二次創作小説(紙ほか)
- Re: 第六十話 姉 ( No.129 )
- 日時: 2013/08/15 14:29
- 名前: パーセンター ◆EAxDppvQCQ (ID: Q1X0ZXes)
新しい仲間が一度に二匹も加わったレオだが、喜んでばかりはいられない。
N・E団七天将の持つ能力、『覚醒』。
最弱のセドニーでさえ、恐るべき力を持っていた。常時100%を出せるわけではないらしいが、それでも十分な脅威に変わりはない。
リョーマたちは、この事を知らないはずだ。『ブロック』に加わった身として、これは確実に報告しなければならない。
ライブキャスターを起動させ、レオはリョーマへ連絡を取る。
すぐに通話が繋がった。しかし、
『はい、こちらはテレジアですが』
通話に出た人物は、リョーマではなかった。アカノハ統括補佐のテレジアだ。
『あら、レオさん。お久しぶりですわね。どうしたのですか?』
「……あれ? 確かにリョーマさんに掛けたはずなのに」
怪訝な表情でレオが呟くと、
『リョーマさんは現在、N・E団のアジトを探すために一人でホクリク中を操作しています。連絡等もしないようにする、帰ってから纏めて話すと仰ってましたから、現在リョーマさんへの発信は全てこちらに届くようにしていますわ』
とのことらしい。
とはいえ、テレジアに話しても問題無いだろう。
「N・E団のことで、分かったことがあります」
そう言って、レオは話し出す。
天将の持つ『覚醒』の能力、それを使うとポケモンが強化され、さらに使えるポケモンが増えること、そのポケモンは司る天に関係していること……など、セドニーの話などから分かったことを、レオは全て話した。
レオの話を聞き終えると、テレジアの表情が厳しいものになる。
『そうですか……実はこの間、シヌマ統括から序列三位の緋天将部隊を撃破したと報告があって、N・E団も恐れるものではないのかと考えていたところでしたが……少々、考えが甘かったようですわね』
ですが、とテレジアは続け、
『使えるようになるポケモンのタイプは、大体想像できますわね。蒼天将なら水、緋天将なら炎は明らかでしょう。他は分かりづらいですが、夜天将はゴーストか悪、輝天将はエスパーか電気。破天将は……格闘か悪あたりでしょうか?』
天将の最後の一人及びボスは未だ正体不明らしい。
『とにかく、N・E団についての報告ありがとうございます。そちらも気をつけてくださいね』
そして、通話は切れた。
次の目的地は、もう目の前である。
ツクモシティ。
空は薄暗い雲に覆われており、静かな町だ。
この町の近くの土地は何故か雲が非常に多いらしく、晴れることは殆どないという。
しかし、極稀に空が晴れ渡ることもあり、それを見ることが出来るとその年は縁起のいい一年になるという逸話があるらしい。
家や建物は少なくはないが、木造が多く、そのようなところからもこの町の穏やかさを感じることが出来るだろう。
「ジム戦は明日だな。N・E団の一件もあって疲れたし」
とはいえまだそんなに遅くもない。
とりあえずはポケモンセンターでポケモンを回復させる。
「あとは……他のトレーナー達との情報交換とかかな。あ、パンプリーとアブソルの能力とか技とかも把握しておかないとな」
意外とやることはたくさんある。
ポケモンの回復が終わるまでは、他のトレーナー達と雑談でもすることにした。
夜。
ポケモンセンターの部屋を借り、そろそろ寝ようかといった時、唐突にライブキャスターの着信音が鳴る。
父親からだ。
「もしもし、父さん? どうしたの?」
通話に出ると、画面の向こうにはライオンの鬣のような金髪の父。
正直まだレオは父のこの髪型に慣れていない。
『セイラちゃんから聞いたよ。お前からここに来て私に相談するようにって』
「ああ、そのことね。セイラに図鑑とかトレーナーカードとかあげてくれた?」
『勿論だ。殆ど表情や態度には出してなかったが、私には分かった。あの子は本当に喜んでいたよ』
「そう。そりゃよかった」
どうやら、セイラもこれからは普通のトレーナーとして正しい道を歩んでいけそうだ。
