二次創作小説(紙ほか)
- Re: 第五十六話 『覚醒』 ( No.123 )
- 日時: 2013/08/15 14:28
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: Q1X0ZXes)
レオとセドニーのいる空間の向こう側で、セイラは壁を破壊しようとしていた。
「ふふ。これくらいの壁なら、一時間もかかるまい」
そう呟き、セイラはボールを取り出す。
「出て来い、ド——」
しかし。
「ギャヒャヒャ! 見つけたぜ、侵入者」
セイラの後ろから聞こえた、下品な笑い声。
振り返ると、そこにいたのはN・E団の紋章が描かれている真っ黒なフードを被った男。
セイラは、一番出会ってはいけない男と遭遇してしまった。
「む、誰だ貴様」
「破天のメジスト。セドニーと同じく、N・E団の七天将だ」
名を名乗ると、メジストはゆっくりとボールを取り出す。
「セドニーも言ってただろうが、ここで口封じさせてもらうぜ。恨むなら自分の運命を恨むんだな。ギャハハ!」
「ふふ、笑わせるな。私が勝つってのに、どうやって口を封じるつもりだ?」
「ギャヒャヒャヒャ! いいねぇ、それくらいの相手じゃねえとつまんねえよなあ! 頼むから、後で泣いて謝るような真似だけはしないでくれよぉ!?」
「ふふ。今の台詞、そっくりそのまま貴様に返してやろう」
そして、二人は同時にポケモンを繰り出す。
「出て来い、キルギシア!」
「叩きのめせ、グライオン!」
メジストのグライオンに対し、セイラは人形のような出で立ちの、長い金髪に、左右に大きな橙色の盾を持ったポケモンを繰り出す。
ドールポケモンのキルギシア、エスパータイプだ。
「グライオン、まずは砂地獄!」
グライオンはキルギシアの足元から砂の渦を起こし、キルギシアを渦の中に閉じ込めてしまう。
「ギャヒャヒャ! 残念だったなぁ、動けなくなった時点で、こいつの勝ちは決まったんだわ!」
狂ったような高笑いをあげるメジスト。そして、
「グライオン、ハサミギロチン!」
グライオンの鋏をが、断頭台の刃のように伸びる。
その鋏を構えて、グライオンは渦の中のキルギシアへと突っ込む。
一撃必殺の刃が、キルギシアを貫き、確実に戦闘不能にする。
しかし、その直前。
「キルギシア、道連れ」
キルギシアが何かを呟く。
次の瞬間、キルギシアは一撃必殺の刃に切り裂かれ、一撃で戦闘不能となる。
だが。
同時に、グライオンが地面に落ちた。
「あぁ!? グライオン、どうした!」
表情は見えないが、口調に苛立ちを込め、メジストは怒鳴る。
「ふふ。道連れだよ」
対照的に、セイラの口元には笑みが浮かんでいる。
道連れは、この技の後に戦闘不能になると、相手も戦闘不能になってしまう技。
だがメジストも、謎が解けるとすぐにいつもの調子に戻る。
「ギャヒャヒャ! そう言うことか、やってくれるねえ! こりゃ楽しいバトルになりそうだ! ギャヒャヒャヒャ!」
お互いにポケモンを戻し、二人は次のボールを取り出す。
ただし、セイラは目の前にいる敵が、どれだけ危険な男なのかをまだ知らない。
「ヘラクロス、瓦割り!」
「ッ、シャワーズ!」
ヘラクロスが勢いよく角を振り下ろし、セドニーのシャワーズを吹っ飛ばす。
バトルが始まって少し経っているが、こちらの戦いはレオが押している。
シャワーズは重い一撃を受け、戦闘不能となってしまう。
「シャワーズ、よくやった。休んでな」
セドニーはシャワーズをボールに戻すが、次のボールを取り出す気配がない。
「どうしたんだ。まさか怖気付いたとか言うんじゃないよな」
「まさか。俺がそんな表情をしてるように見えるか?」
レオの言葉を笑い飛ばし、セドニーは続ける。
「以前、ソライトが『本気』って言葉を口走ったろう」
そう言われ、レオは記憶を辿る。
アカノハで戦った時、撤収間際、確かにソライトは言っていた。
