二次創作小説(紙ほか)

Re: 第六十三話 剛腕 ( No.138 )
日時: 2013/08/15 14:32
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: Q1X0ZXes)

アブソルの放った灼熱の炎は、天井に渦巻く黒雲の中央を貫く。
ゴバッ! と。
冷気で作られた雲が、灼熱の業火により全て薙ぎ払われた。
勿論、雲がなくなれば、霰は降らない。
「まさか、そんな手が……! ユキメノコ、霰です!」
レオの予想外の一撃にシズカは驚き、ユキメノコは慌てて再度霰を降らそうとする。
当然、レオはその隙を逃さない。
「もらった! アブソル、火炎放射!」
天井へと冷気を放っていたユキメノコへ、灼熱の業火が襲い掛かる。
当然避けられず、ユキメノコは炎に包まれてしまう。
「しまった、ユキメノコ!」
ユキメノコはどうにか炎を振り払うが、体の所々は焼け、出て来た時の美しさはほとんど失われている。
さらに、
「アブソル、辻斬り!」
既にアブソルは鎌の射程範囲内で近づいていた。
漆黒の鎌がユキメノコを捉え、そのままユキメノコは床へ崩れ落ちた。
「ユキメノコ、ありがとう。よく頑張りました」
ユキメノコをボールに戻し、シズカは三つ目のボールを手に取る。
「ムウマージの時といい、ユキメノコの時といい、貴方は状況判断に優れているようですね。そのような方が相手でしたら、私の次のポケモンはこの子です」
そして、
「お出でなさい、ワラガシラ!」
シズカの三番手は、大きな藁人形のようなポケモン。
なのだが、その体は太く、腕も感情で、背中には電気が迸っている。
つらみポケモンのワラガシラ。タイプはゴースト・電気。
「こいつは……今までと完全に違うな」
推測でしかないが、このワラガシラは今までの二体とは明らかに違う気がする。
この頑強な体つきから放たれるトリッキーな戦術が、どうしても思いつかない。
「それでは行きますよ。ワラガシラ、アームハンマー!」
ワラガシラが腕を振り上げる。
直後、意外と速いスピードでアブソルへと迫り、その鈍器のような腕が振り下ろされる。
「来るぞ! アブソル、躱して辻斬りだ!」
アブソルが後ろへと飛び退いた直後、金槌のような腕の一撃が床を叩く。
地面が揺れるほどの一撃だが、しかし、当たらなければ問題ない。
地揺れも気にせず、アブソルは軽く地面を蹴って跳び、額の鎌でワラガシラを切り裂く。
「それくらいでは、私のワラガシラは止まりませんよ。ワラガシラ、もう一度アームハンマー!」
駆け抜けるアブソルを追い、再びワラガシラは重い腕の一撃を叩きつける。
「躱してサイコカッター!」
「させません! ニードルアームです!」
腕の一撃を躱し、アブソルは鎌に念の力を込めて斬りかかる。
しかし、ワラガシラは腕の藁を逆立たせ、棘をびっしりと生やした腕を振るう。
念の鎌と棘の腕が激突するが、威力は互角。
「ニードルアームです!」
ワラガシラがその身を捻る。
裏拳の要領で、もう片方の腕の棘を逆立たせ、アブソルを殴り飛ばす。
「アブソル、立て直せ! 火炎放射!」
素早く体勢を立て直し、アブソルは灼熱の炎を放つ。
普通の動きはそこまで速くないワラガシラは、避けきれずに炎の直撃を喰らう。
「アブソル、辻斬り!」
さらにアブソルは追撃をかける。
一瞬でワラガシラまで接近し、すれ違いざまに額の鎌を振るう。
「シャドークロー!」
その直前で、ワラガシラは影の爪を伸ばし、鎌の一撃を防ぐ。
「アームハンマー!」
もう片方の腕が振り上げられる。
「まずい、アブソル!」
咄嗟にアブソルは鎌を引く。
振り下ろされる腕は避けたが、代わりにアブソルは影の爪に切り裂かれる。
「効果抜群に比べたら安い! アブソル、火炎放射!」
「甘いですよ。ワラガシラ、ギガスパーク!」
アブソルは灼熱の炎を放つが、対してワラガシラはバチバチと音を立てる電撃の砲弾を撃ち出す。
炎と砲弾がぶつかり合うが、ワラガシラの攻撃力には勝てず、炎は打ち破られ、アブソルは砲弾の直撃を喰らう。
火炎放射で威力を弱めてこそいるが、それでも威力は高い。
「こいつは効くな……アブソル、やれるか?」
体を駆け抜ける電気に身を震わせるがそれでも、当たり前だ、と言うようにアブソルは頷く。
「よっし、アブソル、サイコカッター!」
アブソルは鎌に念を込め、再びワラガシラへと斬りかかる。
「ワラガシラ、ニードルアーム!」
アブソルの念の鎌と、ワラガシラの棘の腕が激突する。
「ワラガシラ、ニードルアーム!」
「させるか! アブソル、火炎放射!」
再び裏拳のようにワラガシラの腕が放たれるが、アブソルは少し後ろに退いて棘の生え揃った腕を躱し、すかさず灼熱の炎を放つ。
「くっ、ワラガシラ、アームハンマー!」
炎を振り払い、ワラガシラは金槌のような腕を叩きつけるが、アブソルは横に逸れ、腕の一撃を避ける。
やはり、このワラガシラは火力一筋のパワータイプのようだ。
加えて大振りな攻撃が多いため、機動力の高いアブソルは比較的有利に戦いを進められている。
「一筋縄ではいきませんか! ワラガシラ、シャドークロー!」
影の爪を伸ばし、ワラガシラはアブソルへその矛先を向ける。
「アブソル、火炎放射!」
対して、アブソルは灼熱の炎を噴射し、影の爪を相殺する。
「辻斬り!」
そこにすかさずアブソルが跳び、漆黒の鎌を振るう。
しかし。

