二次創作小説(紙ほか)

Re: 第百二十七話 誇笑 ( No.261 )
日時: 2014/07/13 14:41
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)

破壊光線が、ヘラクロスを直撃した。
恐ろしい勢いで吹き飛ばされ、壁に激突するヘラクロス。
壁にめり込み、その壁にも何本ものひびが入る。
まだ戦えるかなど、確認するまでもなかった。
「ッ……ヘラクロス、よく頑張ったな」
ヘラクロスをボールに戻し、レオはマツリの方へと向き直る。
「こういうことです。ね、分かったでしょう。貴方は、私のポリゴンZには勝てません」
マツリがそこまで断言する、ポリゴンZの実力は、確かに本物だった。
「だから、もう一度いいます。ここでこのバトルを終わらせませんか。そうすれば、お互いのポケモンはこれ以上傷つかずに済む。どっちにしろ、あっちの赤髪の人がトパズ様に負けなければ、まだ宝玉の行方は分かりませんし」
レオは知る由もないが、基本的にふざけた態度が多いマツリが、ここまで真面目に語るのはかなり珍しい。
そして、マツリの言葉はほぼ間違っていない。
確かに、ここでレオが負けても、宝玉が奪われるかはまだ分からない。
しかし。
一つだけ、レオは言える。
マツリが、確実に間違っているという点を。
「……お前が、ポケモンを大事にしたい、そう本気で思っている。それはよく分かったよ。確かに、それは正しいよ」
でも、とレオは続け、

「だったら、何でお前はN・E団なんかに入ってるんだよ」

「……っ」
マツリの表情が、僅かに変化する。
「大切なポケモンを傷つけたくない、そう本気で思っているなら、どうしてお前はそっちの道に進んだんだ! 他に道はなかったのかよ!」
「私にだって、事情の一つ二つはあるんですよ。ええ、自分って馬鹿だなーって事なんてしょっちゅうですよ。小さい頃から、幸せなんでて用意されていなかったって」
「だったら、なおさらだろ」
吐き捨てるように、レオは言う。
「お前の過去に何があったかを僕は知らない。でもさ、不幸であることの辛さをよく知っているお前が、どうして人に不幸を与える側にいるんだよ。不幸を知る人間は、それを食い止めなけりゃいけないんじゃねえのかよ!」
しかも、とレオはさらに続ける。
「ここまでのバトルで分かった。お前は強い力を持ってるじゃないか。それを使って、上司の一人に反論することくらい出来るだろ。直属の上司は無理でも、他の天将に訴えかけることくらい出来たんじゃねえのかよ! 俺は自信を持ってお前に言える。お前の生き方は間違ってんだよ! それを教えるために、僕は最後まで戦い抜くぞ」
自分の思いを全て、はっきりと告げ。
レオは最後のボールを取り出す。
「頼むぞ、パンプッチ!」
レオの最後のポケモンはパンプッチ。
破壊光線を無効に出来、さらに雷を抑えられる。相性は悪くない。
「ここまで来たら、今さら引き返せませんよ。最後まで戦って、勝ってやりますよ」
刹那。
「パンプッチ、エナジーボール!」
「ポリゴンZ、サイコキネシス!」
両者は同時に動いた。
パンプッチが木の葉の杖を振り、自然の力を込めた弾を放つ。
ポリゴンZは念力を操作し、強い念力の波を飛ばす。
お互いの技が激突する。威力は、ほぼ互角。
「ポリゴンZ、冷凍ビーム!」
ポリゴンZが冷気を凝縮した光線を放つ。
「パンプッチ、躱してハイドロポンプ!」
冷凍ビームを躱すと、パンプッチは杖を振る。
その杖の先から、大量の水を噴射する。
「ポリゴンZ、雷!」
対してポリゴンZは雷に匹敵するほどの高電圧の電撃を撃ち出す。
雷撃はハイドロポンプを食い止め、さらに水から杖を伝ってパンプッチに電気を浴びせる。
「サイコキネシス!」
その隙を逃さず、ポリゴンZは念力の波を放ち、パンプッチを吹っ飛ばす。
「破壊光線くらい無くても構いませんよ。ポリゴンZ、冷凍ビーム!」
体勢を大きく崩しているパンプッチを狙い、ポリゴンZが冷気の光線を放つ。
「パンプッチ、シャドーボール!」
パンプッチが杖を振る。
中途半端な体勢だったため、相殺は出来ないが、光線の軌道を逸らし、冷凍ビームを回避する。
「エナジーボール!」
体勢を戻して杖をもう一振りし、パンプッチは自然に宿る命の力を集め、それを撃ち出す。
「ポリゴンZ、躱してサイコキネシス!」
「そうはいかねえ! パンプッチ、ハイドロポンプ!」
ポリゴンZがエナジーボールを躱したところを狙い、パンプッチも攻撃の手を緩めず、大量の水を噴射する。
念力を放つよりも早く水柱がポリゴンZを捉え、吹っ飛ばす。
「パンプッチ、エナジーボール!」
杖を振り、パンプッチが自然の力を集めた命の弾を放つ。
「ポリゴンZ、雷!」
胴体と離れた首をぐるりと回し、強引に体勢を戻し、ポリゴンZは超高電圧の電撃を撃ち出す。
双方が激突し、爆発を起こす。
「ディザソル、ヘラクロスからの三連戦だ。そろそろスタミナ切れなんじゃねえのか?」
「まさか。寧ろ貴方の方が先にスタミナ切れしないか心配なくらいですよ」
両者共に余裕を浮かべ、激しい戦いを繰り広げる。



