二次創作小説(紙ほか)
- Re: 第百八十三話 昔話 ( No.335 )
- 日時: 2016/07/18 17:30
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
テンモンシティ上空を不気味に旋回する、戦艦『ホエール』。
その内部では、蒼天将ソライトが戦況を見守っていた。
「ソライト様! 破天将直属護衛の二人に続き、ブレイズさんも撃破されました! セキュリティシャッターを起動させ、足止めします!」
傍から、部下のシーアスが状況を報告して来る。
「よろしくお願いします。さて、これで建物内部の残りはラピスとトパズ。もっとも、トパズ一人さえ勝てば我々の勝ちですが」
そんな時、部屋のモニターにある男の顔が映る。
『ソライト、そっちはどんなもんだ。そろそろ決着が着く頃かと思うんだがよ』
連絡を取ってきたのは、碧天将セドニーだ。
「出撃した直属護衛は全員撃破されました。ラピスとトパズも、お互いに最後の一体です。もうすぐで決着が着くかと。そちらはどうです?」
『最低限の土台は完成、だけどそこからが難航してる。ただのアジト作りとはわけが違うからな、流石にこんだけ大掛かりなものを作るとなると、うちの隊だけじゃきつい。このペースで進んでも、後二ヶ月で仕上がるかどうかってとこだな。お前がいないと出来ないことが多くて辛いよ』
「そうですか。どの道こちらの戦いが終われば、後はそちらの作業を残すのみ。こちらが終わり次第、お手伝いしましょう」
『よろしく頼んだぜ。お前のその言い方だと、そっちも勝ち濃厚みたいだしな』
「ま、そうですね。それでは、また後ほど」
『おう』
セドニーとの通信は切れ、モニターは建物内部のものに切り替わる。
「セドニー様って、部下に優しすぎますよね。決めた作業時間以上の仕事は絶対させないみたいですし。私はガーネット様とかメジスト様みたいな悪のカリスマみたいな人の方が好みなんだけどなぁ」
「碧天隊の下っ端の待遇は七天隊の中でもトップクラスですからね。セドニーもロフトも下っ端に優しいですし、夜通し仕事をさせることもない。私や貴女と違って身分の低い下っ端たちなら、セドニーの隊で働きたいと思うのも納得だと思いますよ」
「そんなものなんですかねぇ」
「そんなものです。さて、今はこっちに集中しますよ」
そう言ってソライトはモニターに向き直る。
モニターに映るのは、
「貴様、家族に何か良からぬ縁があるらしいな」
唐突に、セイラがそんな話を始める。
「なによ突然。あたしの家族の話なんて、関係ないでしょう」
「昔話は嫌いか? 私は好きだぞ。昔の思い出に身を浸るのも、たまにはいいことだと思うがな」
「……死にたいのかしら」
明確に。
ラピスの口調が、変化する。
「その程度でビビるとでも?」
そしてそれを感じ取った上で、セイラの態度は変わらない。
「ふふ、そんなに怒るなよ。別に家族の話をしたいわけじゃない。そもそも私に家族などいないからな。私が話したいのは、過去についての話だ」
ただならぬ殺気を放つラピスを前にして、それでもセイラは続ける。
「貴様が自身の過去、そして今の立場をどう思っているかは分からん。だがもし闇の最深部を抜け出したい、少しでもそう思っているなら、一つアドバイスをやろうか」
そう語るセイラの瞳には、ラピスには無いものがあった。
灰色にくすんだ瞳だが、その中には確かに、明るい光が宿っていた。
「抜け出したければ、過去から目を背けるな。過去の自分、現在の自分を、全て受け入れろ。その上でなお自分を認めてくれる人がいるなら、その手を掴め。そいつの力を借りて、闇から這い上がれ。私は、そうやってここに戻って来た」
ふぅ、とラピスが息を吐く。
ラピスを纏う殺気が消えたのを、セイラは感じ取った。
「ありがた迷惑なお話、わざわざどうも」
