二次創作小説(紙ほか)

Re: 第百十一話 辺境地 ( No.234 )
日時: 2014/04/30 07:21
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)

次の日。
レオは早く起き、朝食を食べ、ヨザクラタウンへ向けて進んでいた。
ヨザクラタウンは、山奥にある町らしい。
ジムもあるが、ホクリク地方にはジムが八つ以上あるので、わざわざ山奥へジム戦をするためだけに行く人は殆どいない。
一応地図を貰ったが、大雑把なところもあり、地図だけだと確実に迷子になりそうだ。
「トゲキッスに頼んで、小まめに道を確認してもらうしかないな」
今の所は見晴らしのいい道が続くが、山に入ればそうすることになるだろう。
既に何時間も立っているが、夕暮れまでには着きたい。山の中で夜を過ごしたくはない。
加えて、いつN・E団が襲ってくるのかも分からない。
少し歩みを速めようと考えていたレオだったが、

「レオ! やっと追い付いた!」

唐突に、後ろから声を掛けられる。
振り向くと、そこには見知った顔が。
「そんなに急いでどうしたのよ。何か用事でもあるの?」
声の主は、レオの幼馴染、アスカだった。
「アスカじゃないか。ってか、どこから来たんだ? シヌマにいたのか?」
「違うわよ。テンモンシティから来て、この道路に入った時に、あんたがこっちに向かって進んでるのが見えたのよ」
「テンモンシティ? 確かジムがあったよな。ジム戦して来たのか?」
「まあね。あそこのジムリーダー、滅茶苦茶強かったけど。ボコボコにされたから、一旦こっちの方で鍛えようと思ってね」
ところで、とアスカは続け、
「あんたはどこに行くのよ。まさかヨザクラタウン? わざわざジム戦だけのためにあんな山奥まで行くの?」
やはり普通の人はヨザクラタウンには行かないようだ。
「『ブロック』の人に頼まれてさ、ヨザクラに用があってね。ほら、僕が『ブロック』に入ったって話はこの前しただろ?」
「ええ聞いたわよ。その後私も副統率とかいうチャラ男みたいな人に誘われて入ったけど」
そう言うアスカの胸元には、『ブロック』のバッジが。
どうやらリョーマは色々な人に『ブロック』加入を誘っているらしい。
「そこから頼まれたってことは、N・E団関係?」
「そういうこと。ヨザクラタウンにN・E団が襲って来るらしいから、それを伝えに行くのさ」
ついでにジム戦もするつもりだよ、とレオは続ける。
「へえ。なら、私も行くわ」
「え?」
「あんたがわざわざ山奥まで行ってジム戦するんなら、それだけ厳しい道を行くってことでしょ。あんたには負けられないからね。私も行かせてもらうわよ」
これは有難かった。頼れるアスカが一緒ならば、非常に心強い。
「本当はあんたとバトりたかったんだけど、その様子だと無理なんでしょ。用事が済んだら、私とバトルよ」
「ああ、いいぜ。僕も久々にアスカと戦いたかったところだ」
心強い味方が出来たレオ。
とりあえずは、ヨザクラタウンまで進むのが先だ。