「チリーン、よく頑張った。戻って休め」
チリーンをボールに戻し、トパズはアスカの方に向き直る。
「未覚醒とは言え、たった二体で我の三体を倒したその実力、賞賛に値する」
素直に、トパズは賞賛の言葉を告げる。
「何をカッコつけてんの? さあ、さっさと最後のポケモンを出しなさいよ」
対するアスカの口調には、一切の容赦がない。たとえどれほど有利な展開でも、絶対に油断はしない。
「……会話をする気は無しか。まあよいだろう」
そう呟き、トパズはゆっくりと最後のボールを取り出す。
「さて、我もようやく『覚醒』を使う時が来たようだ。今こそ、軍神たる我が力を解き放とう」
低く力強い声で、トパズがそう告げた直後。
ボールに描かれた鎖の模様、そしてトパズの瞳が、金色の輝きを放つ。
同時に、トパズの首元に、逆さに生えた鋭い一枚の龍の鱗のような模様か浮かび上がる。
「輝天の名を冠する我に与えられた刻印は、龍が首元に持つ逆鱗。何者かが逆鱗に触れし時、龍は激昂し、その者を即座に殺してしまうという」
すなわち、とトパズは続ける。
「我の逆鱗が表すその意味は、確実で絶対の勝利。輝く龍の逆鱗に触れた者に、敗北という名の死を与えん」
低く、力強く、トパズは言葉を紡ぐ。
手にしたボールを、大きく掲げる。

「輝天の明光を受けよ、マカドゥス!」

現れたのは、蒼い獣の姿をしたポケモン。
体を結晶のように細く鋭い岩が覆っており、黄色い腹や尾からはバチバチと電流が走る音が響く。
目を引くのは、白く輝く、細長く鋭い牙と爪。
サーベルポケモンのマカドゥス。岩・電気タイプ。
しかし、このマカドゥスは明らかに普通の個体と違うところがあった。
トパズの繰り出したマカドゥスは、右目が潰れていた。
「このマカドゥスは、私が軍人になる前から我と共に生活してきた、我がパートナーだ。戦争で右目を失った。だが、視界が欠けたことでより研ぎ澄まされた感覚を身につけることが出来た」
トパズの言葉に呼応するように、マカドゥスは低く唸り、全身から火花を散らす。
そして、とトパズは続ける。

「覚醒した時の我は、N・E団七天将序列二位だ」

アスカの思考が、一瞬停止した。
(嘘……でしょ……? 五位ですらレオがほぼ相打ちだって話なのに、二位なんて……!)
得体の知れない恐怖が、アスカを襲う。
(っ……やってみなきゃ分かんないわ。こっちにはまだ三体もポケモンが残ってる。そうよ、いくら二位でも、この私が育ててきたポケモンたち三体には勝てやしない!)
「いいわ、かかってきなさいよ。いくら覚醒したって、所詮は残り一体。逆転なんて出来っこないわよ」
「なるほど。では、遠慮なく」
トパズの口元が、僅かに緩む。

「マカドゥス、ダイヤブラスト!」

刹那、マカドゥスが消えた。
一瞬でチルタリスとの距離を詰め、青白く煌めく爆発を起こし、爆心地にチルタリスを巻き込み、吹っ飛ばす。
壁に叩きつけられ、チルタリスは一撃で戦闘不能となった。
「……!」
一瞬の早業。
相手に回避を指示する隙すらも与えず、確実に仕留める。
「チルタリス、ありがとう。戻って休んでて」
チルタリスを戻し、次のボールを取り出すアスカだが、
(やばい……絶対やばい……!)
想像をはるかに超える力の前に、焦燥と恐怖がアスカの心を満たしていく。
「どうした。先ほどまでの威勢の良さは、もう終わりか」
常に表情を変えず、確実に任務をこなすトパズが、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
獣が獲物を仕留める時のような、獰猛で野生的な笑みを。




——獲物を見据えた猛獣が牙を剥くことを原点とした、攻撃的な行動でもある。