「ふふ。所詮はお節介な先輩からのつまらんアドバイスだ。興味がなければ聞き流せ」
セイラが微笑を浮かべた。
かつてのシャウラであれば、絶対に浮かべないような優しい笑みを。
「そんなことより、バトルの途中よ」
「ふふ、そうだったな。続けるか」
静止していたお互いのポケモンが、再び動き出す。
「ネクロシア、シャドークロー」
「ヒョウカク、吹雪!」
ネクロシアが両手に黒い影を纏わせる。
両手を構え、音もなくヒョウカクへ忍び寄るが、対するヒョウカクは雪を乗せた暴風を起こしてまとめて周囲を吹き飛ばし、ネクロシアの接近を許さない。
「遠くからでも構わないわ。ネクロシア、サイコバレット」
ネクロシアの両手から影が消え、変わりに念力を纏う。
ネクロシアの操る念力は実体化して無数の念の弾となり、マシンガンのように一斉掃射される。
「ヒョウカク、守る!」
守りの結界がヒョウカクの周りを覆う。
直後に無数の銃弾がヒョウカクを襲うが、結界によって全て弾かれ、
「ハイドロポンプ!」
結界が消えた瞬間に、ヒョウカクは大量の水を噴き出して反撃。
「ネクロシア、スプラッシュ」
下半身の鎌を振り、ネクロシアは水柱のなかへ突っ込む。
水を纏った鋭い鎌でハイドロポンプを切り裂きながら突き進み、水飛沫を散らしながらの一振りでヒョウカクを吹き飛ばす。
「シャドークローよ」
「迎え撃つ。ドリルライナー!」
再び影の爪を携えて距離を詰めてくるネクロシアに対し、ヒョウカクはドリルの如く高速回転しながら突っ込んでいく。
「ネクロシア、受け止めなさい」
両手の影の爪でヒョウカクを挟み込み、ネクロシアは高速回転するヒョウカクを強引に受け止める。
「スプラッシュ」
「同じ手は通用しない。吹雪!」
ネクロシアの下半身の鎌が水を纏うが、先程と同じ手は受けない。
ヒョウカクが雪を乗せた暴風を起こし、ネクロシアを巻き込み、風に巻き上げて吹き飛ばしてしまった。
「ハイドロポンプ!」
上空へ打ち上げられたネクロシアに対してヒョウカクは太い水柱を噴き出し、ネクロシアに水柱を叩きつけて床へと叩き落とす。
「ふふ、先程より動きが鈍っているぞ。私の話で動揺でもしているのか?」
「……まさか。ネクロシア、ギガスパーク」
撃墜されたネクロシアはすぐに立ち上がり、両手に作り上げた電撃の砲弾を投げ付ける。
「ヒョウカク、ドリルライナー!」
角を伸ばしてドリルの如く高速回転し、ヒョウカクは尾ビレで床を蹴って跳ぶ。
「来るわね。ネクロシア、スプラッシュ」
電撃の砲弾は容易く貫通されてしまうが、そのすぐ後ろからネクロシアが水を纏った鋭い鎌を振り下ろす。
ドリルのような角の一撃と、振り下ろされる水の鎌が激突し、激しく競り合う。
「シャドークロー」
「守る!」
両手に影の爪を切る纏い、死神の鎌のように爪を振るネクロシアだが、ヒョウカクの生み出した守りの結界に突き刺さる。
さらに力を込めるネクロシアだが、結界に阻まれ、届かず、弾き返される。
「ッ……ネクロシア、サイコバレット!」
ラピスの声に力がこもる。
攻撃を弾かれたネクロシアの周囲に、無数の念力の弾が浮かび上がる。
「ヒョウカク、悪いが少々無理させるぞ。いけるか?」
ネクロシアに目線を向けたまま、ヒョウカクはセイラの言葉に頷く。
「よし。ヒョウカク、突っ込め! ドリルライナー!」
角を伸ばし、ドリルのように高速で回転しながら、ヒョウカクは突撃する。
無数の念力の銃弾が次々とヒョウカクに突き刺さるが、構わずヒョウカクはただネクロシア目掛けて突貫。
鋭い角の先端がネクロシアを捉え、吹き飛ばした。
「吹雪!」
間髪入れずに、ヒョウカクは雪を乗せた暴風を巻き起こす。
吹き飛ばされたネクロシアが風に飲まれ、風に巻き上げられ、さらにその体を氷漬けにされる。
「っ! ネクロシア……!」
風の檻から解放されたネクロシアが床に落ちる。
体の半分を凍らされたネクロシアは、既に戦闘不能となっていた。