二次創作小説(紙ほか)
- Re: 第二百十八話 基地 ( No.383 )
- 日時: 2016/09/10 09:05
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: V5tgsXsQ)
- プロフ: ネタバレを避けるため、>>0のタイトルは「N・E団編」とします
「セドニー様……」
誰かが自分を呼ぶ声が、頭の中に響く。
「セドニー様!」
「!?」
次の一言で、はっとセドニーは我に帰る。
自分を呼ぶ声の主は、自らの直属護衛、ロフトだ。
傍にいるサーナイトも、心配そうにセドニーの顔を見る。
「大丈夫ですか、セドニー様。心ここに在らず、そんな感じでしたよ」
「……あぁ、悪りい。ちょっと考え事をしてただけだ。それで、どうしたんだ?」
「そろそろ、作業終了時間五分前です。碧天隊を引き上げてもよろしいですか」
セドニーが空を見上げれば、もう夕暮れ時だ。
「そうだな。それじゃ、今日の仕事は終わりだ。ソライトに伝えてくるから、お前は隊を撤収させてくれ」
「了解です」
ロフトは敬礼し、去っていく。
セドニーはサーナイトの頭を撫で、通信機を起動させると、通話をソライトに繋げる。
「おうソライト。セドニーだ。そろそろ時間だから、碧天隊は撤収させるぜ。ロフトと俺はもう少し残ってるから、手伝うことがあったら言ってくれ」
『おや、もうそんな時間ですか。そうですね、今のこちらの作業は専門職の者でないと恐らく仕事になりませんから、貴方も休んで構いませんよ』
「それじゃ、すまないが後よろしく頼んだぜ。建設だけならうちの隊で楽勝なんだが、複雑な調査やら分析やらは俺じゃさっぱりだ。やっぱお前がやるのが適任だな」
『蛇の道は蛇というものです。これくらいはお安い御用ですよ。セドニーこそ、今日もお疲れ様でした』
そして通話は切れる。
「っし、じゃあ今日の仕事は終わりか。サーナイト、お前もお疲れさん。休んでてな」
もう一度サーナイトの頭を撫でると、セドニーはモンスターボールを取り出し、サーナイトをボールへと戻す。
いつの間にやら碧天隊は早くも撤収しており、ロフトがセドニーの元へ戻って来る。
「おうロフト、ありがとな。ソライトに聞いたが、俺たちが今日やることはもうないぜ」
「了解です。それでは、今日の仕事はこれで終わりということですか」
「そーゆーこった。いつもお前には残業させちまってるし、今日くらいはゆっくり休みな。明日は——」
「でしたら」
セドニーの言葉を遮って、ロフトが口を開く。
「少し話でもしませんか。他愛もない世間話で構いません。一人で休むより、その方が落ち着きます」
普段から真面目で寡黙なロフトにしては、珍しい申し出だ。
「あん? あぁ、俺もこの後は暇だし、構わねえぜ。んじゃとりあえず、基地に戻るか」
予想していなかった申し出にセドニーは少し驚くが、ロフトに対しては好意的なので特に面倒がることもない。
何故こんなものが作られているのかは不明だが、ネオイビルの基地には静かな喫茶店とバーを足して二で割ったようなスペースが存在している。
緋天将直属護衛ブレイズがそのスペースを管理していること、ガーネットの部屋が近くにあることから、空いたスペースにガーネットが趣味で作らせたのではないかと噂されているが、それはさて置き。
ブレイズを除けば、今この空間にはロフトとセドニーの二人しかいない。
「で、話ってなんだ?」
「いえ、特に大事な用事というわけでもなく、単にしばらく話をしたいだけです」
ロフトの言葉に、そーかい、とセドニーは返す。
「まぁでも確かに、任務中に話すことはあったけど、お前とプライベートで話すことってあんまりなかったな。いつもお前には感謝してるぜ。天将として言っちゃいけねえかもしれねえが、正直一人で隊を束ねる自信はねえからよ」
「リーダーを支えるのが参謀の仕事です。それに、セドニー様のことを力不足だと思ったことも一度もありません」
表情は相変わらず真面目なままだが、優しい口調でロフトはそう返す。
「他の部下たちも皆そう言っていますよ。やっぱりセドニー様が隊長でよかったって」
「そりゃあ、比較対象が緋天隊やら輝天隊だからな……トパズはともかく、特にガーネットはあそこまで部下に厳しくする必要もないと思うんだがな。あいつ自身は別に嫌いじゃねえんだけどよ」
遠くでグラスを整理するブレイズに聞こえないように、後半は小さい声で話すセドニー。
