二次創作小説(紙ほか)

Re: 第百六十九話 因縁 ( No.316 )
日時: 2016/05/13 09:18
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: MHTXF2/b)

リュードウが押したスイッチによって、建物内にいる全員にネオイビル襲来の通知が伝わる。
「おおっと、おいでなすったか!」
リョーマがニヤリと笑い、双眼鏡のある高台から飛び降りる。
その時、
「リョーマさん!」
テレジアが大声を上げる。
「どうした?」
「南の方角から、敵艦接近! 『ホエール』です!」
テレジアが叫んだ、次の瞬間。

建物全体が、大きく震撼する。

「なっ、なんだこりゃ!?」
「ま、まずいです! 『ホエール』が、砲撃を……きゃっ!」
再び揺れが起こり、テレジアがバランスを崩して高台から落ちる。
「やっべ! トロピウス、出て来い!」
咄嗟にリョーマはトロピウスを繰り出し、テレジアを何とか受け止める。
「……すいません、助かりました。いや、そんなことを言ってる場合じゃないです!」
「大体把握した。分かってたことだが奴らも容赦ねえな! こっちに砲撃して壁に穴開けて、直接攻め込もうって魂胆だろ!」
直後。

「御名答」

最上階の壁が破壊され、そこに一人の男が立つ。
無造作に跳ねた金髪。
橙色の軍服の上からでも分かる頑強な体を覆う、赤いマント。
輝天将トパズだ。
「『ブロック』副統率か。やはりお前がいるだろうと思ったよ。お前たちの中で我と戦える戦力がいるとすれば、それは副統率、お前だけだからな」
立ち振る舞いとその言葉だけで圧倒的な威圧感を相手に与えるトパズに対し、
「ハッ、名前で呼んでほしいもんだな。俺にはリョーマって名前があるんだからよ」
モンスターボールを手の中で弄ぶほどの余裕を見せながら、リョーマはそう返す。
「しっかし、メジストじゃなくてお前が来てくれて助かったわ。メジストが来た場合多少面倒くせえことになってたし」
何より、とリョーマは続け、
「お前が相手なら、久々にガチのガチで戦えるからな」
リョーマはニヤリと笑い、手にしたモンスターボールを構える。
「ふっ、『軍神』たる我にバトルを挑むか。その心意気だけは評価するが、天将で唯一覚醒率を自在に操る我に勝てるとでも思っているのか」
「お前こそ、俺を誰だと思ってんだ? 天下の『ブロック』副統率、『ブロック』で二番目に強い男だぜ?」
そしてトパズの方を見据えたまま、リョーマはテレジアの名を呼ぶ。
「テレジア、ここは俺一人で十分だ。仮に俺が負けたとして、こいつはお前が勝てる相手じゃねえ。下に行って、見回りの奴らに加勢してきな」
リョーマの指示にテレジアは頷き、階段を駆け下りて行った。
「準備は整ったようだな、では、始めるか」
刹那、トパズの瞳が金色に光り輝く。
同時に、トパズの首元に浮かび上がった龍の逆鱗のような黄金の模様が、爆発的な光を帯びる。
「『ブロック』二位が相手だ。パワーを制御する意味はないだろう」
「そうこなくっちゃな。例えお前が軍神でも、本気でかかってこねえと、俺様には勝てねえぜ?」
双方が戦闘態勢に入り、それぞれのポケモンを繰り出す。
「占領せよ、チリーン!」
「飛翔せよ、トロピウス!」


『ホエール』がテンモン支部に砲撃を仕掛けた理由は、トパズが直接最上階に侵攻するため、だけではない。
いくら強固な防衛力を持つ城であろうと、その側面に穴が空いてしまっていては、防衛力など何の役にも立たない。
つまり——
「おや、ホロ君。そちらの様子はどうでしたか?」
「今のところ、変な感じはしなかったぜ」
内部の見回りを行っている途中で、エフィシとホロが合流する。
「それにしてもよ、さっきの立て続けの揺れは何だったんだ?」
「先ほどリュードウ先生からの通知がありましたし、外で派手にやっているのかもしれません」
そこで、二人のライブキャスターがピピッと音を立てる。
「ん?」
エフィシがライブキャスターを起動させる。
内容はテレジアからのメッセージだ。
読んでいくうちに、エフィシの顔がどんどん険しくなっていく。
「……ホロ君。奴らは既に、この中に侵入している可能性があります」
「なんだって!? エフィシにーちゃん、どういうことだ!?」
「先ほどの連続の揺れ、あれはどうやら、ネオイビルがこちらに対して砲撃を仕掛けていたようです」
「ってことは、敵がそこから攻めてくるかもってことか!?」
ホロの慌てた声が響いた直後。

