二次創作小説(紙ほか)

Re: 第百三十二話 苦悩 ( No.269 )
日時: 2014/08/24 20:01
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: p3cEqORI)

「頼んだ、ポッチャマ!」
「行きなさい、ゴウカザル!」
レオのポケモンはポッチャマ、アスカのポケモンはゴウカザル。
アスカが言ったとおり、エース同士での対決だ。
「ゴウカザル、マッハパンチ!」
まずはゴウカザルが先手を取る。
地を蹴って跳び出し、拳を構え、一瞬でポッチャマとの距離を詰める。
「ポッチャマ、躱してスプラッシュ!」
対してポッチャマはゴウカザルの拳をジャンプして躱し、水を纏う。
スピードもあるゴウカザルは回避してくるだろう、とレオは考えたが、
「ゴウカザル、来るわよ! もう一度マッハパンチ!」
ゴウカザルは地面に突き刺さった拳を引き抜き、目の前のポッチャマを殴り飛ばそうとする。
しかしこの距離では流石に間に合わない。
水飛沫を飛ばしながらのポッチャマの突撃をまともに受け、ゴウカザルが吹っ飛ばされる。
「ゴウカザル、立ちなさい! ストーンエッジ!」
吹っ飛ばされたゴウカザルはすぐに起き上がり、周囲に尖った岩を浮かべ、一斉に撃ち出す。
「ポッチャマ、ドリル嘴!」
ポッチャマが嘴を伸ばし、高速回転する。
岩を躱し、躱し切れない岩は弾き、ゴウカザルへ突撃する。
「ゴウカザル、フレアドライブ!」
対して、ゴウカザルが激しく燃え盛る炎を纏う。
まるで炎の弾丸のように跳び出し、ポッチャマを迎え撃つ。
「まずいな。ポッチャマ、躱して水の波動!」
押し負けると判断し、レオは回避を指示する。
地面を蹴ってポッチャマは上に大きく跳び上がり、ゴウカザルの速攻の一撃を躱すと、振り返って水の力を溜め込んだ波動の弾を撃ち出す。
「ゴウカザル、気合玉!」
ゴウカザルは炎を解き、手に気合を凝縮しつつ振り返るが、フレアドライブの勢いを抑え切れず、少し反応が遅れる。
最大の力で気合玉を撃ち出せず、水の波動と相殺される。
(……何で躱さないんだ? 今のフレアドライブの勢いを見れば、気合玉が間に合わないことくらいアスカならすぐに分かるはずなのに)
「ゴウカザル、マッハパンチ!」
レオが思考を巡らすが、アスカはその暇を与えない。
音速のミサイルのような拳が、次の瞬間には目の前に迫る。
「っ! ポッチャマ、ドリル嘴!」
ポッチャマが拳を弾こうとするが間に合わず、拳の一撃がポッチャマを直撃した。
「攻め続けるわよゴウカザル! フレアドライブ!」
再びゴウカザルが炎を纏う。
ゴウカザルの闘志に呼応するようにその炎が燃え上がり、弾丸のようにポッチャマ目掛けて飛び出す。
「ポッチャマ、ここは迎え撃つぞ! スプラッシュ!」
ポッチャマも水を纏い、水飛沫を飛ばしながら突っ込み、ゴウカザルを迎え撃つ。
威力はゴウカザルに部があるが、技の相性ではポッチャマが勝る。二者が激突し、威力は互角。
「ポッチャマ、水の波動!」
しかしフレアドライブは反動が大きい。その隙を突き、ポッチャマが水の力を凝縮した波動を放つ。
だが、
「ゴウカザル、マッハパンチ!」
ゴウカザルは躱さなかった。
神速の拳を振りかざし、水の波動を何とか食い止める。
(……やっぱりおかしい。アスカにしては、ゴウカザルのスピードを活かしたバトルを全く展開出来て——いや)
ここでレオは違和感の正体に気付いた。
(展開出来ていないんじゃない、展開してないんだ。アスカは、あえてゴウカザルに回避を指示していない。でも何でだ? ゴウカザルのスタイルには、全く似合っていないのに……)
そこまで考えて。
「……まさか」
レオは、アスカの考えている核心を突き止める。
「……気付いたみたいね」
光を無くしたアスカの暗い瞳が、レオを見据える。
「私はもう二度と負けたくない、二度とこんな思いをしたくない。だから、圧倒的な力が欲しいのよ。それを目指すのなら、相手の技を全て潰した上で勝たなきゃいけないの」
「っ……」
アスカの状態を知り、歯噛みするレオ。
正直な話、この状態のアスカなら、レオは勝つことは出来る。
しかしそれでは駄目なのだ。真面目で気が強く、やり始めたことは最後まで貫く性格のアスカだが、今回ばかりはこれが裏目に出てしまっている。
ただ勝つだけではいけない。アスカの心の闇を、どうにかして打ち砕かなければならない。
「ゴウカザル、ストーンエッジ!」
ゴウカザルの周囲に、無数の尖った岩が浮かび上がる。
その無数の岩を、ポッチャマへと一斉に撃ち出す。
「ポッチャマ、冷凍ビーム!」
ポッチャマは冷気の光線を鞭のように振るい、無数の岩を次々と撃墜する。
「マッハパンチ!」
しかしすぐさまゴウカザルが襲い掛かる。
一瞬の隙をついて神速の拳が繰り出され、ポッチャマを殴り飛ばす。
「ゴウカザル、気合玉!」
「ッ、ポッチャマ、ドリル嘴!」
ゴウカザルが気を増幅させ、一点に集中させる。
気合の波動を作り上げ、それを投げ飛ばす。
対してポッチャマは体勢を崩しながらも、嘴を伸ばして逆方向に高速回転し、強引に立て直して気合玉を迎え撃つ。
威力はほぼ互角。気合玉は消滅したが、ドリル嘴も解けてしまう。
「水の波動!」
その後の動きはポッチャマの方が早かった。
ポッチャマが水の力を込めた波動を素早く作り上げ、ゴウカザルへ放つ。
水の波動が直撃し、ゴウカザルが吹っ飛ばされる。
「ゴウカザル、まだよ! 立ちなさい!」
瞳に闘志を燃やし、ゴウカザルはゆっくりと立ち上がる。
しかし、強引な戦法の連続で相当披露しているのだろうか、その足がふらつく。
「ッ、もうやめよう」
今のアスカでは、ゴウカザルに大変な無理をさせかねない。
「もうやめようアスカ! 一旦落ち着け!」
そう叫ぶレオだが、
「そういうことは、私に勝ってから言いなさいよ! ゴウカザル、マッハパンチ!」
立ち上がったゴウカザルが跳ぶ。
一瞬でポッチャマとの距離を詰め、神速の拳を突き出す。
「ポッチャマ、躱してスプラッシュ!」
ゴウカザルの拳を、ポッチャマは大きく首を振ってギリギリで躱し、体に水を纏う。
ゴウカザルが一旦拳を引き、再度狙いを定めるが、先にポッチャマが水飛沫を散らしながら突撃する。
効果抜群の一撃を受け、再びゴウカザルが吹っ飛ばされる。
「……ゴウカザル、まだよ。こんなところで負けてちゃ、到底届きはしないわ」
アスカの言葉に応えようと、ボロボロのゴウカザルが拳を握り締める。
両手を地につけ、ゆっくりと立ち上がろうとする。
だが、ようやく立ち上がったその瞬間、ゴウカザルの体がぐらつく。
ゴウカザルが膝をついてしまう。いくらアスカのエースポケモンといえど、流石に無理をし続け、体力は限界に迫っていた。
「ゴウカザル、どうしたの!? 貴方は、こんなところでやられるようのポケモンじゃないでしょう!?」
再びゴウカザルは立ち上がるが、体が異常にふらついている。
それでも、アスカの期待に応えようと前を向き、ポッチャマを見据える。
「そうよ、貴方の力、見せつけてやるのよ! ゴウカザル、フレア——」

