二次創作小説(紙ほか)

Re: 第百五十二話 名 ( No.296 )
日時: 2015/03/04 13:32
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)

「カビゴン、スプラッシュ!」
「ミロカロス、躱してハイドロポンプ」
カビゴンが水を纏った右腕を振り下ろし、対するミロカロスは長い体を大きく動かしてカビゴンの拳を躱し、大量の水を噴き出す。
「どうってことないわよねえ! カビゴン、ぶち壊す!」
腹に水の直撃を受けるが、気にせずカビゴンは左腕を振り回し、ミロカロスへ叩きつける。
カビゴンの鉄拳を食らい、ミロカロスは吹き飛ばされる。
「今よお! カビゴン、ギガスパーク!」
カビゴンが両手を構え、巨大な電撃の砲弾を作り上げる。
「させません。ミロカロス、ダイヤブラスト」
鱗を輝かせて青白い光を放つと共に、ミロカロスは周囲に爆風を起こし、砲弾をどうにか防ぐ。
「ガンガン行くわよお! カビゴン、ぶち壊す!」
「ミロカロス、ドラゴンテールです」
カビゴンが右腕を振り下ろし、対するミロカロスは輝く尻尾を大振りする。
お互いの打撃がせめぎ合うが、カビゴンの拳が勝り、ミロカロスが押し戻される。
「カビゴン、スプラッシュ!」
「今です。ミロカロス、冷凍ビーム」
右腕に水を纏うカビゴンだが、その腕にミロカロスが冷気の光線を放つ。
一筋の光線は、瞬く間にカビゴンの腕を凍結させていく。
「特性が厚い脂肪であろうと、水技を利用して封じれば問題ありませんね。さあ、どうします?」
「一択よお! カビゴン、ぶち壊す!」
自らの左手を凍った右腕に叩きつけ、カビゴンは強引に氷を砕くが、
「そう来ると思っていましたよ。ミロカロス、ドラゴンテール」
その隙を狙い、ミロカロスが青く輝く尻尾を横薙ぎに振るう。
尻尾を叩きつけられ、カビゴンは大きく吹き飛ばされる。
「ハイドロポンプです」
さらにミロカロスは大量の水をカビゴンの顔面に撃ち込む。
しかし、
「それくらいでやられると思ったのかしらあ? カビゴン、ぶち壊す!」
水を真っ向から突き破り、渾身の拳がミロカロスを捉えた。
顔面に拳の一撃を受け、ミロカロスが大きく仰け反る。
「カビゴン、ギガインパクト!」
床を力一杯蹴り、カビゴンは飛び上がる。
圧倒的なエネルギーを放つオーラをその身に纏い、そのまま落下し、ミロカロスを潰さんと迫る。
「これは……ミロカロス、ドラゴンテールです」
ミロカロスに躱す余裕はなかった。
青く輝く尻尾を思い切り振り上げ、威力を削いだものの、ギガインパクトを相殺するには及ぶはずもなく、ミロカロスは圧倒的なオーラの前に押し潰される。
「あらあ? よく耐えたわねえ」
ドラゴンテールのおかげか、どうにかミロカロスは耐え切った。
しかし、バトルはもう出来そうもない。既に体が疲労で震えており、立っているのが精一杯の様子。もう一撃受ければ、確実に倒れてしまうだろう。
「……万事休すですかね。勝負を諦めるのは私の性に合いませんが……ん」
ピピピッ……と。
ブレイズの執事服の中から、短い電子音が響く。
「……蒼天将様でしたか。こちらブレイズです。ただ今、侵入者と戦闘中ですが……」
黒い小さな機械を取り出し、誰かと話すブレイズ。
通話の向こうの誰かの声を聞いている途中で、ブレイズの表情が僅かに変わる。
「承知いたしました。直ちに向かいます。失礼します」
通話を切り、機械を執事服に仕舞うと、ブレイズはサクラの方に向き直る。
「失礼、急用が出来ました。貴女との戦闘は、ここで終わりです」
「あらあ? あたしと戦うのがガーネットちゃんの命令なんでしょお? いいのかしらあ?」
「命令にも優先度があります。ガーネット様の命令遵守も大切ですが、今回の指令はそれを上回るほどの重要な指令です。ミロカロス、最後に一つお願いします。ドラゴンテールを」
ミロカロスが最後の力を振り絞って、尻尾を床に叩きつける。
部屋の床が陥落し、大穴が開く。
「ミロカロス、お疲れ様です。戻って休んでいてください。ああ、それから」
最後にブレイズはサクラに言葉を残す。
「この戦闘は貴女の勝ちで構いません。いつか必ずこの借りは返させていただきます。それでは、これにて」
ミロカロスをボールに戻し、ブレイズはその穴に飛び込み、アジトのどこかへと消えていった。



