二次創作小説(紙ほか)
- Re: 第百二十八話 遂行 ( No.264 )
- 日時: 2014/07/22 23:18
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
破天将直属護衛二人のバトルが終わったのは、ほぼ同時だった。
アヤメとコタロウが辺りを見渡すと、既に他の破天隊は全員撤収していた。
「さて、これで俺たちの勝ちだ」
「とっ捕まって父上から拷問でも受けるといいわ。観念しなさい」
二人が詰め寄るが、キキとケケは特に何の焦りも見せない。
「残念だが、俺たちはこんなところで捕まらねえぜ。出て来な、スカタンク」
ケケがモンスターボールを取り出し、スカタンクを出す。
「でも私たちの今回の任務は、トパズ様の宝玉回収のサポート。このままだと貴方たちがトパズ様の元へ行ってしまう可能性があるし、最低限の仕事はさせていただくわ。それよりケケ、さっさとプラネムを戻してあげなさいよ」
「っと、そうだった。プラネム、戻って休んでな」
キキに促され、ケケがプラネムのボールを取り出す。
次の瞬間。
「プラネム、大地の怒り!」
ほぼ戦闘不能にまで追い込まれていたケケのプラネムが、地面に落ちたまま最後の力を振り絞り、大地から瓦礫を吹き上げる。
「ッ!?」
咄嗟に飛び退くコタロウとアヤメだが、プラネムが狙ったのはそこではない。
狙いは、屋敷の真ん前。
瓦礫や土砂が吹き出し、積み重なって、屋敷の入り口を完全に塞いでしまった。
「そんじゃ退散! スカタンク、煙幕だ!」
ケケの声を聞いた二人が振り返るが、黒い煙幕が晴れたとき、そこには誰もいなかった。
邪魔な木々をなぎ倒し、巨大な怪物、ティラノスが地を踏みしめる。
大きく咆哮しただけで、一帯を覆う氷が砕け散った。
「ギャヒャヒャ! さぁーて、まずはお前の力を見せつけてやろうじゃねえか!」
口元を歪め、メジストはティラノスに技を指示する。
「ティラノス、グランボールダ!」
刹那。
周囲の木々が、まとめて吹き飛んだ。
「……ッ!」
間一髪、ミヤビは木から飛び降りる。
直後にその木も天高く吹き飛ばされた。
そして間髪入れずに、大地から大量の大きな岩が出現。
躱そうにも、範囲が広すぎる。
半ば押し潰すような形で、大量の岩がドクロッグを完全に覆い尽くす。
「ぶっ飛ばせ! ティラノス、ぶち壊す!」
その巨体からは想像もつかないようなスピードで、ティラノスが突撃する。
ドクロッグを覆う岩など容易く粉砕し、ドクロッグを恐ろしいほどの勢いで吹き飛ばした。
ドクロッグは数メートル吹っ飛ばされ、木の幹に激突し、戦闘不能となる。
「……ドクロッグ、よくやった。休んでおれ」
先ほどのグランボールダで、周囲の木々が全て吹き飛び、平地と化してしまった。
ドクロッグをボールに戻し、ミヤビはメジストを見据える。
対するメジストはティラノスを見つめ、どうにも不満そうに呟く。
「……ちっくしょー、やっぱり納得いかねえ。どうしてこの俺様が四位止まりなんだって話だよな」
その口調は独り言にも、話しかけているようにも聞こえる。
「序列決定戦でラピスのブラッキーさえいなけりゃ、俺様の圧倒勝利で序列三位確定だったってのに。あの野郎、ねちっこい変化技で散々ティラノスを痛めつけて来やがって。寧ろその状態でブラッキーを倒し、ネクロシアをギリギリまで追い詰めた俺様の方がよっぽど三位に相応しいだろ。お前もそう思うだろ? なあティラノス? ……つっても、どうせトパズにはどう頑張っても勝てねえから、結局は三位止まりか」
メジストの言葉に応えるようにティラノスは低く唸る。
しかしこの台詞は、ミヤビにとっては知る由もないが、このティラノスが天将三位のラピスのネクロシアよりも強いことを意味している。
「今更そんなこと語っても意味ねえか。それより」
再び凶悪な笑みを浮かべ、メジストはミヤビの方に向き直る。
「ギャヒャヒャ! 忍びの長ミヤビさんよぉ、なんだぁその怖気付いたみてえな表情は? 百戦錬磨の凄腕忍者でも、ここまでの強敵に会ったことはねえって顔してるな」
メジストの言葉で無意識のうちに表情に出ていたことに気づき、小さくミヤビは舌打ちする。
「つーか、それが普通だろうけどな。あのトパズですら、こいつを見たときは相当警戒したっつってたからな。ま、結局トパズには勝てなかった訳だが」
メジストの言葉はとりあえず無視し、ミヤビは次のポケモンを繰り出す。
「例え何が敵であれ、私がやることは変わらぬ。私が今やることは、貴様を倒すことだ。出でよ、ゲンガー!」
ミヤビの三番手はゲンガー。相性が悪いが、先にゲンガーを出すしかない。
「なんだぁ? ティラノスに相性の悪いゴーストタイプか。ギャヒャヒャ、それなら速攻で消し飛ばしてやるぜ」