「いい加減にしろ!」

思わず、レオは怒鳴っていた。
レオの突然の大声に、アスカも驚いて言葉を止める。
「確かに負けて悔しいのはよく分かる。アスカの言い分ももっともだ。だけど自分のポケモンのことをもっとよく考えろよ!」
自分でも何故怒鳴ったのか分からなかった。
気がついたら、次々と言葉が飛び出していた。
「アスカ、逆の立場になって考えてみろよ。もし僕が指示される側だとして、こんなに無茶な指示を出されてたらどう思う? やる気なんかなくなるし、従う気も無くすよ。でも、お前のゴウカザルはその無茶な指示に応えて、お前にいいところを見せようと頑張ってたんだよ。それは、お前がゴウカザルに信頼されているからじゃねえのか? 自分勝手な考えでゴウカザルに無理をさせて、申し訳ないとは思わねえのかよ! いい加減に目を覚ませよ!」
「自分勝手……?」
アスカがゆっくりと口を開く。
「そんな分かったような口を利かないでって、さっきも言ったでしょ! あんたに私の何が分かるのよ!」
「お前のことなんか知らねえよ!」
アスカの叫びにも、レオは動じなかった。
「何……ですって……!?」
「お前が負けて悔しいとか、力が欲しいとか、そう思うのは自由だ。僕が言いたいのは、そこに自分のポケモンを自分勝手に巻き込むなってことだよ! 本当にもっと強くなりたいって思ってるんなら、まずは自分のポケモンの事をよく考えろ! それを忘れて強くなるなんて、絶対に出来っこねえぞ!」
あらん限りの大声でレオは怒鳴った。
呼吸が激しいまま、しばしアスカは沈黙し、やがて。
「……言ってくれるじゃないの。そこまで言われると、流石に腹が立つわね」
静かに顔を上げる。
でも、と続け、
「そのおかげで目が覚めたわよ。感謝するわ」
アスカの瞳には、熱く燃えるような光が灯っていた。
「さて、最後の締めくくりよ。勝つにしても負けるにしても、ここで終わったら消化不良だし、最後の一撃だけは付き合ってもらうわよ」
「……おう、望むところだぜ」
そして。
「ゴウカザル、フレアドライブ!」
「ポッチャマ、スプラッシュ!」
ゴウカザルが激しく燃え上がり火花を散らす灼熱の業火を、ポッチャマが水飛沫を散らし荒れ狂う大波のような水を纏う。
両者が同時に飛び出す。最大火力で、正面から激突した。
大爆発を起こし、砂煙が巻き上がる。
やがて煙が晴れると、膝をつきながらもポッチャマが立っていた。
そのすぐ前で、全ての力を出し切ったゴウカザルが、戦闘不能となって倒れていた。



「レオ、本当にありがとう。おかげで吹っ切れたわ。後で回復させてあげたら、ゴウカザルにも謝らないとね」
「分かればいいんだよ。アスカは強い。ゴウカザルたちとちゃんと向き合って特訓していけば、もっと強くなれるさ」
「ふふ、あんたに負けるのは、これで最後だからね」
ニヤリと笑うアスカは、完全に立ち直っていた。
「さ、宴会に戻るわよ。さっきまで私は全然楽しめてなかったし」
「そうだな。ミヤビさんたちも心配してるかもしれないし」
晴れやかな顔で、幼馴染二人は宴会の席へ戻る。



勝利の宴会は、日の出まで夜通し続いた。