二次創作小説(紙ほか)

Re: 第百三十一話 秘策 ( No.268 )
日時: 2014/08/13 17:54
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: GEZjoiD8)

「何者かと思ったが、ただの『ブロック』の一統率か。貴様一人が来たところで、我の敵ではない」
トパズが無表情で言うのに対し、
「それはどうかな」
ライロウは不敵な笑みを浮かべる。
「見たところ、てめえの手持ちはあとそいつ一体。対して、俺はライチュウ以外にもあと三体のポケモンがいる。言っとくが、俺は『ブロック』三位の腕前だぞ」
「……」
一瞬訪れる静寂。
ライロウを見据えるトパズの目が細くなる。
刹那。
「マカドゥス、雷!」
「ライチュウ、ボルテッカー!」
マカドゥスの八本の雷撃の槍と、ライチュウの激しい電撃を纏った突撃が激突する。
激しい競り合いが続くが、やがてライチュウが押し戻され、吹っ飛ばされる。
「っ、流石のパワーだな。光の壁があってもここまで押されるか」
そう言ったライロウだが、口調に焦りはない。
「だが、幸いてめえのポケモンはあと一体だから、突破口は無いわけじゃねえ。三体でそのマカドゥスの動きを完全に見極め、残りでその隙を突く。残念だったな輝天将、てめえの負けだ」
ライロウの言葉を、無表情のまま聞いていたトパズが、
「そうだな」
静かに口を開く。
「我のマカドゥスでもこの展開は厳しいだろうな。メジストを呼び戻してもいいが、恐らくあの忍びの長が逃がさないだろう。なるほど、確かにここで貴様を突破するのは無理そうだ」
だが、とトパズは続ける。

「忘れたか? 今回の我々の目的は、宝玉の回収だぞ」

直後。
「トパズ様、宝玉の回収、完了致しました」
全員がトパズとライロウに気を取られていた隙に、マツリが三つの宝玉を確保してしまっていた。
「よくやった。マツリ、先に戻っていろ。マカドゥス、行け」
「了解です」
素早い動きでマツリはマカドゥスに飛び乗る。
マカドゥスは大きく跳躍し、壊れた屋根から外に出て行ってしまった。
「っ、待て! トゲキッス、頼む!」
咄嗟にレオがトゲキッスを出す。
「マカドゥスを追ってくれ!」
レオの指示を受け、トゲキッスは屋敷の外へと飛び上がろうとする。
だが。
直後、上空からマカドゥスのものとはまた別の電撃が撃ち出される。
予想外の攻撃にトゲキッスは反応出来ず、電撃を浴びてしまう。
「ちっ、誰だ!」
レオが上を見上げると、いつの間に来たのか、屋敷上空にはN・E空中輸送ドックが。
そしてその電撃の主は、乗用のユニットのようなものを付けたジバコイル。ソライトのものだろう。
ジバコイルはトパズの元まで降り、トパズはそのユニットに飛び乗る。
「それでは、我々はこれで撤収する。さらばだ」
そう言うが早いか、ジバコイルは上昇し、ドッグの中へ乗り込む。
次の瞬間には、空中輸送ドックはエンジン音と共に飛び去っていった。
「ッ……くそっ!」
レオが声を荒げ、床に拳を叩きつける。
「大事な宝を守れなかった……ミヤビさんに、何て言えば……!」
力なくして座り込むレオだが、そこで気付く。
横にいるライロウが、小さく笑みを浮かべていることに。
「ん?」
レオの視線に気付いたのか、ライロウが振り向く。
「何だ、そんな変な顔して。何をそんなに悔しがってる?」
「何って……貴方こそ何言ってるんです!? 宝玉が奪われたの、見てましたよね!?」
レオが声を荒げると、ライロウは少し驚くが、すぐに笑みを浮かべる。
「あーそっかそっか。お前らはミヤビから今回の作戦を聞いてねえのか」
「?」
怪訝な表情を浮かべるレオに、さらにライロウは続ける。
「時期に分かるぜ。この勝負は、俺たちの勝ちだ。おや、噂をすれば、もう来たみたいだぜ」