既に日は暮れかけていた。
山路で散々迷ったものの、トゲキッスがポケモンセンターを見つけ、レオとアスカは何とかヨザクラタウンに到着した……のだが。
「……なんだ、ここ?」
「……ポケモンセンターはあるけど……」
ポケモンセンターは確かにあり、さらに不自然な竹林の中に屋敷があり、ジムの看板が建てられているのだが、それ以外は民家が五、六軒。
しかも、随分昔のような作りで、家というよりは集落と言った方が合っているかもしれない。
しかし、看板には確かにヨザクラタウンと書かれている。
「なるほどな。こりゃ誰も来ないわけだ」
「こんなところに来たって、何のメリットもないわね」
一先ずポケモンセンターに入る二人。
トゲキッスを休ませ、ジョーイさんに話を聞こうとするが、
「もしかして、貴方が?」
向こうから先に話を振られた。
「え? 何がですか?」
「貴方が、『ブロック』からの使いかしら?」
どうやら既に話が伝わっているらしい。
「ええ、そうですけど。何で知ってるんです?」
「副統率と名乗る方から、連絡があったの。胸に『ブロック』のバッジを付けた少年が来るから、ジムリーダーのところまで案内してやってくれって」
リョーマが先に簡単に話をしておいてくれたようだ。
「さあ、私と一緒に来て。あそこのジムはカラクリ屋敷になっていて、ジムリーダーに会うまでが難しいんだけど、今回は話を付けてるから、すぐに出て来てくれるわよ」
その前に、とジョーイさんは続け、
「後ろの女の子は? 私が聞いてた限りだと、来るのは一人だって話だったけど」
「ああ、アスカの事ですか? アスカは僕の幼馴染です。『ブロック』にも加入しているから、大丈夫ですよ」
「分かったわ。じゃあ、ついて来て」
ジョーイさんはポケモンセンターを出て、二人を案内する。
屋敷の前に着くと、ジョーイさんは扉を開け、ジムリーダーを呼ぶ。
扉の中は畳が敷かれ、卓と座布団が置かれた、そんなに広くもない部屋だ。
奥には掛け軸があるが、どう見てもジムには見えない。
「『ブロック』の使いの人が来ました。お願いします」
ジョーイさんが声を掛け、しばらくすると、不意に掛け軸がめくれた。
掛け軸の後ろに大きな穴があったのだ。そこから、人が出て来た。
出て来たのは、黒い忍者服を身に纏った少年だった。
見た目で判断すればレオより少し上くらい。二十歳には届いていないだろう。
「ジョーイさん、ありがとうございます。それでは、後はこっちで話すので。ありがとうございました」
その少年はジョーイさんに簡単に礼を告げる。
「お前たちが『ブロック』の使者か。さ、入れ」
少年に言われ、レオとアスカは中へ入り、座布団に座る。
「俺はこの町のジムリーダー、コタロウ。お前たちの事は大体分かっている。率直に聞こう。用は何だ。申せ」
コタロウと名乗った少年は、早口で語る。
年はレオとそんなに変わらない様子だが、相当大人びている。
「N・E団という組織を、ご存知ですか?」
「N・E団とな。ああ、聞いたことはある。各地で悪事を働く組織だと把握しておるが」
コタロウは口調もやや古風だ。
「大体合ってます。でももっと規模が大きいんです。大きな犯罪行為などを平気で犯すような集団で、目的は不明ですが、世界征服などの噂もあります」
「世界征服、とな? ふっ、くだらぬ戯言だ。して、その組織がどうしたというのだ」
「その組織が、この町にある三つの宝石を狙っているんです。僕たちはそれを伝え、この町に協力するために来ました」
目的を伝えたレオだが、
「くだらぬ」
一蹴された。
「N・E団が何者かは知らぬが、我々の村に伝わるあの宝玉を奪うことなど出来ぬわ。ヨザクラタウンの戦力を……ん?」
自慢げに語っていたコタロウだが、ふと話を止める。
「お前、今三つの宝石と言ったな」
「え? はい」
「お前、親はこの町の生まれのものか?」
「いいえ、二人とも違います」
「ならば、なぜ三つの宝石の事を知っている?」
「ですから、N・E団の奴が言っていたんですよ。次の目的は、この町にある宝石を奪うことだと」
「……怪しいな」
コタロウが呟く。
「この町の三つの宝石の事は、この町に住む者しか知らぬはず。それを話した者は、掟を破ったと見なされ、消されることになっている。だが、俺が知る限り、この十年間で、この町や他の町で我々の仲間に消された者はおらぬ」
「あの、どうしてそんなことがはっきりと分かるんですか?」
アスカが話を挟む。
「このヨザクラの町では、秘密事は存在しない。一人がある情報を知れば、それは一日後にはヨザクラの住人全ての者に伝わる。加えて、この十年間、誰かが町の外に出たという情報も聞かぬ」
コタロウは真剣に考え込んでいる様子だったが、
「この件は俺一人で解決するには荷が重すぎる。あの方に話をするしかないようだな」
そう呟き、立ち上がる。
「お前たち二人。お前たちを特別に、我々の集落へと案内する。そこの事は、誰にも口外してはならぬぞ。もしこの約束事を破れば、貴様らの命は無いと思え」
コタロウの言葉に威圧感が篭る。
ただならぬ恐怖を感じるが、レオとアスカは頷くしかなかった。
「まあ、お前たちは約束事を破るような輩では無かろう。目を見れば分かる」
コタロウの顔がほころぶ。レオとアスカは安心したように息を吐く。
「さて、ここで一つ、お前たちに言っておく事がある」
また物騒な発言が飛ぶのではないかと身を強張らせる二人。
しかし、コタロウの口から出た言葉は違った。

「ヨザクラの町のジムリーダーは、もう一人いるのだ」