メジストが目を見開く。
「ティラノス、ぶち壊す!」
ティラノスが大きく咆哮し、渾身の力を込めて突撃する。
「ゲンガー、躱して鬼火だ!」
対するゲンガーは地面をすり抜け、地下へと姿を消す。
標的を見失って動きを止めたティラノスの背後に現れ、不規則に揺らめく青い火の玉を放つ。
「火傷を狙うつもりか? だがそうはいかねえ! ティラノス、フレアドライブ!」
ティラノスを中心に、激しい炎が迸る。
鬼火を打ち消し、さらにその炎を身に纏って突進する。
「ゲンガー、ヘドロ爆弾!」
対してゲンガーはヘドロ爆弾を足元に投げつけ、煙幕を起こす。
ティラノスの炎の突進が煙幕を晴らすが、そこにゲンガーはいない。
「逃げ足だけは一流だな。さあどこに逃げた? どっから来たって構わねえぜ」
「それではお言葉にあまえるとしよう。ゲンガー、ヘドロ爆弾!」
ティラノスの斜め後ろ、倒れた大きな木の中からゲンガーが現れ、何発ものヘドロの塊を放つ。
ヘドロがティラノスに命中すると、その場て破裂して煙を起こし、ティラノスの視界を塞いでしまう。
「シャドーボール!」
そこにゲンガーは影の弾を連続して放つ。
効果は今一つだが、連続した攻撃によって確実にダメージは蓄積されていく。
しかし、
「調子に乗んなよ! ティラノス、グランボールダ!」
ティラノスが思い切り地面を踏み付ける。
大地が大きく揺れると共に、無数の岩が飛び出し、ゲンガーに襲い掛かる。
「ゲンガー、躱してヘドロ爆弾!」
ゲンガーは再び地中へ潜むが、
「その手はもう通用しねえぞ! ティラノス、グランボールダ!」
再びティラノスが大きく大地を揺るがす。
地面が割れ、大量の岩が飛び出すと共に、その衝撃でゲンガーが地下から引きずり出される。
「ギャヒャヒャヒャ! そこだティラノス、ぶち壊す!」
ティラノスが地を蹴り、渾身の力を込めてゲンガーへ突撃する。
「ッ、ゲンガー、サイコキネシス!」
咄嗟にゲンガーは倒れている木を操り、横からティラノスにぶつける。
攻撃は避けられないが、ティラノスの軌道を僅かに空し、直撃は避ける。
それでも効果抜群、大ダメージに変わりは無い。次にもう一発喰らえば、耐えられないだろう。
そこで、唐突にメジストの黒服の中から電子音が響く。
「何だ、バトル中だぞ? ……ああ、メッセージか。キキから?」
メジストはモニターが付いた無線のようなものを取り出す。
さっと目を通すと、ミヤビに向き直る。
「おい、喜べよ。俺の隊員が、お前の部下に全て撃破されたらしい」
「その割には、随分と余裕な表情をしているな」
「まーな。今回の俺たち破天隊の任務は、あくまでトパズのサポートだ。あいつらは負けちまったみたいだが、ちゃんと任務は遂行してくれたみてえだから問題ないってことさ」
つーわけで、とメジストは続け、
「お前をあっちに戻す訳にはいかねえんだよ。分かるかなぁ? だからもうちょっと頑張ってくれよ。このままじゃ、ティラノスに圧倒されてバトルが終わっちまうぜ? ギャヒャヒャヒャヒャ!」
メジストが瞳に獣のような光を浮かべて笑う。
対して、
「そう上手く行くかね」
いつの間にか、ミヤビの口調に落ち着きが戻っている。
「あ?」
「お主らからの予告状を受け取り、レオとアスカからお主らが如何に危険な集団かを聞いた。その上で、お主らが与えてくれた四日間を、私が何の対策も練らずに過ごしたとでも思っていたのか?」
その時。
地に黒い影が浮かび、クロバットがゆっくりと降りてくる。
怪訝な表情を浮かべるメジストを尻目に、ミヤビはクロバットをボールに戻し、再びメジストに向けて告げる。
「私の考えもお主の主張と同じだ。本命はあくまで向こうであり、さらに私としてもお主を向こうに行かす訳にはいかぬ。加えて私が抜けた分の戦力も考え、既に確保しておいた」
いくらメジストが裏社会や戦闘に慣れていようとも、やはり所詮は犯罪グループ止まり。
数々の戦闘をこなし、あらゆる作戦を想定する百戦錬磨のミヤビが相手では、ポケモンバトルで勝つことは出来ても、戦闘の根本的なところでは到底敵うはずもない。
「すぐに分かる。お主らのような若造には、我々の誇りとする宝を奪うことなど出来ぬということがな。さあ、バトルを続けようではないか」
ミヤビの言葉を聞いたメジストの表情に、明確な苛立ちが浮かぶ。
「……作戦変更だ。てめえを速攻ぶっ潰してから、俺もあっちに加わる」
「ならば私も作戦変更だ。レオや私の部下たちがお主らの仲間を倒すまで、徹底的に時間をかせぐことにしよう。それで私が負けようと、お主らの大将が負ければ、大将をサポートする兵士であるお主は引かざるを得ないだろうからな」
双方の表情に浮かぶものは、憤怒と超然。
平地と化した森の一角に、二者が対峙する。