二次創作小説(紙ほか)
- Re: 第百六十七話 踏破 ( No.314 )
- 日時: 2015/07/17 15:22
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: 9PsmRrQE)
「ドラドーン、ハイドロポンプ!」
「エンペルト、ハイドロポンプ!」
動いたのは両者同時だった。
ドラドーンが上空から、エンペルトが地上から、激流の如き大量の水を噴き出す。
双方の力はほぼ互角。両者一歩も引かず、やがて相殺される。
「ドラドーン、ダイヤブラスト!」
ドラドーンの周囲に青白い光が迸り、爆発を起こす。
「エンペルト、ドリル嘴!」
対して、エンペルトが嘴を伸ばし、ドリルのように高速回転する。
そのまま地面を蹴って飛び出し、青白く煌めく爆風の中を突っ切り、ミサイルのようにドラドーンへ突貫する。
「そのまま冷凍ビーム!」
ドリル嘴を命中させると、素早くエンペルトは距離を取って床に着地し、凍える冷気の光線を放つ。
「ドラドーン、躱して電磁砲!」
巨体に似合わぬ素早い動きでドラドーンは冷気の光線を躱すと、両手の宝玉から電気を発生、凝縮させ、巨大な雷球のような弾を作り出し、エンペルト目掛けて落とす。
「あれは食らうとやばそうだな……エンペルト、躱してもう一度冷凍ビーム!」
雷球を躱し、再び冷凍ビームを放とうとするエンペルト。
しかし。
電磁砲が着弾した直後、フィールド全体へ電撃の衝撃波が迸る。
「なに……ッ! まずいっ、エンペルト!」
慌てて回避を指示しようとするレオだが、既に遅い。
電撃の衝撃波が、既にエンペルトを捉えている。電磁砲の直撃を受けたわけではないので麻痺状態にはなっていないが、それでも効果は抜群、ダメージは相当なものだろう。
「ドラドーン、ハイドロポンプ!」
間髪入れずに、上空からドラドーンが滝のような大量の水を噴射する。
電撃を食らったエンペルトは痺れで動けず、水柱の直撃を受けてしまう。
「くそっ、あの電磁砲は想定外だったな……。攻撃範囲、広すぎるだろ……」
しかし、それくらいでやられるエンペルトではない。体勢を立て直し、再び上空のドラドーンを見上げる。
「……そうだよな、これくらいじゃ負けない! エンペルト、ドリル嘴!」
嘴を伸ばして高速回転し、エンペルトがミサイルのように飛び出す。
「撃墜しろ。ドラドーン、ハイドロポンプ!」
ドラドーンが滝の如き水柱を鞭のように振るう。
それでも、その巨大な水の鞭の猛攻を潜り抜け、ドリル嘴がドラドーンに命中する。
「ダイヤブラスト!」
「躱して冷凍ビーム!」
ドラドーンが青白く煌めく爆発を起こし、纏めて周囲を薙ぎ払うが、エンペルトは既に床に着地しており、爆風は届かず、さらにエンペルトは凍える冷気の光線を撃ち出す。
「ドラドーン、電磁砲!」
ドラドーンの両手が再び電気を帯び、巨大な雷球を放つ。
雷球は冷凍ビームを打ち消し、エンペルトへと迫り来るが、
「弾き返せ! エンペルト、ジオインパクト!」
光り輝く銀色のオーラを翼に纏い、その翼を思い切り振るい、エンペルトは雷球を打ち返す。
技を放ったはずのドラドーンに雷球が直撃し、体全体に電撃が迸り、ドラドーンを麻痺させる。
「電磁砲は直撃すれば必ず麻痺状態にさせる技……なるほど、その性質を逆手に取ったか」
「ええ。麻痺させてしまえば、動きが鈍くなる。冷凍ビームも少しは当てやすくなりますよ」
「甘いな。たかが麻痺くらいでは、私のドラドーンは止められんぞ。ドラドーン、もう一度電磁砲! 二発同時だ!」
ドラドーンの手の宝玉に再び電気が凝縮されていく。
今度は片手ずつ一発、二発の雷球が撃ち落とされ、片方がエンペルトへと迫る。
「こっちを弾けばもう片方の衝撃波の餌食か……エンペルト、ドリル嘴!」
エンペルトは嘴を伸ばし、ドリルのように高速回転しながら飛び出す。
雷球を躱しつつ、一気にドラドーンとの距離を詰めるが、
