かな」
「章子ちゃんならお料理も上手だから平気だと思うけれど、急いだほうがいいわね」
人数は多いほうがいい。
買い物を済ませた彰子と蛍はもうすぐで安倍家に到着するところだ。
「あ、昌浩に比古…と物の怪」
角を曲がった所で先を行く男子陣を見つけた蛍は、駆け足で走ると自分の持っていた荷物を彼らに押し付けた。
「蛍、馬鹿っ。ただでさえ今すっごい重いんだから荷物勝手に乗っけるなよ!」
「うるさい比古。男なんだからそれぐらい持て」
軽く睨んだ比古に蛍は平然と返事をするとニッと笑う。
にぎやかに四人と一匹が安倍家の門をくぐってからだ。

「きゃあああぁぁぁぁぁ!!!!」

金切声に近い叫びが安倍家に響いたのは。
「何!?今のは」
「章子ちゃんだよね」
「まさか強盗に襲われたとか」
「そんなわけないよ、うちには神将達がいるし」
「それよりはやく台所に行けばいいだろう」
そうだ、まずは章子を助けなければ。
物の怪の冷静な言葉に四人はハッとし、神速で靴を脱ぐと台所に駆け込んだ。
「そこまでだ泥棒!!」
「章子ちゃんを放してっ!」
「よくも女子に…っ!!」
「私が陰陽術で叩き潰してやる!」
影を見ずに叫んだ中で一番蛍の内容が恐ろしいのだが、あえて誰も指摘しない。
そのまま台所の奥へと進んだ彼らは倒れている章子の横に立つ影を確認して絶句した。
『…………え……』
異口同音の四人の前には。
『……何してるの、雑鬼達…?』
しまったと顔を真っ青にした一つ鬼、竜鬼、猿鬼が立っていた。
「まってくれ、違うんだ!」
「俺達はただお菓子が欲しいから」
「ちょっと脅かしただけで!」
『脅かした…?』
おろおろと弁解している雑鬼達に四人の殺気に近い視線が集まる。
章子は四人にとって大切な友達なのだ。
その様子を呆れ顔で物の怪は傍観する。
普通に昌浩にお菓子が欲しいと言えばよかったものを。
「あーあ…」
そして、狙ったようにオーブンレンジの音が気まずい中鳴る。
それを合図のように、
「ちょっと、本当に違っぁぁ!?」
「言語道断!!」
蛍が言葉通りに雑鬼達を叩き潰した。


——————
その後。
「雑鬼達、この前はやりすぎちゃった、ごめん。これおすそ分けというかお見舞い」
蛍は頭を下げるとパーティーの時に作ったお菓子をはい、と彼らに渡した。
「けど、今度変なことしたら…ね?」
容赦しないからとぶるぶると怯え震える雑鬼達ににこりと笑いかける。
誰よりも蛍を怒らせたら怖いと彼らは確信したのだった。