二次創作小説(紙ほか)

Re: 第百八十五話 吉凶 ( No.337 )
日時: 2016/07/22 00:30
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)

「あ……がっ……!?」
胸が、苦しい。
足が震える。立っていられない。
アスカの体から力が失われ、膝から地面に崩れ落ちていく。
「あーあー、メジストの力がここまで広まってるとはね。『覚醒』を使うと力が強くなるって聞いたけど、本当だったのね」
ガーネットの言葉が、アスカの耳に入る。
だがガーネットを見上げられない。顔を上げる力も残されていない。
目線を移すのが、アスカが出来る精一杯の事だった。。
後ろの方を見れば、既に倒れて動かなくなっているライロウの姿。
そして、前方を見れば。

膝をつきつつも、必死にメジストに抗う、リュードウの姿。

「ギャヒャヒャヒャヒャ! あっれェ、もしかして言ってなかったかなぁ! 俺様のこの能力は、『覚醒』を使うとより強くなる事が最近分かったんだわ。だからさぁ、お前が俺の能力が効かないかもしれないってのは、あくまで昔の俺の話。今のこの状態の俺様の能力が効かないのは、それこそマターくらいだろ。ギャヒャヒャヒャヒャ、残念だったなぁ! かつての宿敵に身も心も削り取られる気分はどうだ?ギャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
薄れ行くアスカの耳に、最後に入ったのは。
ただひたすらに笑い続ける、メジストの声だった。


「リョーマ!」
「リョーマさん!」
レオたちが展望台に駆けつけた時には、既に遅かった。
リョーマがただ呆然と立ち尽くし、その向かい側には、トパズと、本物の三つの宝石を手にしたブレイズの姿。
そして、トパズのすぐ後ろに立つ、マカドゥス。
「っ! トパズ!」
レオがそう叫び、モンスターボールに手を掛けるが、
「動くなよ」
トパズがそう言い放つと、一瞬でマカドゥスがレオの後ろに回り、牙をレオの首元に、爪をエフィシとホロの首元に押し当てる。
「くっ……」
「安心しろ。抵抗しなければ危害は加えない。間もなく、ソライトが迎えに来る」
その時。
開けられた壁の穴から、飛行ユニットを取り付けたソライトのジバコイルが現れる。
「それでは、さらばだ」
トパズとブレイズはジバコイルに乗り、マカドゥスを戻すと、悠々と飛び去っていった。


「テレジア!」
通路の奥、階段の隅で眠らされていたテレジアに、リョーマが駆け寄る。
「テレジア、大丈夫か! おい! テレジア!」
テレジアを抱え、体を揺さぶる。
「ん……リョーマ……さん……?」
ゆっくりと目を開き、テレジアが目を覚ます。
「ごめん……なさい。守れ……ませんでした」
「俺こそ、済まなかった。大事な部下一人守る事ができないで、何が副統率だ……!」
リョーマがここまで思い悩む様子を見たのは、テレジアでも初めてだった。
「リョーマ。とりあえず、現状の報告を」
「……ああ。そうだな」
エフィシがリョーマに呼び掛ける。
リョーマの口調に、いつもの覇気は無かった。