「そう来ると思っていたぞ。ドラドーン、ダイヤブラスト!」
ドラドーンの周囲に煌めきが迸る。
直後、青白い爆発が起こり、爆発を受けたエンペルトを吹き飛ばす。
「爆風なら突破出来たとして、流石に爆発の直撃までは突破出来まい! ドラドーン、電磁砲!」
ドラドーンの両手の宝玉が光を放つ。
「まっ……ずい! エンペルト、ジオインパクト!」
どうにか上手く着地したエンペルトだが、青白い火花を散らす雷球が迫り来る。
エンペルトは両翼に銀色の光を纏わせ、地面に叩きつけて衝撃波を撃ち出し、何とか雷球を破壊する。
「ドラドーン、ハイドロポンプ!」
しかし休む暇を与えずドラドーンの追撃が来る。
エンペルトの真上からから滝のような水流が襲いかかり、エンペルトを押し戻す。
「ダイヤブラスト!」
攻撃の手を緩めないドラドーンがさらに追撃を掛けようとするが、先ほどの電磁砲の麻痺によって体に痺れが走り、ダイヤブラストは発動せず、その間にエンペルトは体勢を立て直す。
「よっし、どうにか立て直した。ここから仕切り直しだ。エンペルト、冷凍ビーム!」
ドラドーンを見上げ、エンペルトが凍える冷気の光線を撃ち出す。
「打ち消せ。ドラドーン、ダイヤブラスト!」
対するドラドーンは周囲に青白い爆発を起こし、爆風を放って冷気の光線を打ち消すが、
「ドリル嘴!」
その爆風に向かって、高速回転しながらミサイルのようにエンペルトが突入していく。
「ドラドーン、もう一度ダイヤブラストだ!」
エンペルトを薙ぎはらうべく、再びドラドーンの周囲に青白い光が迸るが、
「甘いですよ! エンペルト、冷凍ビーム!」
エンペルトは爆風を一気に突き抜け、ドラドーンの上を取っていた。
爆発が起こるよりも早く冷気の光線を撃ち出し、遂にドラドーンに直撃させ、輝く鱗を凍りつかせる。
氷技はドラドーンにとって最大の弱点。効果は抜群、ダメージは相当大きい。
「ぐっ、やはり麻痺で動きが鈍ったのは痛いか。状態異常如きで動じる私のポケモンではないが、やはり君のような実力者が相手ではな」
だが、最大の弱点であるはずの冷凍ビームを食らっても、まだドラドーンは倒れない。
身を震わせて体を覆う氷を砕き、低く唸る。
「そろそろ、隠していた最後の技を使う時か」
リュードウがそう呟くと同時。
ドラドーンの両手の宝玉が、眩い輝きを放つ。
「エンペルト、気をつけろ。何か、大技が来るぞ」
レオの言葉に頷き、翼を構えるエンペルト。
リュードウが、大きく息を吸う。
「ドラドーン、龍星群!」
刹那。
ドラドーンの宝玉の輝きが頂点に達し、上空にエネルギー弾が打ち上げられる。
龍の力を凝縮したエネルギーは上空で花火のように炸裂し、大輪の華のような形を作った無数の波動弾が、そのまま流星となって降り注ぐ。
「龍星群か……! これは躱せる技じゃない、エンペルト、ハイドロポンプ!」
無数の流星の輝きを見据え、エンペルトも荒れ狂う激流のような水流を放つ。
しかし無数の流星は激流を貫き、打ち破り、容赦なく地上のエンペルトを捉えた。
「くうっ、エンペルト!」
砂煙が晴れると、どうにかエンペルトはまだ立っていた。
大ダメージには変わらないが、それでもその瞳に宿る闘志は衰えていない。
だが。
「よくぞ耐え切った。それでは第二波を受けてみよ! ドラドーン、龍星群!」
リュードウの言葉が、今度こそレオとエンペルトに終焉を告げる。
あれだけの高威力の龍星群を、ドラドーンは反動もなく再び打ち上げる。
「エンペルト、覚悟を決めるぞ! こっちだって全力だ! ハイドロポンプ!」
逃げも隠れもせず、エンペルトは上を見上げる。
龍の力を込めた、無数の流星が再び降り注ぐ。
刹那。
エンペルトが放ったのは、轟音を上げて突き進む、激流の砲弾だった。
巨大な水の砲弾が、流星を次々と打ち破り、ドラドーンに命中、水蒸気爆発のように爆発を起こした。
「な……にぃ!?」
最大の大技を破られ、驚きを隠せないリュードウ。
「これは……!」
レオは図鑑を取り出し、今の技を調べる。
