二次創作小説(紙ほか)
- Re: 第百五十四話 覚悟 ( No.298 )
- 日時: 2015/03/20 15:39
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: qUgMea5w)
「……及ばなかったか。ふっ、直属護衛がこれでは、部下に顔向け出来ないな」
そう言って立ち上がるロフトの背後には、鋏を構えたグライオンがいる。
「ここの最下層まで案内してもらいましょうか。捕まってもらうのはその後です」
「……っ。セドニー様、ソライト様、申し訳ございません」
反抗することを諦め、ロフトはゆっくりと歩き出し、エフィシがその後に続く。
「だが、これで我々に勝ったと思うなよ」
ロフトが小さく振り向き、口を開く。
「貴様らの突入が分かった時点で、ソライト様からトパズ様に連絡が入っている。トパズ様自身は動けないが、誰か一人が敗れた時点で直属護衛マツリとその部下総員が圧倒的な統率力でここに突入する」
ロフトが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「敗れた者の場所を正確に把握し、勝負を終えて油断しきった者を背後から叩く。副統率のところには行くなとの指示が出ているらしいがな。そして残った副統率は、天将様と我らのリーダーが叩き潰す。私たちの勝ちだ」
「なるほど、確かに完璧な作戦だ。ですが、我らが副統率はそれくらいのこと、お見通しだったみたいですよ」
ロフトの言葉を聞いても、エフィシの態度は揺るがない。
「貴女の言葉が真実であれば、今頃うちの優秀な兵士が仕事をしているところでしょう」
「はーい、そン通りだなや、っと」
木の枝上に腰掛けながら、厚着のカンタロウは手の中でモンスターボールを弄んでいた。
彼の座る木の下には、無数の黒服の人間が気を失って山積みになっていた。
その下敷きになって動けないまま、マツリは木の上のカンタロウを見上げる。
「……そんな馬鹿な。下っ端たちとはいえこれだけの数を、ここまで短時間で蹴散らすなんて……!」
「あぁ、バトるのも面倒だったンで、人間の方さ直接やっツまっただ。後はそれさ積み上げて、最後に来たお前さ下敷きにしちまえば、オラが任務は終了だべ」
カンタロウがやったことは簡単なことだ。
手持ちポケモンを総動員して、下っ端がポケモンを出す前にその下っ端に木の上から奇襲、直接攻撃を加えて気絶させ、コクジャクとオオペラーの念力を使って気絶させた下っ端の山をマツリの上に落とす。
ついでにマツリの持っていた無線機も回収。
「お前、オラの記憶さ正しけりゃ、輝天将の直属護衛だったべな。わざわざお前らが送られてきたッつーことは、輝天将はいねェって考えてええって事だなや。これで少しは気が楽になるってモンだべ」
つーわけで、とカンタロウは続け、
「全部終わったって報告さ受けたら解放してやッから、もー少し大人しくしてるだ。分かっただな?」
ニヤリと笑みを浮かべ、カンタロウは戦闘不能となった輝天将軍を見下ろす。
「破天を食らえ、ティラノス!」
薄暗いアジトの通路に、メジストの切り札、ティラノスが降臨する。
軽く尻尾を一振りしただけで壁を破壊し、その咆哮が壁の破片を粉々に砕く。
「それがお前の切り札か。見た感じだと、難敵だな」
「ギャヒャヒャヒャ! その難敵にお前はどう立ち向かうよ? 頼むからさぁ、何も出来ずに倒れるなんてことはやめてくれよぉ?」
「ふふ、勿論だ。存分に戦おうじゃないか」
「いいねぇ! それじゃあ行くぜ、ティラノス、グランボールダ!」
ティラノスが大きく足を踏み鳴らす。
周囲の壁が破壊されて無数の岩が飛び出し、一斉にヒョウカクに襲い掛かる。
「ヒョウカク、守る!」
対するヒョウカクは守りの結界を張り、襲い来る岩を完全に防御すると、
「ドリルライナー!」
額の角を伸ばして高速回転し、ティラノスに突っ込む。
「ティラノス、ぶち壊す!」
咆哮し、ティラノスは全力を込めて尻尾を振るう。
だがヒョウカクは僅かに軌道を逸らしてその尻尾を躱し、角をティラノスへ突き刺す。
「ヒョウカク、吹雪!」
さらにヒョウカクは寒く凍える吹雪を放ち、ティラノスを押し戻す。
「舐めんな! ティラノス、フレアドライブ!」
ティラノスが青く燃え盛る炎を纏う。