(それにしても、セイラちゃん、か。あいつをセイラちゃんなんて呼んだら、どんな顔するだろうな)
『ところでレオ。お前は今どこにいるんだ?』
「今日ツクモシティに着いたとこだよ。明日ジム戦」
『そうか。一つ言っておくと、ツクモシティのジムリーダーはゴーストポケモン使いだぞ』
「知ってるよ。他のトレーナーから聞いたよ」
『おお、流石は私の息子だ。それじゃ、明日のジム戦、頑張れよ』
「うん。母さんによろしく伝えといてね。お休みなさい」
そして、通話は切れた。
明日は、いよいよジム戦である。
ツクモジムは、古びた洋館のような外観だ。
屋根や壁に蔓延る植物が、いかにも不気味な雰囲気を醸し出している。
しかし、勿論そんなことくらいで怖気づくレオではない。
「お願いします!」
ドアを開け、そう叫んで中へと入る。
やはりというか何というか、ジムの中も薄暗い。
だがそれ以外はほぼ普通だ。バトルフィールドにも変わった仕掛けは特に見られない。
そしてフィールドの向こうには、ジムリーダーが。
女性だ。丸い縁の眼鏡を掛けており、背はそこまで高くない。年齢は顔立ちからして二十歳くらいだろうか。
緑色の頭巾を被っており、紫色の服に、丈の長いスカートを履いている。
だがその顔に、レオは見覚えがあった。
正確に言えばどこかで彼女を見たというわけではない。この女性とそっくりな顔をした女を見たことがある、と言った方が正しい。
思わず、レオは呟いていた。
「夜天の……ラピス?」
そう。
この女性、夜天将に顔がそっくりなのである。
そして、その呟きを聞いた女性がバッと顔を上げた。
「貴方、今ラピスと仰いました?」
「え? あ、はい」
レオが答えると、女性は驚愕の表情を浮かべ、
「どうして、私の妹のその名を……?」
そう言ったのだ。
(やっぱり)
そう思いつつ、レオは女性の質問に答える。
「僕はN・E団と何度か戦ったことがあります。その時に夜天将と会ったことがあって、それで貴方と夜天将の顔がそっくりだったので……」
「ああ、そうでしたか。実は少し前に来た浴衣の赤髪の女の子も、貴方と同じことを仰いました。それで私、非常に驚いてしまいまして」
聞くまでもなく分かった。マゼンタだ。
おそらく彼女も気付いたのだろう。
「あの子は、生まれつき足が悪かったのです。その事で色々とあって……二、三年ほど前に、私の妹は車椅子にも関わらず家を出て行ってしまいました」
震える声で女性は話す。
「車椅子だし、一人での生活は出来ない。すぐに帰って来るだろうと思ってました。だけど、あの子は帰って来なかった。どこを探しても全く見つからなかった」
ですが、と女性は続ける。
「先日ついに、N・E団の一員として生活していると分かったんです。それが私、本当に嬉しくて……」
「嬉しかった……?」
レオにはその考えが分からなかった。悪の組織に加入しているのに、何故そのような感情が湧いて来るのか。
「だって、二、三年間、まったく消息が掴めなかったんですよ? 元気に生活してるってことが分かっただけで、私は本当に……」
とうとう女性は蹲って泣き出してしまった。
「あ、あの子は、優しい、私の妹です。きっと、帰って、来るって、私は、信じているんです」
女性にかける言葉が思い浮かばず、止まってしまうレオ。
夜天のラピスにも、そのような過去があったらしい。
「……申し訳ありません。ジム戦に来たというのに、お見苦しいところをお見せしてしまいました」
やがて涙を拭き、女性は再び立ち上がる。
「申し遅れました。私の名はシズカ。ツクモジムのジムリーダーで、霊能者とも言われてます」
まだ目は赤いが、シズカの表情はすでに変わっている。
「先ほどの話はありましたが、バトルは別です。私の得意分野はゴーストタイプ。ノーマル・格闘技は効きませんよ」
「そうこなくっちゃ。さっきのテンションでバトルなんじゃないかって、少々焦ってたところですよ」
「うふふ、それなら心配ありません。こう見えてポケモンバトルは大好きですから。全力で勝負しましょう」
「望むところです!」
ツクモシティでの、ジム戦が始まる。
『ツクモシティジム ジムリーダー シズカ 宵闇に祈る霊能者』