いや、それだけではない。デンエイ炭鉱で遭遇した、緋天のガーネットもそう言っていた。
「最近、俺たちN・E団の対抗勢力が徐々に力を付けてきてやがる。この間は、別の任務でガーネットの奴が負けた」
だから、とセドニーは続け、
「遂にボスから『本気』が解禁された。この力さえ使えれば、怖いものは殆どなくなる」
不敵な笑みを浮かべ、セドニーはボールを取り出し、それをレオに突きつける。
しかし、それは普通のモンスターボールとは明らかに違った。
ボールを封印するかのように、表面に鎖の模様が二重に描かれている。
「おかしいとは思わなかったか? ラピスやトパズは兎も角、蒼天を名乗るソライトが青を司るポケモンを持っていなかったり、碧天を名乗る俺が緑を司るポケモンを持っていなかったことが」
そう言われても、とレオは思ったが口には出さない。そこまで不思議には思っていなかったが。
「俺たちは、この力を『覚醒』と呼んでいる。覚醒を使うと、このボールの使用が解禁され、さらに俺のポケモンは強化される。ま、少々俺の体に負担がかかるが、これくらいどうってことない」
セドニーがそう言い終わると同時に、ボールに描かれた鎖模様が翠色の光を放つ。
「では、俺が今からN・E団の先陣を切って覚醒を使用する。覚悟しろ」
刹那、セドニーの瞳が翠色に輝く。
同時に、手の甲に鋭い爪のような翠の模様が浮かび上がる。
(……まずい)
素直にレオはそう感じた。
セドニーの体から、言いようのない、異常なほどのオーラを感じるのだ。
「それじゃ、バトルの続きだ。いよいよ、お前の力を使うことが出来るぜ」
手の中のボールにそう呼びかけ、セドニーは、鎖の模様が描かれたボールを掲げる。
「碧天に火花を散らせ、バジリール!」
セドニーが繰り出したのは、小型の恐竜のようにも見えるポケモンだ。
側頭部には葉が生えており、足も大きな葉で覆われ、紫の腹は巨大な花弁にも見える。
しかし、一番目を引くのは、光を放つ黄色い花のような尻尾。薄暗い洞窟では、イルミネーションのようにも見える。
電気草ポケモンの、バジリール。草・電気タイプだ。
(これは……やばいかもな!)
少々焦りを感じるレオ。
このバジリールから放たれるオーラが、桁違いなのだ。
前に対峙した、ガーネットのグレイシアと比べても、それは比にならないほど。
「だけど、やるしかねえぞ。ヘラクロス、びびるなよ! 行くぞ!」
当然、とでも言うように、ヘラクロスは角を振り回す。
「っし! ヘラクロス、瓦割り!」
翅を広げ、ヘラクロスは飛ぶ。
角を振り上げ、渾身の力を込めて思い切り振り下ろす。
だが。
「バジリール、大成長!」
バジリールが地面に力を送り込む。
刹那、地面から大量の太い蔦が飛び出し、意思を持っているかのように一斉にヘラクロスに襲い掛かる。
その威力は、無数の蔦に思い切り叩きつけられた、なんて生易しいものではなかった。
もはやそれは鈍器だった。
無数の蔦の形をした鈍器にヘラクロスは思い切り殴り飛ばされた、と言った方が正しいかもしれない。
「十万ボルト!」
さらにバジリールの追撃が飛ぶ。
バジリールの尻尾から高電圧の強烈な電撃が放たれ、ヘラクロスを捕らえた。
耐えられるはずもなく、ヘラクロスは戦闘不能となって、地面に倒れてしまう。
「……ヘラクロス、ありがとう。休んでてくれ」
ヘラクロスをボールに戻し、レオはバジリールを見据える。
(まずいな……ヘラクロスがやられたとなると、タイプ的にバジリールには不利なポケモンしかいないし)
そんなレオの考えなど知らず、余裕の笑みを浮かべる。
「残念だが、覚醒使用時は、俺は序列七位。つまり最弱」
この力で最弱。
だとしたら、その上は。
「だけど今日はいい感じだ。久しぶりに覚醒を使った割には、八割以上の力が出せてる。覚醒を使った状態で常に百パーセントの力を出すのは難しいんだぜ?」
軽い口調で語るセドニーの翠色に光る眼光が、レオを見据える。