気合玉を顔面に受けたプラネムは、戦闘不能となってゆっくりと床に落ちる。
「プラネム、お疲れ様。休んでなさい」
プラネムを戻し、最後のボールを取り出そうとするラピスに、
「なあ」
マゼンタが声を掛ける。
「……何よ」
敵との会話など求めていなかったのだろう、如何にも面倒そうな声と共に、ラピスはマゼンタの方を向く。
「あんた、何でN・E団なんかに加わったん」
「っ……貴女なんかに関係ないでしょ 」
ラピスが小さく舌打ちする。
そんなラピスの様子を見て、マゼンタは話を続ける。
「それが、関係あるんよ。うちも本当はN・E団なんてけったいな組織なんてどうでもよかったけど、直接頼まれたら断れへんよ」
「頼まれた? 誰に、何を」
「あんたの、お姉さんに」
ラピスの表情が僅かに引きつり、目が細くなる。

「あんたのお姉さん、シズカさんに、妹のマイカを助けてほしいって」

「ッ……」
ほとんど無表情を貫いていたラピスが、明確な嫌悪を表情に浮かべる。
「マイカって、あんたのことよね。お姉さんから全部聞いたで。シズカさん、すごい後悔しとった。妹の気持ちを、分かってあげられなかったって言っとったよ」
「……黙って」
「昔シズカさんとあんたに何があったんか、うちは知らへん。せやけど、そこまであんたのことを思ってくれとる人がおるんに、何で——」

「黙れって言ってるだろうが」

ラピスの口から、信じられないほど低く重い声が飛び出した。
「あたしの過去なんて知らないくせに、よく好き勝手喋ってくれたわね。あたしに家族などいない。あたしに姉なんていない」
明確な怒りを込め、ラピスは感情のままに言葉を紡ぐ。
「あたしを、その名で呼ぶな。シズカの妹マイカは、ずっと前に死んだ。あたしの名前は、夜天のラピス。N・E団七天将の一人、夜天を司る者。二度と間違えるな」
そこでマゼンタは気づく。
ラピスの冷たい瞳から、燃え盛る炎のように膨大な量の紫の光が放たれている。
いや、瞳だけではない。口から吐息のように光が放たれ、さらに覚醒で生まれた腕の傷からも光が漏れ出す。
「苦しみを受けて地に伏せなさい。夜天の闇に蠢け、ネクロシア!」
ラピスの最後のボールから、切り札ネクロシアが現れる。
紅に充血した無数の目を動かし、マゼンタに恐怖を植え付ける。
「ネクロシア、シャドークロー!」
ネクロシアの両手が黒い影を纏う。
黒い鋭爪を形作り、音もなく一瞬のうちにフローリアとの距離を詰める。
「っ! フローリア、アイスバーン!」
咄嗟にフローリアは氷の衝撃波を放つが、ネクロシアは右手の爪を突き刺して衝撃波を打ち消し、左手の爪を振り抜いてフローリアを切り裂く。
「ギガスパーク!」
さらにネクロシアは両手から破裂音を立てる巨大な電撃の砲弾を放つ。
「フローリア、躱してハイドロポンプ!」
電撃の砲弾を何とか躱し、フローリアは大量の水を放つ。
「ネクロシア、スプラッシュ!」
下半身の鎌に水を纏わせ、ネクロシアは水の中に切り込む。
ハイドロポンプを容易く両断し、水の鎌を振るってフローリアを切り裂く。
「興醒めだわ。もうちょっと頑張ってくれると思ってたけど、その程度であたしに、N・E団になんて勝てるはずもない」
ラピスが失望したような、蔑むような目でマゼンタを見下ろす。
「ネクロシア、もういいわ。止めを刺しなさい。ギガ——」
刹那。
機械が電源を切られたように、ラピスの動きが止まる。
瞳や傷口からの光が消滅し、ラピスは眠ったように動かなくなる。
ラピスの異変を感じたネクロシアも攻撃を止め、ラピスの元に戻る。
「……どう、したん?」
「私ですよ」
いつの間にいたのか、ラピスの背後から現れたのは、赤髪に執事服の男。
この男が、ラピスを気絶させたようだ。
「お初にお目にかかります、緋天将直属護衛、ブレイズと申します。」
「緋天将? 夜天将の護衛やあらへんの?」
「今動けるのは私だけでしたので、確実に動ける私が伺った次第です。この夜天将様は、感情が高ぶると覚醒の箍が外れ、力が暴走し、制御出来なくなってしまうのです。そのまま放っておけば、人格の破綻にも繋がりかねない」
ですから、とブレイズは続け、
「万が一力が暴走すれば、今のように外部から強引に覚醒を止めなければならないのです。よかったですね、一命を取り留められて。このまま戦い続けていれば、貴女、確実に死んでいましたよ」
ブレイズは気絶したラピスを抱え、その懐からボールを取り出し、ネクロシアを戻す。
「最後に」
マゼンタに向き直り、ブレイズは話を続ける。
「昔この方に何があったか、直属護衛程度の私には知る由もありませんが、この方の前で昔話はしない方がいいですよ。命を大切にしたいのなであればね。それでは、さようなら」
最後に一礼し、ブレイズは部屋を出て行った。
「……」
ブレイズが去った後も、マゼンタはしばらく動けなかった。
(シズカの妹マイカは、ずっと前に死んだ。あたしの名前は、夜天将ラピス。N・E団七天将の一人、夜天を司る者。二度と間違えるな)
ラピスの言葉が、マゼンタの脳の中で渦巻く。
何も考えられず、マゼンタは座る者がいなくなった車椅子を見つめていた。