吹き荒れる吹雪を吹き飛ばし、その炎の勢いをさらに強めて突進する。
「ヒョウカク、ハイドロポンプ!」
対するヒョウカクは大量の水を吹き出す。
勢いも水の量も一線級、しかしそれだけの力を持ってしてもティラノスの炎を打ち消すことは出来ず、ヒョウカクは吹き飛ばされる。
「無駄無駄ァ! そんなんじゃ止めらんねえぞ! ティラノス、馬鹿力!」
さらにティラノスは猛攻を仕掛ける。
力のリミッターを無視し、渾身の力でヒョウカクへ激突する。
「そうはいかない。ヒョウカク、守る!」
再びヒョウカクは守りの結界を張り、ティラノスの全力の一撃を防御する。
「チッ! ティラノス、グランボールダ!」
「ヒョウカク、ドリルライナー!」
ティラノスが再び大量の岩をヒョウカクに向かわせるが、ヒョウカクは持ち前のスピードで岩を躱し、避けきれない岩は角で破壊し、ドリルのように高速回転しながら一気にティラノスに迫る。
「ティラノス、ぶち壊す!」
ティラノスは再び尻尾を思い切り振るう。
先ほどと同じようにヒョウカクは軌道を僅かにずらすが、今度はティラノスの動きもそこで終わらない。
裏拳のように拳を振り抜き、ヒョウカクのドリルライナーと激突。
しかし攻撃面では圧倒的にティラノスが勝る。
ヒョウカクが押し負け、吹き飛ばされる。
「流石に攻撃力は凄まじいな。体も硬い。パワータイプとしては今まで見てきた中でトップクラスだ」
「くっくく、そりゃあありがてえ。何しろこいつは——」
「だが」
メジストの言葉を遮り、セイラは続ける。
「スピードとテクニックはこちらの方が上だ。お前のティラノスのパワーを上回るほどの速さと技術を、私のヒョウカクは備えている」
「へえ」
メジストの表情は変わらない。
相変わらず、邪悪な笑みを浮かべたままだ。
「だけどよぉ、俺様はそういう連中を何人も見てきたぜ? そういう連中の殆どは、決まって俺様の前にひれ伏してきた」
(まぁ、ほんの少しだけ例外もあるんだが)
ヨザクラタウンのジムリーダーの顔を僅かに思い浮かべるメジスト。
「ちなみに俺様の切り札は、第三位の切り札より強い。まあ第三位の情報が分かんなきゃ、言ってることも分からんだろうけど」
「なあ。お前、どれくらいの覚悟で戦ってる?」
唐突に、セイラが質問する。
「あぁ?」
「覚悟を決めた人間は強い。だからヒーローってのは強いんだろうな。俺が負けたら、この子は二度と笑うことが出来なくなる。俺が負けたら、世界が終わってしまう。そんな覚悟を持ってるから、ヒーローってのは強いんだろうな」
「へえ、なるほど。それじゃあ逆に聞くがよお、肝心のお前はどうなんだ? これに負けたらただではいられない、それくらいの覚悟は出来てるんだよなあ?」
「ふふ、私か。そうだな」
セイラは目を閉じる。
記憶が、風のように脳裏を突き抜ける。
「命を投げ捨てる覚悟くらい、私はとうに出来てるよ」
「……」
メジストの表情が、明確に変化する。
「前にも言ったが、私は元々お前たちのような組織の出身だ。それが潰れた時点で、私は死んだも同然だ。だが、私はこうして闇の外へ戻って来た。勿論精一杯生き抜くつもりだが、一度失くしたはずのこの命を捨てる覚悟くらい、私は一年前からとうに出来ている」
そこだけは真剣に、セイラは告げる。
「だから、私は負けない。私をこの光の世界に戻してくれたあいつのためにも、私は負けられないんだよ」
「……くっだらねえ」
セイラの話を黙って聞いた上でなお、メジストは吐き捨てるように呟く。
「覚悟くらい、俺でも出来てるっつうの。腕を傷つけ、自身の顔に紋章を刻み込んでまで破天将という位に立ってる理由は分かるか。俺様にもなぁ、それくらいの覚悟はあんだよ。勝負を決めるのは覚悟じゃねえ、勝ちに食らいつく執念だ。そのためなら俺様は何でもやるぜ。敵の戦意と意識を奪い、足元にひれ伏させることくらい平気でやる。勝つためだ」
語るメジストの表情に、笑みはない。
「すまないな、少々無駄話が過ぎた。バトルを再開しようか。ヒョウカク、ドリルライナー!」
「ケッ、俺としたことが、馬鹿みてえに語っちまったよ。ティラノス、ぶち壊す!」
ヒョウカクが角を伸ばしてドリルのように高速回転し、突貫する。
対するティラノスは渾身の力を込め、太い尻尾を思い切り振り抜く。
覚悟と執念が、正面から激突する。