二次創作小説(紙ほか)

Re: 第百六十一話 師匠 ( No.306 )
日時: 2015/05/13 10:38
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: /48JlrDe)

リョーマの口から発せられた名前、リュードウ。
少なくとも、レオが聞いたことのない名前だ。
「リュードウ……どんな人なんです?」
「私知ってますよ。テンモンシティのジムリーダーですよね。前にジム戦を挑みましたけど、とても強かった」
アスカが声を上げる。
確かに、以前アスカはテンモンのジムリーダーと戦ったと言っていた。
「そう。元々リュードウ先生は、七年前にこの『ブロック』を創り上げた人。テラキオンって名前の伝説のポケモンを引き連れ、創始するための資産とか、人材とか、そういうの全てをたった一人で集めた、凄い人だぜ。かく言う俺も、昔やさぐれてた頃に先生に助けられてここに入ったんだ。言うなれば俺の師匠みたいな人だ」
「特にリョーマとか私は問題児だったから、今でも先生には頭が上がらないのよねえ」
飛行機を手配してきたサクラが戻って来る。
「そんな凄い人なのに、何で辞めちゃったんですか?」
「ああ、半年ほど前に犯罪グループ時代のメジストが率いてた組織を潰し、その時に奴の能力で多くの構成員が倒れてしまった話はちらっとしたよな? それで自ら責任を取ってテラキオンを手放し、総統率を辞任し、今の統率と俺に『ブロック』を譲ったってわけだ。テレジアが入ったのは、そのすぐ後だったかな」
「あの時は皆寂しがってましたねぇ。特にライロウさんなんか大泣きでしたからね。だから先生はテンモンのジムリーダーになったって、一時期噂になりましたよ」
エフィシが懐かしそうに語る。
「で、どれくらいの人数で行くかだが……正直、ここの全員で行きたくはねえな。アジトを潰す目的でかなっちの戦力をかなり動員したから、これ以上各街の支部を空けるのもまずい」
「そうですわね。ではリョーマさん、私はこのアカノハに残りますわ」
リョーマの言葉を受け、まずテレジアが声を上げる。
「っし。あぁ、一応マゼンタもアカノハに残ってテレジアのサポートを頼む。まあ仕事はほとんどないと思うが、念のためな」
「ん、ええよ。ちょっと疲れたし、寒いし、ゆっくりしたかっんでちょうどええわあ」
「で、サクラかエフィシだが……うん、サクラ、飛行機はこっちの操縦班に任せるから、シヌマに帰って溜まってる自分の仕事をやれ」
「ちょっとお、またあ? たった一日しか空けてなかったし、そんなに溜まって——」
「うるせえ。カンタロウ、すまんがサクラの見張りを頼む。こいつが仕事を終えるまで部屋から一歩も出さないようにな」
「了解だべ。正直今回は戦い足ンねェだが、こっちはオラに任せるだ。で、空いとるスティラはどうするべ?」
「そうだな……エフィシはこっちに来てほしいから……いや、どうせシヌマの隣だ。何かあったらカンタロウとサクラで向かってくれ」
で、とリョーマは残った面子に向き直り、
「残ったレオとアスカ、セイラ、ホロ。お前たちは俺とエフィシと一緒にテンモンに行くぞ。向こうでライロウと合流し、リュードウ先生に会いにいく。善は急げだ、ちょっと休憩したらすぐ出発するぜ」



「……マターか」
テンモンへ向かう飛行機の中で、セイラが呟く。
「なあ、セイラ。お前は、マターについて、イビルについてどこまで知ってたんだ?」
「正直なところ、私のみならず、七将軍全員、イビルについてはほぼ知らなかった。特に元々親を亡くして貧乏な生活をしていた私やメイサ、元々悪党だったのを買われたカペラやクルサ、そもそも戦うことだけを求めて入団したリゲル。全員がマターの見せる幻想に惹かれていたんだよ。この腐った世界を、報われなかった自分たちの世界を変えるという、大掛かりで空っぽな幻想にな」
少し悲しげに、しかしどこか懐かしそうにセイラは語る。
「だから、私たちは何も知らなかった。まさかマターの操り人形だったなんて、当時は全く予想していなかった。今こっちの計画がメインだったと考えれば、操り人形なんてレベルじゃなかったがな。まさか、ただの捨て駒だったとはな」
「……今になって考えると、イビル七将軍にも被害者はいたんだよな」
「ふふ、今更何を言っている。貴様の行動は、間違ってなかったよ」
しかし、とセイラは続け、
「ウチセトでの計画の破綻から、マターも学んだらしいな。私たち七将軍は捨て駒だったが、マターは今の七天将をまともな戦力と見ている様子が伺える。少なくとも、私たちのような捨て駒では無さそうだ。マターが奴らに魅せるものが幻想か真実かは分からないが、元部下の私から見れば、奴の部下を扱う力は伸びているぞ」
「幻想とか真実とか、そんなものは関係ねえよ」
セイラの話を聞いた上で、レオが口を開く。
「理由はどうあれ、あいつがやっていることは間違ってる、それだけは間違いないんだ。だったら僕たちのやることは、一つしかない」
「ふふ、それでこそ貴様らしい。テンモンではまたトパズが来るぞ、覚悟は出来てるな?」
「勿論さ」
一行を乗せた飛行機は、間も無くテンモンシティへと到着する。



