二次創作小説(紙ほか)
- Re: 第五十四話 再会(弐) ( No.121 )
- 日時: 2013/08/15 14:25
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: Q1X0ZXes)
空が曇ってきた。
アスカと戦った次の日、レオはコウホクシティに別れを告げ、ツクモシティを目指して山道を歩いている。
「雨とか降らないといいけどなー」
独り言を呟きながら歩き続けていると、
「ん? ありゃ何だ?」
山道の端の方に、何かが蹲っている。目を凝らしてみると、ポケモンのようだ。
カボチャを被り、黒いマントのついた、緑色の小動物のようなポケモン。
カボチャポケモンの、パンプリーという名前らしい。
「おい、どうしたんだよこんなところで」
レオがパンプリーに近づくと、何故か怯えた様子を見せるパンプリー。
だが、
「ちょっと待て。お前、怪我してるじゃねえか!」
パンプリーの腹に、切り裂かれたような傷跡があった。
「くそ、ここは中腹辺りだから、ポケモンセンターも遠いし……そうだ」
レオは自分のバッグから、あるものを取り出す。
「確か、これには怪我とかを癒す効果もあるって言ってたよな……」
取り出したのは、以前リョーマから貰った金のハチミツ。
「ほら。これやるよ」
レオはハチミツをその瓶ごとパンプリーに渡す。パンプリーはレオを安全だと認識したのか、瓶を受け取り、中のハチミツを吸い始める。
「トゲチック、出て来てくれ」
さらにレオはトゲチックを出す。
トゲチックは幸せを分け与える力を持つ。その力を応用すれば、パンプリーに元気を与えることも難しくない。
トゲチックがパンプリーに触れる。完全にとはいかないまでも、傷が癒えていく。
「ま、これで大丈夫だろう。パンプリー、そのハチミツは全部お前にやるよ。トゲチック、ありがとう」
レオはパンプリーへと手を振り、再び歩き出す。
そのレオの後ろ姿を、パンプリーはじっと見つめていた。
「地図上だと、もう少し歩けば着くな」
一人だと寂しいので、レオはトゲチックをボールに戻していない。
トゲチックもレオと同じように地図を覗き込む。
それにしても、空が随分暗くなって来た。雨が降っていないのが不思議なくらいだ。
「これは急いだ方がいいな。トゲチック、ペースを上げるぞ」
そして、レオが再び歩き出そうとしたその時。
「ふふ。久しいな、ウチセトを救ったヒーロー」
後ろから、聞き覚えのある女の声が聞こえた。
しかも、この声は。
「!?」
咄嗟にレオは振り返る。
そこにいたのは、レオと同年代くらいの少女。
黄色い鮮やかなセミロングの髪。なかなか派手な紫とピンクの服と、同じ色使いのスカート。
綺麗な容貌の少女だが、その瞳だけは死んだような灰色をしている。
「……?」
レオは、この少女が誰だか分からなかった。
レオの記憶の中に、こんな奴はいない。しかし、この声は間違いなく奴の声だ。
レオが戸惑っていると、その少女はさらに言葉を続ける。
「まさかこの私のことを忘れたのか? 貴様に忘れられるとは、余計に腹が立つ」
そして、その少女は笑みを浮かべる。
綺麗な顔に似つかない、引き裂くような不気味な笑みを。
「……あ」
これで確信した。間違いない。容姿が変わり果てているが、奴だ。
「やっぱりお前……シャウラか!?」
レオの驚愕の混じった声を聞くと、シャウラと呼ばれた少女は満足そうに頷く。
「ふふ、やっと思い出したか。そうだ。私のかつての名は、シャウラ」
シャウラは、ウチセトでレオたちが戦った組織『イビル』の幹部的立ち位置だった少女だ。
しかし、その時のシャウラは、継ぎ接ぎだらけのドレスにぼさぼさの紫の髪。
目の前の少女には、かつての名残は全くない。
「ふふ、そう身構えるなよ。私はああいう世界からは身を引いたんだ。貴様を敵とも思ってない」
確かに、シャウラからは全く敵意を感じない。
なのでレオも、なるべく穏やかな声で質問する。
「どうして、お前がここにいるんだ?」
「知りたいか?」
「ああ」
「だったら、教えてやる」
シャウラは相変わらず不気味な笑みを浮かべ、語り出す。
お前がイビルを壊滅させ、マターが消えた後、私たち七将軍は一匹残してポケモンを没収され、全員国際警察に捕まった。
でも、私だけは牢獄に放り込まれることはなかった。
何故かって? 私はまだ、14だったからさ。
だから、私だけは代わりに少年院に放り込まれた。
あそこでの生活は地獄だったよ。私の推測だが、少年院も牢獄とほぼ変わらん。
社会復帰のためだとか言って、やった事もない仕事や労働をさせられた。
だから、珍しく私は頑張った。
早くここから出たい、その一心で私は働いた。多分、他の誰よりも真剣に、他の誰よりもたくさんの事をしてた。
その甲斐あってか、私は六ヶ月で出られた。私みたいな大きな犯罪を犯した身としては、非常に珍しい事例らしい。
シャウラの話を、レオは黙って聞いていた。
感情を捨てた、と自称していたシャウラは、熱を込めて語り続ける。
私には既に家族はいなかった。
だから名前も知らない爺が私の身元引受人になった。
だが、この爺を私は全く信頼出来なかった。
まずもってこの服は何だ? どうして私がこんな派手な服を着なければならない?