「ハイドロカノン……エンペルト、ハイドロカノンを覚えたのか!」
選ばれた水ポケモンのみが覚えられる水タイプ最強の技、ハイドロカノン。
それを、エンペルトはこの最高のタイミングで覚えたのだ。
「……驚いたぞ。40年以上人生を歩んで来たが、人とポケモンの絆にこれほど驚かされたはそう多くない。今の一撃、君とエンペルトとの固い絆があってこそ成せた技。見事だ」
レオを讃えた上で、しかし、とリュードウは続ける。
「まだ終わってはいない。私のドラドーンは、まだ沈んではいないぞ。最後は、最高の一撃で決着を付けようではないか」
「勿論です。こっちだって、元からそのつもりです」
レオの言葉を聞き、そうでなくてはな、とリュードウは頷く。
そして。
「ドラドーン、龍星群!」
「エンペルト、ハイドロカノン!」
ドラドーンの両手の宝玉が、爆発的な輝きを放つ。
龍の力を凝縮した光り輝くエネルギー弾が上空に打ち上げられ、炸裂すると共に、数多の流星が全てを焼き尽くさんと地上へ降り注ぐ。
対するエンペルトの口元が一瞬光り、開いた嘴を砲台に見立てて巨大な水の砲弾を作り上げる。
轟音と共に、荒れ狂う激流の砲弾が撃ち出され、巨大な龍を撃ち抜かんと突き進む。
だが、今のエンペルトはドラドーンにはないものを持っている。
特性、激流。自分の体力が残り少ない時、水タイプの技の威力を底上げする特性だ。
水の砲弾に次々に激突する龍の流星。しかしそれでも、砲弾を止めることは出来ない。
激流の砲弾がドラドーンに着弾し、大爆発を起こした。
「……お見事」
リュードウが小さく、満足気に呟く。
ドラドーンの巨体が床に墜落し、地響きを立てる。
巨大な神龍は、その力の全てを使い果たし、遂に戦闘不能となった。
「実にすばらしい戦いだった。私の五体の龍を乗り越え、自身を乗り越え、そして私を乗り越えた。何度でも言わせてもらおう。見事だったぞ」
「ありがとうございます。でもそれは僕だけの力じゃありません。エンペルトたちがいたからこそ、僕はここまで来れたんです」
「それが分かっているのならば充分だ。レオ、君は将来きっと大物になれる」
満足そうな笑みを浮かべ、リュードウは小さい綺麗な箱を取り出す。
中身は、8個目のジムバッジ。龍の横顔にYの文字を重ねたようなかたちをした、黄金のバッジだ。
「テンモンジムを突破した証、レグルスバッジだ。これで君はホクリク地方ポケモンリーグに出場する権利を獲得した」
「ありがとうございます!」
レオのバッジケースに、最後のバッジが填め込まれた。
レオがジムを出て行った後、リュードウはライブキャスターを起動させる。
「お久しぶりです。たった今、この間貴方が話していたトレーナーとジム戦をしました」
『そうか。どうだった? 9年前と同じものを感じなかったか?』
通話の相手は、ある男だ。声はリュードウよりずっと若い。
「ええ。こっちの感覚だけではない。彼の目の光や信念は、9年前の彼らとよく似ていた。懐かしいような、ほろ苦いよな、よく分からない感覚を覚えました」
『そうだろう。よもや俺たちがこういう立場に立つことになるなど、当時は考えもしなかったがな。特にお前の場合はな。そうだろう? ヤルタ。——いや、お前の今の名前は、リュードウだな』
その名前を聞き、リュードウは小さく笑う。
「懐かしい名前です。貴方が最後に残してくれた言葉のおかげで、私はこうして今こちらの立場に立てているのです、ザント様」
『いい加減その様付けをやめろ。俺はもうお前の上司じゃない』
「いいえ。私の中では、貴方は私にとって永遠に私のリーダーです」
『ふっ、お前がそれならそれでもいいか。まぁ勝手にしろ』
通話の向こうの男は、そう言ってほくそ笑む。
「では、そろそろ失礼します。こちらの一件が終わったら、久々に貴方に会いに行きますよ、他の面子も連れて」
『それは楽しみだ。じゃ、またその時に会おう。じゃあな』
「ええ。それでは、さようなら」
そして、通話は切れた。