ホクリク地方最後の街、テンモンシティ。
コウホクシティと並ぶホクリク最大の街で、特に商店街はいつでも人で賑わう。
街の入り口には、天を貫くほど巨大な古い門が建てられており、街の中央にそびえ立つ龍を模したような城が、ジムとなっている。
『ブロック』のテンモン支部は、街で一番高いビル。
そのビルの屋上、ヘリポートに、レオたちが乗る飛行機が着陸する。
「やっと来たな。待ってたぜ」
飛行機から降りた一行を、テンモン支部統括、黒づくめの男ライロウが迎え、リョーマが一歩進み出る。
「用は先ほど送った通りだ。先生はもう来てるか」
「ああ、部屋で待ってもらってるよ」
それと、とライロウは続け、
「ついさっき、輝天将から宣戦布告の旨が届いた。三日後の午後三時、宝玉を奪いに来るってよ」
どうやら、ネオイビル側も既に動き出しているようだ。
「そうか。あまり時間もねえってことだな。っし、すぐに先生に話を聞くか」
「先生は会議室で待ってもらってる。こっちだ」
ライロウに案内され、一行はリュードウの待つ部屋へと向かう。


「リュードウ先生。リョーマたちが到着しました」
ライロウがそう伝え、リョーマたちも部屋の中へ入る。
部屋の向こう側に座っているのは、一人の男だ。
黒い髪を立たせ、瞳も黒く、荘厳な顔つき。年は40歳前後だろうか。
スーツの上からでも分かるような筋肉質の頑強な体つきといい、ミヤビとはまた違った強烈な威圧感を感じる。
胸には、リョーマたちと同じ『ブロック』の紋章がある。
「久しぶりだな、リョーマ」
その男が口を開く。力のこもった低い声だが、口調自体は柔らかい。
「お、お久しぶりです、リュードウ先生。相変わらず、変わりませんね」
「ふっ、一時的とはいえ私が再び『ブロック』としてお前たちと活動出来るとは、嬉しいことだ。本来ならリョーマ、お前とも久しぶりに一戦交えたいところだが、流石にそうも言ってられない事態だからな」
どうやら、この男性がリュードウらしい。
リョーマたちにとりあえず座れと促し、全員を座らせると、リュードウは再び口を開く。
「ライロウから聞いているな。N・E団……いや、ネオイビルか。奴らは三日後の午後三時、この街に侵攻してくる。リョーマ、三日で準備は整えられるな」
「もちろんっすよ。三日も要りません、一日で迎撃の準備を整えて、あとの時間はポケモンの調整に使います」
「威勢の良さは相変わらずだな。だが焦りすぎるな、視野を広く持て。一番優先すべきは、宝玉を守ることではない。この戦いと無関係な街の者たちを、巻き込まないようにすることだ。戦力の調整は、その後だ」
「……その通りっすね。奴らは支部を直接狙ってくるでしょうし、当日はポケモンセンターとジムに全員避難させます」
「そうだな、それがいいだろう。お前は状況判断力は高く人をまとめる能力もあるが、周りを見ないで一人で突っ走ることがあるのが玉に瑕だ」
「うへぇ、以後気をつけます」
リョーマが苦笑いして頭を掻く。
リュードウは小さく笑い、
「今日明日の準備は、リョーマとエフィシ、ライロウに任せる。私も最近バトルはしていなかったし、何よりここにいる全員の戦力も知っておきたい。時間はある。それに折角この街に来たのだ、トレーナーとして、ジムバッジに興味がないとは言わないだろう」
そう言って、レオたちの方を向く。
「君たち四人は、この後順番にジムへ来い。この後今日一人、明日三人だ。なあに、これくらいの連戦ごとき大したことはない。戦力の確認も兼ねて、私とジム戦でもしようではないか」