会議室の空気は、とても重かった。
「アスカさんとリュードウ先生は、病院へ送られました。幸い、二人とも命に別状はないようです。リュードウ先生はまだ目を覚まさないようですが、アスカさんは既に意識を取り戻しています」
エフィシが、屋外で戦っていた二人について報告する。
「……ちょっと待て。ライロウはどうした」
「ライロウさんなんですが」
リョーマの質問に、エフィシが答える。
「まず最初にアスカさんに異変が生じたらしく、その正体にいち早く気付いたライロウさんは戦闘の意思を捨て、自ら倒れるふりをしたそうです。そのおかげで、メジストの能力の餌食にならずに済んだと。ライロウさんはメジストとガーネットの会話を全て聞き取ったそうです。奴らの話によると、次にネオイビルが動くのは、早くて一ヶ月は先だと。そして、次の作戦が最終段階だと」
「……なるほど。ライロウ、よくやってくれた。さて、次は俺の番か」
覇気をなくしたリョーマが、口を開く。
「お前たちが見ていた通りだ。俺はトパズに負けた。俺の作戦も見切られ、宝玉は奴らに奪われた。本当に済まねえ。俺のせいだ。俺がもう少し強ければ、俺が、もう少ししっかりしていれば……」
「そこまでだ」
リョーマの言葉を中断させたのは、セイラだった。
「起こってしまったことを責めても、何の解決にもならないぞ。悔やむ気持ちは分かるが、ここから何をすべきかが重要なんじゃないのか。幸い、吉報が一つもないわけじゃない。奴らが次に動くのは早くとも一ヶ月なんだろう? つまり、最低一ヶ月間は時間があるということだ。まだ、私たちにはやれることが残ってるはずだ」
「っ……ああ、そうだな。済まなかった」
その時。
「会議中失礼します。リョーマさんたちに、お客様です」
『ブロック』構成員の一人が、会議室に現れた。
「お客様?」
「はい。外で待ってもらっていますが、どうしますか」
「分かった。ここに入れてくれ」
「了解です。それでは、お入りください」
構成員に促され、一人の人物が部屋の中に入ってくる。
長い緑髪を後ろで括った、かなりがたいのいい男性だ。
赤いマントを羽織っており、着ている緑の服はまるで海賊のようにも見える。
さらに、本物かどうかは分からないが剣を差しており、首には蛇のネックレス、耳には派手なピアス。右手の人差し指には獅子の紋章の入った指輪を付けている。
そして。
誰もがこの人物を知っていた。
直接見た者はいないが、テレビで何度も見たことがあるほどの有名人だ。
「あ、あんたは……」
皆が驚きを隠せない中、リョーマが口を開く。

「ホクリク地方チャンピオン、リカルド!」

リカルドと呼ばれた男は、小さく頷く。
「全員、俺のことを知っているようだな。ならば話は早い」
その男、リカルドは皆の方を向き、話し出す。
「改めて自己紹介をしよう。俺はこの地方のチャンピオンを任されている、リカルドだ。今日は、『ブロック』のメンバーたちに伝えたいことがあって来た」
奇抜な外見と違って、リカルドの口調は雄弁だ。
「ネオイビルの脅威、暴力性を、我々ポケモンリーグ本部としても、そろそろ黙って見ていることは出来なくなってきた。そこで」
リカルドは、そこで一旦言葉を切る。

「只今を持って、ホクリク地方全てのジムを、一時的に閉鎖する」

そして。さらに。

「ホクリク地方ジムリーダー、四天王、及びチャンピオンはこれより、『ブロック』と正式に手を組む。ネオイビル壊滅のために、我らが力を貸そう」

「……! 本当ですか!」
ガタン! と音を立て、リョーマが立ち上がった。
「ああ。俺たちとしても、これ以上奴らを野放しにするわけにはいかない。奴らに勝てる可能性があるのは、我らリーグ本部の人間、そして『ブロック』だけだ。俺たちポケモンリーグの人間、及びジムリーダーが、お前たちの特訓に協力しよう」
「ありがとうございます。ジムリーダーに四天王、チャンピオンが協力してくださるとなれば、とても心強い。よろしくお願いします!」
リカルドとリョーマがそれぞれ進み出て、硬い握手を交わす。
これを持って。
ポケモンリーグ本部と『ブロック』が、公式的に手を組むこととなった。


その後のリョーマとリカルドの提案によって、ネオイビルが動き出すまでの一ヶ月間、レオたちはネオイビルに関しての情報収集もしつつ、ジムリーダーやチャンピオンと共にポケモンを鍛えることとなった。
しかし、
「トゲキッス、そろそろ着くよ。高度を下げてくれ」
レオには、特訓に当たって、どうしても会いたい人物がいた。
レオを乗せて空を飛ぶトゲキッスに指示を出し、着地の準備をさせる。
そして、その人物とは。

「レオ、おかえり。元気そうだな」

目を引くのは、獅子の鬣のような橙の髪。
ホクリク地方のポケモン博士にして、元々は凄腕のトレーナー。
レオの父親、ライオだった。