「今です! ワラガシラ、捕らえなさい!」

白刃取りの要領で、ワラガシラは二本の頑丈な腕でアブソルの鎌を挟み込み、強引に動きを止めてしまう。
「しまった、アブソル!」
何とか抜け出そうとするアブソルだが、ワラガシラのパワーに勝てず、全く抜け出せそうにない。
「決めましょう! ワラガシラ、アームハンマー!」
ワラガシラは片方の腕でアブソルの鎌を押さえつけ、アブソルを地面に縫い止める。
更にもう片方の腕が振り上げられる。
「まずい、アブソル、抜け出すんだ!」
しかし、ワラガシラの腕はまるで鋼鉄の杭のように、決して外れる事はなかった。
金槌の如き剛腕が、容赦無く振り下ろされる。
しかし。

「アブソル、身代わり!」

重い腕の一撃が叩き込まれるまさにその直前、アブソルが消えた。
ワラガシラの拳は、代わりに現れた『何か』を粉砕するに終わった。
そして、
「アブソル、辻斬り!」
背後から現れたアブソルが、ワラガシラを切り裂いた。
「ッ、身代わりを持っていましたか!」
身代わりを出現させることで、アブソルは何とか抜け出す事ができた。
「ですが、身代わりは体力を削ります。もうそのアブソルの体力も残り少ないはず。これで決めます、ワラガシラ、シャドークロー!」
「受けて立つ! アブソル、辻斬り!」
ワラガシラの腕から、影の鋭爪が伸びる。
怒りの形相を浮かべ、ワラガシラはその爪の矛先をアブソルに向ける。
対して、アブソルもその漆黒の鎌をさらに黒く光らせ、ワラガシラへ突撃する。
双方の斬撃が交錯し、お互いに背を向け、そのまま止まる。
次の瞬間。
全く同じタイミングで、ワラガシラとアブソルは崩れ落ちた。