二次創作小説(紙ほか)

Re: 行間 ( No.177 )
日時: 2013/08/10 20:18
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: Q1X0ZXes)

彼女は森の中に隠れていた。
彼女の友だちが作ってくれた家の、すぐ近くにある茂みの中に隠れ、さらに森のポケモンの力を借りて穴を掘り、茂みの下の地面の中に隠れていた。
途中で、大きな音が聞こえた。同時に、たくさんの人たちの怒ったような声が聞こえた。
しかし、彼女は動かなかった。
ここにいれば、絶対に安全だと思っていた。
隠れている間の食べ物は、鳥ポケモンたちが木の実を持ってきてくれる。
水ポケモンたちが飲み水を作ってくれるから。



何だか暑くなってきた。
おかしい。こんな夜なのに、そんなに暑くなる季節じゃないのに。
ふと穴の外を見上げると、とても明るい。
彼女はどうしても気になって、穴の中から顔を出した。

森が、炎で覆われていた。

その瞬間。
町に危ない人たちがやってくること、自分は隠れていなければならないことなどは、彼女の頭から完全に吹き飛んだ。
大慌てで彼女は穴から飛び出す。
近くの木の上の自分の家にまでは、まだ火は来ていないようだった。
よく見ると、水ポケモンたちが、炎に水を吹きかけ、何とか炎を止めようとしていた。
しかし、炎に対する水の量が少なすぎる。
このままでは、ここまで火が来るのも時間の問題だ。
「たいへん! あぶないよ! みんな、にげて!」
彼女は叫ぶ。
しかし、水ポケモンたちは絶対に引き下がらなかった。
自分たちの友だちを、何としても守り切るのだ。そう言うかのように、水ポケモンたちは懸命に火を止めようとする。
彼女には、何も出来なかった。
ただ、必死に祈る事しか出来なかった。
だから、
(かみさま、おねがいです! 私を、私の友だちを、この火からたすけて!)
座り込み、手を合わせ、目を瞑り、彼女は心の中で何度も何度もそう叫んだ。
そして、その時は来た。

バシャアッ! と。
突然、辺りに水が弾け飛び、周りの炎が一瞬で消えた。

勿論、森の炎が全て消えたわけではない。
しかし、彼女の周りの炎は、全て消えた。
それに気付き、彼女は目を開く。
目の前に、知らない男の人がいた。
その人の目は青く光っており、白い服の下から、うっすらと光が漏れていた。
「大丈夫ですか?」
その人は彼女の前に屈み込み、手を差し伸べる。
「驚かないでください。私はレオ君の知り合いです。貴女を助けに来ました」
その人の後ろには、青いポケモンがいた。
彼女の見た事もないポケモンだった。
「……うん、だいじょーぶ」
彼女は何とか答えた。人前では、泣きたくなかった。
「この炎の中でも泣かず、むしろ立ち向かっていけるとは。強い子ですね」
その人は、彼女の頭を優しく撫でた。
そして、急に彼女を抱きかかえ、立ち上がる。
「ここは危険です。周りの火は消しましたが、またすぐにここに燃え移って来る。その前に、私が安全な場所まで貴女を連れて行ってあげましょう」
そう言って、その人は歩き出そうとする。
「ちょっとまって」
彼女はその人を止める。
「エフィシに伝えたいの。私はだいじょーぶだって」
彼女がそう言うと、木の影から一羽のクロッチが一枚の大きな葉と枝を持って飛んで来た。
彼女はそれを受け取ると、枝を使って、葉に器用に文字を刻んでいく。
メッセージを書き終わると、クロッチはそれを受け取り、森の外へと飛んでいった。



「貴女は、ポケモンになってみたいそうですね」
灰色の物体に乗り、空を飛びながら、彼女を抱えたその人は語りかけて来た。
この灰色の物体も、ポケモンらしい。
「うん。いちどでいいから。ポケモンになってみたい」
「もしかしたら、その願い、私が叶えられるかもしれません」
「ほんと!?」
「ええ。私は、嘘は言いませんよ」
その人は、腕の中の彼女に、柔和な笑みを浮かべた。
助けられて良かった。とてもいい人が助けてくれた。
そう思った直後、彼女を睡魔が襲う。
気付かないうちに、彼女自身も疲れ切っていたようだ。
やがて、彼女の意識は夢の中に攫われてしまった。