その爺は言った。君には素質があると。その見た目さえあれば、僕がいろいろ教えてあげれば、有名人になれると。
冗談じゃない。貴様のような変態爺の言う事なんてやってられない。
だけど反抗は出来ない。口での反抗なんて聞きやしない。
手を上げれば、少年院に逆戻りなのは火を見るより明らか。
私はその爺の言葉を無視し続けた。
そして三ヶ月前、遂に耐えられなくなって家出した。
それから、私は路頭を彷徨い続けた。
私にはチェキラスが残ってた。夜の町で、私に声をかけて来る変態共を叩き潰し、身包みはがした。
奴らは通報出来ない。何せ、夜の町でか弱い女の子を襲おうとした、何て言えないから。
その奪った金で、私は生活を続けた。
同じ町には長くはいられない。度々町を、地方を移動した。新しいポケモンも手に入れた。
そして、今この道を歩いていたところ、貴様に出会った訳だ。
語り終えると、シャウラは息を吐く。
「ま、そんなところだ」
だけど、とシャウラはレオの方を向く。
「……その、何だ。あのー、これでも、私たちはお前たちには、か、感謝してるんだぞ?」
非常に珍しい事に、シャウラが顔を赤らめる。
(?)
シャウラの口調が突然変わったので、レオは疑問符を浮かべる。
「その、あれだ。えー、あのままイビルがガタノアの支配に成功していれば、私たちは処分されていたらしいし、そう考えれば、私たちはお前たちに助けられたってことだ。……くそ、それくらい察しろ!」
最後の言葉は、レオには聞き取れなかった。
シャウラのそのようすを見て、レオは笑うと、
「お前、意外と面白いな」
「何……ッ!?」
「その服も似合ってるぜ。前のよりは遥かに」
「おい貴様、私を舐めるなよ! 私は元イビル七将軍だぞ!」
「知ってるよ。でも今は、普通のトレーナーだろ?」
「むう……。だが、私はトレーナーじゃない。トレーナーカードも持っていないし」
「だったら」
レオは得意げな笑みを浮かべる。
「僕の父さん、ポケモン博士なんだ。シラハタウンってとこにいるから、行くといいよ」
「だが……」
「大丈夫大丈夫。僕からも言っておくし、レオから聞いたって言えば手続きしてくれるよ」
シャウラは少し黙り込み、顔を上げる。
「……ありがとう」
レオに聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟く。
「お、ライブキャスター持ってんじゃん。登録しようぜ」
「待て」
ふとシャウラが、いつになく真面目な声を上げる。
「貴様が私の連絡先を欲しいのなら、私をその名で呼ぶな」
シャウラは真面目な表情で言う。
「シャウラは、イビル内での名前だ。私の本当の名は、セイラ」
「おっけー。じゃ、これからよろしくな、セイラ」
そして、二人はライブキャスターの連絡先を交換し合う。セイラも特に嫌な顔もしなかった。
「父さんにも連絡しとくから、シラハタウンに行って来いよ。それでお前も、路上生活なんかせずに済むぜ」
「……助かる」
しかし、セイラがボールからポケモンを繰り出す、その直前。
地面に、亀裂が入った。
「!?」
驚く二人を尻目に、亀裂はどんどん大きくなって行き、ついに地面が割れる。
「うわああああ!」
レオとセイラは、地面の割れ目へと落ちて行ってしまう。