二次創作小説(紙ほか)
- Re: 第二百二十一話 紛争 ( No.386 )
- 日時: 2016/09/16 11:14
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: 5wdlXp6k)
(大切なポケモンを傷つけたくない、そう本気で思っているなら、どうしてお前はそっちの道に進んだんだ! 他に道はなかったのかよ!)
あの日以来、あの時戦った少年の声が、脳内にずっと響いて離れない。
(お前の過去に何があったかを僕は知らない。でもさ、不幸であることの辛さをよく知っているお前が、どうして人に不幸を与える側にいるんだよ。不幸を知る人間は、それを食い止めなけりゃいけないんじゃねえのかよ!)
自分の行動と彼の言葉、もはやどちらが正しいのかも分からない。
分かったことは、たった二つ。
少なくとも彼の道は間違っていないということ。
そして。
その彼に、自分の生き方を全否定されてしまった、ということ。
「……ねえ、僕はどうすればよかったの? どうすれば幸せになれるの? 誰か、教えてよ……!」
「失礼するぞ」
蒼天将ソライトが管理する、研究施設。
その一室に入って来た人物は、『軍神』こと輝天将トパズだ。
「いらっしゃいませ……おや、貴方がここに来るとは珍しい。てっきりシーアスが戻って来たのかと思いましたが」
トパズに気づいたソライトが振り向く。
「直接私の部屋まで来るということは、それなりに重要な要件なのでしょう。何かありましたか?」
「シーアスなら先ほどすれ違ったぞ。要件と言っても、完全に我個人の要件でな。忙しければ後でもいいのだが」
「構いませんよ。ちょうど休憩を取っていたところですし、人と話すのもいい気分転換になります」
そう言いながら、ソライトは手にしていた紅茶のカップを置く。
「そうか。ならば早速だ」
近くに椅子があるが座ろうとはせず、トパズは立ったまま要件を告げる。
「マツリの過去について、詳細を知りたい」
トパズの言葉を聞いたソライトが、小さく息を吐く。
「……やはりですか。正直、彼関係の話だとは思っていました」
「なら話は早いな。ヨザクラでライオの息子と戦った辺りから、マツリの様子が明らかにおかしい。おそらくバトル中に何かあったのだろうが、我も我でバトル中だったからな、その様子までは見れなかった」
「あの時ですか。一応、穴を開けた上空からバトル映像は撮っていますが、距離が距離でしたからね。全ての音声は拾えていないかと」
「あの精神状態では直接話を聞くことも出来ん。だからとりあえず、マツリの過去だけでも知ろうかと思ってここに来た次第だ。直属護衛があれでは、部下の士気も下がりかねん」
最近のマツリは、明らかに異常なのだ。
自室に蹲り、何かを呟きながら震えているばかり。
直属護衛どころか、単純な戦力としての任務すら出来ないような状態。
テンモンシティでの戦いでマツリを使えなかったのもそのためだ。金庫の鍵を奪う役としてブレイズに白羽の矢が立ったのも、マツリを動員出来なかったからだ。
「マツリを部下として拾った時、あいつは紛争地で一人露頭に迷っていた状態だった。過去を聞こうとしたのだがそれだけで震え上がった」
「なるほど。そうなれば、私が話すしかなさそうですね」
ふう、ともう一度息を吐き、ソライトはトパズの顔を見上げる。
「貴方がマツリを拾う少し前、彼は宗教団体の紛争に巻き込まれ、目の前で親を亡くしています」
トパズの表情が僅かに厳しくなる。
「その紛争は……確か我が軍が潰したものだな」
「ええ。過激派の宗教同士の紛争です。どちらも危険思想を持つ宗教団体でしたから、規模が膨れ上がると厄介だという理由で半年ほど前に貴方が鎮圧した、あれです」
その時のことはトパズもよく覚えている。
半年ほど前、星座神話を信仰するとある二つの宗教団体同士で紛争があった。
ネオイビルの目的はその星座神話を復活させ、神の力でもって世界を断罪すること。その規模が大きくなれば、ネオイビルの目的達成の障害になり得るとして、マターからトパズへと鎮圧命令が下されたのだ。
輝天隊はその紛争に割り込み、一般人への被害は最低限に抑えつつ、あっという間にその二つの宗教団体を壊滅に追い込んだ。
「ネオイビルにも家族を失ったものは多いですが、彼はそれだけでなく、環境も最悪だったのでしょうね」
「我やお前は自ら家族との繋がりを絶った人間だからな。我らには分からぬ苦しみというものか」
「それだけではありません。例えばセドニーも戦争で家族を失っていますが、彼には守るべきものがあった。ロフトは物心がついた頃にはもう家族はおらず、それが当たり前の環境。ガーネットには同じ境遇の仲間がいましたし、メジストに至っては家族がいなくなった方がより好き勝手できる力を持っていた。守りたいものも特別な力もなく、他に仲間もいなかったマツリにとっては、家族を失ったという現実は何よりも辛いものでしょう。貴方に拾われていなかったら、それこそ近いうちに野垂れ死んでいたことでしょうね」
ただ、とソライトは続け、
「思想的には、彼はネオイビル寄りです。マター様の目的は、アスフィアの力で全ての人間に裁きを下し、悪のない新世界を創造すること」
「……なるほど。戦争はまごう事なき悪。争いの絶えないこの世界を終わらせ、新しい平和な世界に変えてほしい、そういうことか」
「ええ。そして間違いなく、マター様とマツリの考える新世界は違います。マツリは全ての人間が幸福に過ごせる世界を考えているのでしょう。しかしマター様は、この世界の全ての人間を葬り去るつもりです。というか一年前実際にそうでした。世界を平和にするためなら平和を司るロイツァーの力を使えばいいはずなのに、マター様は恐怖を司るガタノアの力を狙った。貴方が加入する前の出来事ですので、貴方はあまり詳しくないかもしれませんが」
「世界を変えるではなく、新世界を創る、か。あの男にとっては、この世界など滅ぼす対象でしかないということだな」
「実際のところ、そういうことです。ネオイビルの目的は、自身を悪だと気付かないこの世界の全ての人間に裁きを下すこと。そして、自身を悪だと思っている人間など、ほんの一握りですからね」
「……常人では、到底その思考には辿り着かないだろうな。そもそも、自身を悪と認識してそれでも生きていける我らの方が異端なのかもしれないな」
さて、とトパズは続け、
「休憩中に済まなかったな。感謝するぞ、ソライト。我はマツリのところへ行く。話をする必要があるようだからな」
「いえいえ、このくらいお安い御用です。決戦の時はもうすぐですから、貴方もあまり思い詰めることのなきよう。あまりに思い詰めると、戦闘に響きますよ」
「我を誰だと思っている。『軍神』たる我に、戦闘に関する心配など無用ぞ」
「ふふふ、そうでしたね。それでは」
部屋を出て行くトパズを、ソライトは小さく笑みを浮かべて見送った。