「「その通り」」

通路に、二人の重なった声が響く。
エフィシとホロが振り向くと、そこにいたのは一組の男女。
紙袋を被った白いドレスの女に、白黒の仮面を被った黒い燕尾服の男。
姉弟の直属護衛、キキとケケ。
「紙袋に仮面……お前たちは、破天将の直属護衛ですか」
「それにしても、いきなり敵に出くわすとは思っていなかったわね」
「まあ正面と頂上だけ固めて内部に誰もいないなんてあり得ねえだろ。遅かれ早かれ、戦うことにはなってるさ」
「それもそうね」
エフィシの言葉など聞こえていないように、姉と弟は話を進め、
「ま、そーいうわけでさ」
「私たちの相手をしてもらおうかしら」
怪しい笑いを浮かべた仮面と、無機質な紙袋がホロとエフィシを見据える。
「言われなくてもそのつもりです。ホロ君、貴方は紙袋の女の方をお願いします」
「オッケー。じゃあエフィシにーちゃんは仮面の方だな」
支部内の広い通路に、二人の『ブロック』と二人のネオイビルが対峙する。



「当時の貴様は、リーダー、そう呼ばれていたな」
唐突に、リュードウはそんな話を始める。
「あぁ?」
「あれは半年ほど前だったか。構成員の全員が何かしらで顔を隠しているのが特徴の、犯罪組織『ブラックアメジスト』。貴様はその頂点に立ち、多くのならず者たちを統制し、数々の事件を起こして社会を混乱させていた。それを潰したのは、私たち『ブロック』だ」
「ギャヒャヒャ! 何を話し出すかと思えば随分と懐かしい話を始めたなぁ? そうだ、『ブロック』のザコ共を俺様の能力でねじ伏せていく中、そこにお前が現れた。いやぁ、あれは驚かされたぜえ?」
リュードウの話を、自身の過去の聞き、メジストはいつもと変わらない高笑いを上げる。
「俺様の能力を知っていたお前は俺様に目もくれず、周りの俺の部下たちを殲滅。結果、当然と言うべきか、俺は敢え無く敗北。残っていた部下たちが決死でお前たちの前に立ち塞がり、俺を逃がしてくれたが、結果『ブラックアメジスト』は壊滅。構成員のほとんどは逮捕、俺——リーダーを含む十数名は行方不明。同時に、『ブロック』側も大打撃を受け、その責任を取って当時の総統率、リュードウは伝説のポケモン、テラキオンを手放し、辞任。ま、結果としてどっちもリーダーとしての立場を失ったわけだ」
「だが、その後は違う」
メジストの高笑いに動じることもなく、リュードウは言葉を続ける。
「私はその後、このテンモンシティのジムリーダーに任命された。この街を、多くの民を纏めるという役割を、再び持つこととなった」
だが、とさらにリュードウは話を続け、
「一方のお前は、半年間行方を眩まし、やがてネオイビルの隊の一隊長にまで落ちぶれた。貴様ほどの力があれば、組織の頂点に立つことも出来るだろうに。なあ、メジストよ。お前はなぜそんなところで燻っている。どうして更生して再び頂点を目指す道を捨て、人に従属してまで悪に染まり続ける道を選んだ。私には、それが——」

「ごちゃごちゃうるせえな、少し黙ってろよ」

メジストの口から、明確な怒りを込めた低い声が漏れる。
「俺をそこまで叩き落とした張本人が、何を偉そうに語ってんだ? 何が落ちぶれただ、何が人に従属する道を選んだだ。俺にそこまでさせる原因を作ったのは、お前だろうが!」
フードの奥に光る鋭い眼光が怒りに染まったのを、リュードウは見た。
「俺たち破天隊は十三人。その全員、かつての『ブラックアメジスト』のメンバーだ。マターの元に下ってフードに紋章を刻み込み、自らの顔に龍の顔の紋章を刻み込んでまでネオイビルに、マターに従っている理由なんざ一つしかねえ。世界を征服する? 新しい新世界を作り上げる? そんなことは俺にとっちゃ二の次だ。罪人に裁きを下すなんざ知ったことか、心底どうでもいい。俺はな、俺はなあ! 俺を犯罪グループとして生きさせるまで叩き落としたこのクソみたいな世界に、その世界で唯一自由に過ごせる場所を奪ったお前たちに、復讐を果たすためにここにいるんだよ!」
メジストのフードが吹き飛び、激怒を宿した瞳から黒い光が迸る。
同時に、メジストの顔に龍の顔のような黒い模様が浮かび上がる。
「この瞬間を待ってたぞ。お前と対峙する、この瞬間を! 絶望しろよ、クソ野郎。今度こそ、お前を、奈落の底へと叩き落としてやるぜ!」
壊れるほどに強くボールを握り締め、狂気を撒き散らし、メジストは叫ぶ。
「破天を喰らえ、ティラノス!」
次の瞬間。
メジストの切り札、暴君のティラノスが君臨する。
メジストの怒りに共鳴し、大地を揺るがす咆哮を上げ、半年前に見た宿敵を見下ろす。
「どうやら、私は何としても貴様にもう一度敗北を教えなければならないらしいな」
メジストの狂気にも臆さず、リュードウはボールを取り出す。
「今度こそ、貴様の目を覚まさせてやる。大地に臨め、コモラゴン!」
対するリュードウのポケモンはコモラゴン。
因縁の二人が、激突する。