「人を動かす方法は二つです。飴と鞭のうち、飴を多くするか鞭を多くするか。セドニー様は飴を多く与え、ガーネット様は鞭を多く与える。どちらも間違いではありません」
「ほー、俺には分からんぜ。恐怖で部下を縛り付けるだけじゃねえか」
「人にもよりますが、特に上司が実力者であればその方法は使えます。下手に飴を与えすぎると、上司が部下に甘く見られる恐れもある。セドニー様はそういう訳ではありませんけどね」
セドニーにはよくわからない世界だ。やはり自分はリーダーには向いてない気がする。
ロフトを直属護衛にして心底よかった、そう思いつつ、セドニーはロフトの話に耳を傾ける。
「ところでセドニー様、これは素朴な疑問なのですが」
「あぁ、何だ?」
特に何ということもなくセドニーは聞き返すが、ロフトが珍しく言いよどんでいるようで中々口を開かない。
「あん? どうしたんだよ、別に何聞いても怒らねえぜ?」
怪訝な様子でセドニーがさらに尋ねると、ロフトは極めて珍しいことに少し赤面しながら、
「……あの、ポケモン……というか、手持ちのサーナイトに、恋? してしまったのは、どいつから……なんですか?」
流石に上司にこのようなことを聞くのは気が引けるのか、言葉を詰まらせながらそう言った。
それに対して、
「あぁ。ラルトスが俺のポケモンになったその瞬間からだぜ」
あっさり過ぎるほど素直にセドニーは答えた。
「そ、そうなんですか」
あまりにもあっさり返されたため、ロフトは拍子抜けにそう返す。
「つかそんなこと聞いてどうすんだよ?」
「いえ、ですから素朴な疑問です。ただ、ポケモンに恋するというのが、申し訳ないのですが私には理解出来なかったので……」
「休暇を得たら一度シンオウ地方のミオ図書館に行ってくるといい。昔は人と結婚したポケモンがいたらしいぞ、今それを起こしても不思議じゃないだろ?」
ニヤリと笑って、冗談交じりにセドニーはそう返すが、
「……俺の手持ちの中でな、サーナイトとバジリールはネオイビル、いやイビルに入る前から一緒にいたポケモンだ。この二体には大事な思い出があってよ。バジリールもそうだが、俺はサーナイトを守んなきゃいけねえんだ。守んなきゃいけねえ理由があるんだ」
次に言葉を発した時には、セドニーはいつになく真剣味を帯びた顔になっていた。
「そうなんですか……」
「ま、話すとバカみたいに長くなるから、今は話せねえけどな。今の仕事が終わって時間があったら、その時にでも話してやるよ」
それにしても、とセドニーは話を変え、
「今日はやけにお喋りだな、ロフト。何かあったか?」
「え? あ、いえ。ただ先ほども仰っていたように、セドニー様とはあまりこのような話をしたことがなかったので。それに……」
ロフトは一旦言葉を切り、
「……あまりこういうことを言ってはいけないのかもしれませんが、この機会を逃すともう話せないような気がしたので。最近はセドニー様だけでなく、他の天将の方々も忙しそうにしてらっしゃいますし」
「……まあな。他の連中も薄々気付いてるんだろ、この組織もそろそろ潮時だってな。次の戦いが最終決戦、そこで負けりゃネオイビルは終わりだし、もし勝ったとしても新世界を創るのはマター。そこに俺たちが必要なのか、正直なところその保証はないからな」
そればっかりは分からんな、とセドニーは続ける。
その時、
「あら。こんな時間にあんたがここにいるなんて、珍しいじゃないの」
現れたのは、先ほど話に上がっていた緋天将。
「おう、ガーネットか。部下との憩いの時間を過ごしてるところだぜ」
セドニーが手を振り、ロフトは軽く会釈する。
「悪いんだけど、ブレイズを借りたいの。ここにいる分にはいいんだけど、消灯とかお願いしてもいいかしら?」
「あぁ、構わんぜ……いや、うちらももう出るわ。ロフト、行くぞ」
「了解しました」
セドニーは独断で決めてしまうが、ロフトもそれに反論することはせず、席を立つ。
「そう? 別に無理に私に合わせてくれなくてもいいんだけど……まぁいいか。それじゃセドニー、ロフト、おやすみ」
「おうよ、また明日な」
「おやすみなさい」
ガーネットは小さく微笑むと、ブレイズを連れて部屋へと戻っていく。
「さぁて、明日からの作業も山盛りだし、俺たちも部屋に——」
「すいません。もう一つだけ、よろしいでしょうか」
セドニーの言葉を、ロフトは再び遮った。
「あん? どうした?」
またも怪訝な様子でセドニーは尋ねる。
対して、ロフトはこう言った。
「私とバトルしていただけませんか?」