ピピピッ……と。
メジストの服の中から、小さな電子音が鳴る。
「おや」
ミヤビとクロバットを追っていたメジストが立ち止まった。
「ティラノス、止まれ。決着がついたらしいぜ」
メジストの指示を受けてティラノスは止まる。
戦い足りないとでも言うかのようにメジストの方を見、低い唸り声を上げる。
「すまんな。次やる時は、また暴れようぜ」
やや不満そうだったが、ティラノスは頷き、ボールに戻る。
それと同時に、メジストの顔に浮かぶ龍の顔のような黒い光が消える。
「向こうの決着が付いたか」
メジストの様子を見て、ミヤビが木の上から飛び降りて来る。
「ああ、終わったみたいだぜ。ソライトからの着信が来てる。宝玉は無事回収出来たってよ」
メジストの言葉を聞き、ミヤビの表情が僅かに変化する。
「そうか……。成せるだけの策は成したつもりだったが、敵わなかったか……」
「お前らは頑張った方だと思うぜ。俺とトパズでもここまで手こずらせたのは、お前らが初めてだ」
じゃーな、とメジストはフードを被り直し、ミヤビに背を向けるが、
「……追ってこねえんだな」
少し歩いたところでふと立ち止まり、ミヤビの方を振り返る。
「決着の付いた勝負には立ち入らない。勝利しても深追いはせず、敗北すれば潔く退く。私たちの町の掟だ」
「そーかい。ま、俺たちの作戦が完了したら、その時は返してやらないこともねえぜ」
メジストは再び踵を返し、森の奥へと消えていった。
「……さて」
メジストの気配が完全に消えたのを確認し、ミヤビは小さく呟く。
「では、町に戻るとするか」



ミヤビが戻って来て、まず最初に目に入ったのは、天井がずたずたに破壊された屋敷だった。
「ミヤビ様!」
「父上!」
ミヤビの姿を見るなり、コタロウとアヤメが駆け付ける。
「ミヤビ様、今し方、テンモンシティのライロウ殿が屋敷の中へ入って行きましたが」
「あの方は、父上が呼んだのでしょうか」
質問を重ねるコタロウとアヤメを、ミヤビは手で制する。
「その話は後だ。決着が付いた。後で全て話すから、今は黙って私に着いて来い」
それだけ言って、ミヤビは屋敷へと向かっていく。
コタロウとアヤメも、慌てて後に続く。
屋敷の奥へと踏み入れたミヤビが見たのは、力を無くして座り込むアスカ、こちらの方を振り返るレオ、そして満足そうな表情を浮かべるライロウ。
「ミヤビの旦那、流石ですな。奴らは何の躊躇いもなくそこの宝玉を持って行きましたぜ」
ミヤビの姿を見て、ライロウはニヤリと笑う。
「そうか。ではこの勝負は、我々の勝利のようだな」
ライロウの言葉を聞き、ミヤビも微かに笑みを浮かべる。
「……勝利?」
「ミヤビ様、俺には全く理解出来ませぬ」
「父上、どういうことですか!?」
レオとコタロウ、アヤメが次々と疑問の声を上げる。
「実はな」
ミヤビが道着の懐に手をかけ、緑色の袋を取り出し、それを開ける。
そこにあったものは。

それぞれ蒼、翠、紅の光を放つ、美しい宝玉だった。

「……!?」
言葉が出ず、ただ呆然とするレオ達。
それもそのはずだ。先ほど奪われたはずの宝玉が、ミヤビの懐から出て来たのだから。
「お前達にも秘密で、宝玉を偽物にすり替えておいたのだ。奴らが持って行ったものは、精巧に作った偽物。これこそが、本物の宝玉だ」
敵を騙すには、まず味方から。
全てを見通した、ミヤビの完璧な作戦だったのだ。
「ミヤビさん、それならそれで、僕たちに教えてくれたってよかったじゃないですか」
「バカだな、お前」
レオの言葉に反応したのは、ライロウだった。
「その事を知ったら、宝玉を取られた時にあんな悔しそうなリアクションは出来ねえだろ。俺たちが全く悔しそうな素振りを見せなければ、奴らにこの作戦がばれてしまう可能性もあったからな」
「そういうことだ。アヤメにコタロウ、そしてレオ、アスカ。よくやってくれた」
滅多に表情を変えないミヤビが珍しく、満足そうに笑う。
「さて、ライロウ。この宝玉はお前たち『ブロック』に預ける。我々のこの策も、流石に二度は通用せん。頼んだぞ」
「任せてください。『ブロック』全ての力を捧げ、命を懸けてもお守り致しますぜ」
袋に入れられた三つの宝玉を、ライロウが受け取る。
そして、ミヤビは笑みを浮かべ、
「さて、アヤメにコタロウ。町の者を集めよ。屋敷はこの有様だが、今は気にするな。我らが宝を守り抜いた記念じゃ、今宵は盛大に祝杯を上げようぞ!」
大層嬉しそうに、大声を上げる。
「御意!」
「了解です!」
コタロウとアスカも笑みを浮かべてそう返し、一瞬で屋敷の外へと向かって消えた。
「さて、レオにアスカ、ライロウ。お前たちにも勿論参加してもらうぞ」
「勿論ですよ!」
「ミヤビの旦那の申し出、断る理由がありません。喜んで参加させていただきやす」
この時、誰も気が付くものはいなかった。
アスカだけが、俯き、静かに涙を浮かべていたことに。



「そう言えば、どうしてライロウさんはこの町の存在を知ってるんですか?」
祝杯の席で、偶然隣になったライロウにレオが尋ねる。
「ミヤビの旦那は、俺の命の恩人なんだ。その昔俺は見た目の通り暴力団の一員だったが、故意では無いものの、団を裏切る行為をしてしまった。俺はこの森の中に逃げ込んだが、次第に追い詰められていった。そんな時に、アヤメちゃんが俺を見つけ、ここに連れて来てくれた。ミヤビの旦那は、俺のことを匿ってくれた。それ以来、俺は暴力団から完全に足を洗い、努力の末に『ブロック』に加入したんだ」
「そうだったんですか……随分と大変な人生なんですね」
「まあな。だけど俺は、昔の自分のおかげで今の俺があると思ってる。俺が今でもこんな姿をしてるのは、昔の俺を忘れないためさ」
そんなことより、とライロウは続け、
「せっかくの席だ。お前も一杯飲むか?」
「え!? あ、いや、僕はまだ未成年なんで……」
「ガハハハハ! 冗談だよ、冗談! ほれ、お前はコーラでも飲みな!」
たじろぐレオを見て、ライロウは大笑いする。
「ライロウさーん、あんまり虐めないであげてくださいよー。レオ君はこういうのに全く慣れてないみたいですし」
少し離れた席からアヤメが口を挟む。
「ガハハハハ! 分かってるよ。アヤメちゃんは一杯どうだ?」
「ふふふ、私も遠慮させていただきます。ま、未成年なのに隣でガンガン飲んでる人もいますけど」
レオがアヤメの横を見ると、コタロウが顔を真っ赤にして何杯もの酒を飲んでいた。
ははは……とレオが苦笑いしていると、
「……レオ、ちょっと来て」
ふと後ろから、アスカに声をかけられる。
その表情は、酷く暗い。
「どうしたんだよアスカ。そんな調子悪そうに」
「……いいから。ちょっと外に来て」
言われるままに、レオはアスカに連れ出される。



「アスカ、いきなりどうしたんだよ。顔も暗いし、体調でも悪いのか?」
アスカの様子は、見るからに普通ではない。
表情からいつもの明るさは消え失せ、普段の覇気も全く感じられない。
アスカはしばらくじっと黙り込んだままだったが、
「……私は、許せないの」
やがて、ゆっくりと低い声で言葉を絞り出す。
「N・E団相手に、私は何も出来なかった。あれだけ自信満々で挑んだ勝負、あれだけ大口を叩いておいて、いざ相手が本気を出せば何にも出来なかった自分を、私は許せないの」
「元気出せって、アスカ。ミヤビさんの完璧な作戦もあったし、僕たちは結果的に勝てたじゃないか。確かに負けたのが悔しいのは分かるけど、お前はそんなことで落ち込む奴じゃなかっただろ」
「……そんな分かったような口を利かないで」
アスカが低く言葉を紡ぐ。
「もしミヤビさんの策がなかったら、あの宝石はあっさりと奪われていたわ。私があいつの実力を見誤って、考えなしで自分勝手にバトルを吹っ掛けたせいで。もしそうなっていたら、私はミヤビさんにどう顔向けしたらいいのよ。どう責任を取ればいいのよ!」
涙を流し、アスカは叫ぶ。
こんなに激しく取り乱すアスカを、レオは初めて見た。
「アスカ……」
「私は、もっと強くなりたいの。守るべきものを守れるようになる力が欲しいの」
頬を滴る涙を拭い、アスカはモンスターボールを取り出す。
彼女のエース、ゴウカザルが入っているモンスターボールを。
「お願い、レオ。私とバトルして。一対一の、エース対決で」